お仕事
ふふっ、今イリナと共に校内を歩く放課後。デートですか?違います、学校の案内をしているのです。ぐふふ!美人と並んで学校を歩きたいが為に、人前に出るのが苦手なのに生徒会長に立候補したといっても過言ではない。何も知らない女子転入生にスタイリッシュに学校のことを説明をする…………なんて素晴らしい男の夢なのだ。
「あのー、ミフィーくん。この教室はなんですか?」
……………ミフィー、それは昼休みにつけられた俺の不本意なあだ名。もっと勇ましいものが良かったが、そもそも狩虎なんて俺の本名を超える勇ましいあだ名などない!…………俺にとってあだ名とは、俺をダサくするだけのものだと1時間前に気がついてしまった。
「ああ、ここか?ここが校内説明の終着駅だ。ここは…………………」
がららっ!扉を勢い良く開ける
「生徒会室さ!」
バンッ!扉が壁にぶつかる
…………決まったな。これは最高に決まったな!これも成功させる為に昨日家に帰ってからどれだけ練習したことか!やり過ぎて家族に怒られたぐらいだ!
ここは生徒会室。俺がどんな場所で仕事をしているかを見せつ、ここで休憩する為に最後に寄ったのだ。あとは私的理由もあるのだが………
「…………会長。うるさいです」
扉の目の前の席から声が聞こえる。抑揚のない、本当にうるさかったのかどうかも分からない様な全くもって感情のない言葉が彼女の口から紡がれた。
彼女は1年生の原田雪さん。短めの髪。身長も小柄でこの生徒会のマスコット的な立ち位置だ。名前に違わず彼女は全く外にでないので肌が真っ白。きっと彼女は日焼けしないタイプに違いない。それに比べて俺は黒いという程ではないが白くはない。学校の登下校だけで少し日に焼ける………なんでなんだろうなー、遺伝かな?
「うるさいですね。生徒会長ならもっと生徒会長らしい行動をとってください。」
そしてこのこ生意気に反論してくる彼は翔石飛也くん。1年生だ。名前からして運動が出来そうだが全く出来ない。その上眼鏡である。眼鏡…………それは掛けるだけでまるで勉強が出来るというイメージを付加させるもの。そしてこの飛也くんはそのイメージ通りに勉強が出来る。しかもなんでも知っていて、この学校の雑学王だ。
「あっはっはっ!確かにうるさいな!罰として関節を逆向きに曲げてやるからちょっと来い!」
んで、この凶悪な発言をしているのが副会長の相内宏海2年生。女子である。そして俺の幼馴染だ。そしてそして、俺の数少ないタメ口で話せる女子である。………さて、宏海の喋り方を聞いて少しでも「こいつ男だよな?」と思った人は恥ずかしがらなくてもいい。正直に言うと俺も高校に入るまでこいつのことを男だと思っていた。
確かに今は髪が長くてスカートを履いているが、宏海は小学生の時は常にジャージだったし、中学生の時の制服はスカートじゃなくてズボンを履いていた。どうやら許可さえもらえればスカートじゃなくてズボンを履いて登校することは出来るらしい。高校に入って初めて知ったことだけどね。しかも、俺はこいつと同じクラスになったことがない。だから宿泊学習や修学旅行などのイベントもバラバラだったので気づきようがなかった。「あれーー?風呂に来てねーな。タイミング悪かったんかな?」みたいなね。……………いや、まぁそりゃあね?全校集会の時とかに探して見ていたらある程度は疑問に思って女子だとはわかっていたと思う。でも、俺には男友達を必死に探して凝視するという趣味はなかったのでそうはならなかった。それに小学生の頃の俺は前から2〜6番目をうろちょろするほど小さかったから、いつも最後尾にいる宏美を見るためには思いっきり体を後ろに向けなくてはいけなかったのだ。…………俺って真面目だからね、そういうのできなかったのよ。
そんなこんなで男だと思いながら、高校の入学ガイダンスに行く時に宏海と待ち合わせをしたときには本当に驚いた。だって男だと思ってる奴がスカートを履いてるんだもん。思わず、「え?学校に女装して行っていいの?」って聞いてしまい30分間俺の意識が飛んでいたのは忘れられない……………激しかったぜ、奴の上段蹴りは。
「いや、関節を逆向きにされるのは勘弁だな。それと、うるさくしたのは悪かった本当にごめんなさい。」
謝っておく。ここは潔く謝るに限る。こいつにテキトウな言い訳をしたら死にかねない。
「実は!転入生の彼女にこの学校の説明をしていたのです!」
ビシ!
教室を眺めていたイリナを指差す!
「あ、えっえーっと。イリナ=ヘリエルと言います。よろしくお願いします。」
「な、なんだっ!この可愛い子は!狩虎、お前だけ1人で楽しみやがって!あとで私に貸すんだ!」
「先輩だけずるいです。私も楽しみたいです。あんなことやこんなことをしてみたいです」
「あなたたち、それ以上のことを言ったら警察に通報しますからね。考えるのはいいですけど言ったり行動に移すのはやめてください。」
宏海はともかく、まさか雪さんがこのての話に食いつくとは思ってもみなかった。て言うかちょっと待て。
「おいおいおい、お前らにイリナさんを渡すわけないだろ?渡したとしても俺もその話に混ぜろ。お前らだけで楽しむのはずるいぞ!」
ぺちん。翔石君に突っ込まれる。ふっ、イリナの殺人ツッコミを食らっている俺がこんなヘナチョコなツッコミに動じると思っているのか?
俺は構わず話を続ける。
「まぁまず、手始めに写真を撮ろうか。制服姿に体操着姿。和服もいいなー…………あとは、み、みみ、みっ水着!とかもいいよな。」
「はぁ、狩虎。お前にはがっかりだよ。水着?そんなのいつでも見れるだろ。そうじゃないだろ!水着よりももっと尊い物があるだろ!スクール水着とか!巫女装束とか!あとはエプロン………だよな。」
どうやら宏海にはエプロンに対して並々ならぬ思いがあるようだ。顔を上に向けホッコリとした顔をしている
「ごめん。宏海…………俺、俺ぇぇ。忘れてたよ。何が大事かを、何が尊いかを…………危うく道を踏み外してしまうところだった。本当にありがとう。お前は命の恩人だよ。」
俺は泣きながら感謝を言う。
「……麦わら帽子に白ワンピースを忘れたらいけません。」
雪さんが言う。
おぉ!こ、この子は!確かに、この典型的と言えば典型的な麦わら帽子に白ワンピース。だけど、典型的だからこそ。ありがちだからこそそれには大きな、いや、偉大な魅力が含まれている。それをこの子はわかっていやがる!雪さん侮り難し!……しかもシンプルにイリナのそういう姿を見てみたい!
「た、確かに!それも外せないよな!それじゃあ他には…………」
スパーン!
あ、頭が首から巣立って空へと飛び立ちそうになる衝撃がはしる!……………この音は。叩いた時にこんな景気のいい音を出せるやつは。俺が知っている中で1人しかいない。
後ろを振り返るとイリナさんが微笑みながら立っている。
「おお、やっと自分の羞恥という名の殻を破ることが出来たようですね。おめでとう、これで君はまた一歩新たな道へと進むことが出来たのだと思うと俺は感激せずにはいられないですよ。」
「そんな戯言はどうでもいいですから、今言ったことは絶対に行動に移さないと誓って下さい。」
「それは出来ない相談だ。イリナさん………あなたはもっとも尊い儀式をやめさせようとしているんですよ?例え俺が中止したとしてもこれは既に決められた定め。確実にあなたの身に降りかかる受難です。もしあなたがこの試練から逃げてしまったら天は地球温暖化を加速させてしまうでしょう。だからあなたがどう言お………」
「わかりました。つまりあなたを地球温暖化防止のために細切れにして畑に埋めてあげればこの試練を乗り越えることが出来るのですね。」
………え?いや、捉え方が違う!なんだよその怖い発想は!
「いや!違う違う違う!そういうことじゃないから!俺の言いたいことと全く違うから!」
「仕方ありませんね。地球の為ですものね。確か家庭科室はあっちに……………」
あぁああ!さっき学校説明をしてしまったばっかりに包丁がある家庭科室の位置が割れている!いやぁあ!教えなきゃよかったぁぁあ!
「ちょっと待ってくださいイリナさん!いや、神様・女神様!俺が悪かったですから!考え直……………あぁ!行かないで!家庭科室に行こうとしないで!」
イリナの腕にすがりつきながら許しをこう。
「……………仕方ないですね。あなたの為に地球を見捨てましょう。いやはや、なんて重たい選択なのでしょうか……………あなたを助けたが為に地球が危機に瀕するなんて………………」
「私めの為に地球を犠牲にして頂き誠にありがとうございます。ですが、私個人の考えとしては地球を犠牲にしたのは許されることではな……………」
「よし!家庭科室に行ってきますね!」
「ちょっと待ってくださーーい!調子に乗ってました!本当にすいませんでした!お願いだから行かないで!」
5分後___
俺は今生徒会室で正座をさせられている。
……………おかしいな………俺は生徒会長のはずなんだけどな………
そして俺の後ろで2人、宏海と雪さんは翔石君に説教をされている。
もちろん2人は正座ではないがこっぴどく叱られている。
あの後、俺はイリナに軽く絞られ目の前で正座をさせられている。当のイリナはと言えば顔こそ笑っているが手の方を見てみると血管が浮き出るほど拳を握りしめていた。殴る準備万端だよ!って手の血管が言ってる。
「ミフィーくん。私はそこまで怒りたくないんですよ。わかりますか?私の言ってることがわかりますか?つまり今回はあれだけでやめておきましたけど、次回からは無いですからね。仏の顔も三度までと言われてますけど私の場合は三度もありませんから。一度までしか許容できませんから」
イリナさんはにこやかに言う。まるで仏の様に。だが、あいつは仏などでは無い。俺は絶対に認めない!あいつはきっと阿修羅だ!悪魔だ!よく言うだろ?悪魔は天使にしか見えないって……………だからきっと自称天使ことイリナは悪魔に決まっている!殴られた俺の体の節々がそう言っている!
「…………そうっすね。さすがは仏のイリナ様、寛大でいらっしゃる。さっきの罰もあれだけで許して頂けましたし。やっぱ仏は違うなぁ。」
何があれだけだ。いまだに俺の体は悲鳴をあげてるぞ。こんな体で家まで帰れるかと言うとかなり不安だ。
「……それでミフィー君。最後にここに寄った理由はなんですか?教えてください。」
ふぅ!やっと本題だ。ここに来るまでに宏海のバカや雪さんの妨害がありかなり時間が掛かってしまった。え?俺が抜けてるって?俺は常にストーリー優先で進めてたよ?
「最後にここに寄ったのは他でもない。生徒会に補助として入ってもらいたいんだ。最近受験シーズンが近づいてきたからなのかストレスを貯めてる奴が多くてね、いろいろな事件が起きて俺たち4人だけじゃ手が回らないんですよ!」
そう、最近この学校ではトイレの水が詰まってる!とかあっちで喧嘩が起ってるぞ!みたいなちんけな事件がよく起きている。対応するため我が生徒会では「生徒会に入らないか?」という人材確保の勧誘チラシを配っているのだが全く人が来ない。宏美も雪さんもいるのにおかしいなぁ………こんなに美人が多いグループなんてそうそうないんだけどなぁ。なんか欠点でもあるのか?………あ、俺?まさか?………だ、だけど!俺たちは新たな人材を確保することを諦めない!決して楽をしたいからとかじゃなくて!やっぱり人がいる方が仕事のクオリティはあがるじゃないか!できることなら楽したいが、やはり優先事項は仕事のクオリティだ!楽したいのは認めるが!そこで今回そこまで学校の内情を知ら……新たな刺激となりうる転入生のイリナを標的にしたというわけさ!
「書いてる側としても生徒会に入ってくれるとかなり楽なんだが………」
ここで俺とイリナの行動がバラバラになったらかなりめんどくさいことになる。
「あなたの事情は私にはわかりませんが生徒会の方々は困っているみたいですね。」
うんうん。説教されていた2人が頷く。どうやら彼女たちの説教は終わったらしい。
「それならば人助けの為に生徒会に入りましょう。」
「うおおぉおぉぉおぉぉぉぉ!ありがとうイリナさあぁぁあん!」
喜びのあまり俺はイリナへとダイブする
メキッ!!
俺の背中の骨が渇いた音を出しながら軋んでいく。メキッメキメキメキ。背中はさらにしなりまるで弓のような形となり、床にぶつかり俺は床を転げ回った!
「いってぇー!背中があぁぁ!俺の背中が使い物にならなくなったぁぁあ!!」
「……………人間には自分の罪を再確認する為の時間を設けなくてはいけない。道を踏みはずないようにな。そして、その時間が今だ。わかるか?狩虎」
イリナと転げ回っている俺の間に人が立っている。宏海だ。
…………何言ってるんだこいつ?さっきお前も一緒にイリナにセクハラしようとしてたじゃねーか。お前のいう通りだと、お前もこの時間は俺と一緒に反省しなくちゃいけないだろう。
俺は腰を押さえながら立ち上がろうとするが、ヤバい、物理的に腰が砕けかけている。宏美は空手で4段の実力者だからな。あいつの1発を食らったら基本死んでしまう。俺は子供の頃からくらい慣れているから耐えられるが……………今、恐ろしいことに気がついた。もし宏海とイリナを、あんな人間離れした力を持った2人を同時に怒らせたら俺はこの世から跡形もなく消えてしまうのではないだろうか。………同時に2人を怒らせるのはやめよう。
「じゃあお前も俺に攻撃した罪を悔いろよ。」
「いいんだよ、これは断罪踵落としだからな。罪じゃあない。戒めの攻撃だ。」
私的にもほどがあるだろ…………
「さてさて。イリナさんが生徒会に入ってくれたおかげで俺たちも助かるわけだが………今日はもう時間も遅いことだし帰りましょうか!」
俺は宏美の言葉を無視して話をする。もう下校時間となっており外はかなり赤色に染まっていた。
「そうですね。会長がイリナさんとぶらぶらそこらへんを散歩していたおかげで結構な時間になりましたもんね。」
翔石君は下校準備をしながらネチネチと言ってくる。
「…………会長がニヤけながら30分で終わるはずの学校説明を1時間半もかけていたせいですね。」
雪さんが淡々と言う。なんで知ってるんだ雪さん!
あなたはずっと生徒会室にいたんじゃないのですか!?………はっ!
この話を聞いてイリナさんは一歩後ずさる。いや、この時ばかりは後ずさるじゃないな一歩分距離を置いたかな。彼女は後ろを振り向くと全力で一歩進んだのである。距離で表すと3m。いや、どんだけ後ろに下がってるんだよ。
「…………雪さんそれは誤解だ。俺は事細かに、親切丁寧に教えていたら時間かかってしまったってだけで、俺が口実を作って、イリナさんと長い時間一緒にいたいがためにわざと遠回りしたみたいな言い方をされると俺の評価に影響が……」
「そこまでは言っていないですよ会長。」
「………ならいいんだが。」
うーん、なんだろう。墓穴を掘った感が否めない。
「へぇー………私はお前がイチャイチャするために生徒会の雑用をお前の分までやらされていたのか…………」
ゴゴゴゴゴゴという音がとぐろを巻きながら宏海が………
1歩。ピシッ
2歩。ビシィッ
3歩。バキィッ
近づいてくる。一歩ごとに力が膨れ上がっているのか分からないが床への負担が増大していく。なんか3歩目に床凹んでるんだけど………1人だけ世界観が違う。
や、やばい…………このままでは俺の体がただの肉塊となってしまう!どうにかして逃げないと…………
「あ、ああああ!グラウンドでマカロンの試食がやってる!」
なんと宏海はマカロンが大好物なのだ。これできっと逃げられる…………てか、我ながら酷いな。なんだよグラウンドでマカロンの試食って。せめて家庭科室でしろよ。運動部の方々はそこまで乙女じゃないぞ!だが宏海ならこれで上手く誤魔化せるに………
「私がそんなもので騙せるとでも思っていたのか狩虎ぉぉ………」
メコォッ!!床が陥没する!!
わーい。火に油を注いじゃったみたいだー!
やばいやばいやばい!なんとかしないと!なんとかしないとぉ!!
「ひ、宏海!嘘じゃないんだ!ほらこの窓から見ればわかるからさ!」
見ている隙に逃げるという計画に変更!これなら何とかなる!生きて帰れる!
「………仕方ないなー1度だけ信じてあげようかな。でももし嘘だったら……………」
ちょっ、なんで黙るんだ宏海!怖い!怖いからさ!黙らないでくれ!
タンタンタン
窓に3歩で到達。あれ?この部屋って扉から向こうの壁まで20m以上はなかったか?いやでも、俺の場所から考えると17mと言ったところだからそれなら1歩は………………いや、考えるのはやめよう。この世には知らなくていいことがたくさんある。そしてこれはその一つだ。いやそんなこと考えてる場合じゃない!宏海があっちに3歩で到達した事を加味した上で計算するとだな…………あ、やばい…………絶対に追いつかれる……………
仕方ない。もうやけくそだ。死ぬ覚悟で特攻してなんとかあいつだけでも道連れに………
「お!本当だ!グラウンドでマカロンの試食をしてるぞ!これからみんなで行こうか!」
「………はい?マカロンの試食っすか?」
「そうだぞ。マカロンの試食だぞー。お前が今言ってたことじゃないか。」
「いや、まぁそうなんですけどね………」
え?本当にやってるの?これぞまさしく嘘から出た真?この学校は本当におかしいな!グラウンドでマカロンの試食なんてどこにも需要なんてないし、ましてや運動直後に食う奴なんて少ないんだから供給もないだろ。一体全体どこのバカがこんな企画をしたんだ?まぁ、そのバカのおかげで俺は助かったんだから礼はするが…………
「………そ、そういうことなら行こうか。」
みんなで帰りがてらマカロンの試食をした。俺を助けてくれたマカロンはとても美味しくて涙が出る程だった。




