捩じ曲がる運命
「ミ……君……………」
俺の姿を見て声を漏らすイリナ。
岩の巨人のチリが辺りに舞い上がり、それが月の光を反射して世界が輝いているかのようだ。
輝いている………ねぇ……………。目の前には明るい未来なんて何もないのに、それなのに世界は輝けるのか。羨ましいったらありゃしない
「しっかしお前情けない姿だなーー。天下無敵のイリナさんでも、さすがに魔王には勝てなかったってか?はっはっはっ!その拘束を外してやろうか?お前の力じゃそんなの壊せないだろ?」
「な、何言ってんのさ!これぐらい君の力を借りなくたって自分の力で壊せるに決まってるでしょ!」
イリナは岩の拘束から抜け出そうとして体を捩るが、岩はビクともしない。
そりゃそうだ。なんつったってあいつの岩だ。そう簡単に壊せる訳がないんだ
「まっ、お前は指咥えて待ってりゃいいんだよ。おっと、そう言えば腕を拘束されているから指を咥えられないんだっけか?はっはっはっ!そいつはソーリー。変顔でもして待っていてくれ給え」
俺はバカ笑いしながら鎧を着た男の方へと向いた。
振り返るときに、イリナが悲しそうな顔をしていたのが少し残念だな。と思った。
「さてと………なぁ遼鋭。色々と俺に謝らなきゃいけないことがあるんじゃないのか?あ?」
「謝ること?謝ることか?………うーむ、思いつかねぇなぁ。暇を潰していただけだしなぁ」
鎧の男は、煩わしそうに兜を脱ぐ。すると、見覚えのある顔が姿を現した。いや、見覚えがあるも何も俺はこいつと10年近くの付き合いがあるから、顔なんて錐状体に焼き付いているレベルだ。
「手段だよ手段。暇をつぶすのは勝手よ?そりゃあ俺も大歓迎さ。暇をつぶす会会長の身分である俺からすれば、大いに勧めている行いだ。」
俺は剣を、腰に付けた鞘に収める
「でもよ、これから俺達が議論をするであろうことの中心人物を、殺すようなまねはしない方がいいんじゃないのか?そりゃ本末転倒って言うんだぞ?」
後ろからアウアウとイリナの声が聞こえる。まぁ、驚くわな。
「いいや、解決だぜ。こいつを殺してしまえばクラスの奴らも項垂れて押し黙るんじゃないのか?崇めている奴が目の前から消えるんだ、男達だって諦めてくれるさ」
おいおい、マジでそんなこと思ってんのか?………やばいな、遼鋭からいつもの冷静さが抜け落ちてしまっている。こりゃあ、今の遼鋭の熱さはマックスだな。
「はぁ…………想像以上に深刻だな。1ヶ月前にガス抜きしたばっかりだってのにもうたまっちまったのか。」
いつもは2ヶ月保つのに今回は1ヶ月か………最悪のタイミングだなクソッタレ。
「さぁ狩虎、これから戦おうぜ。お前を待っている間体が昂ぶっちまってどうしようもなかったんだ。あいつでもある程度は楽しめたが………ありゃダメだ。俺の相手をするには弱過ぎる」
遼鋭の周りに巨大な岩達が出現する。既に地面に着床していた埃達がその衝撃で再度空中に舞い上がる。
…………交渉できそうにもないな。
「そうだな………一度お前を倒して頭を冷やさなければいけないみたいだな」
ザプーン!
俺の言葉の直後、遼鋭の背後から水が襲いかかり、遼鋭を飲み込む。
そして、水の塊はピキキッと凍ってしまった。
こんなので頭が冷えてくれれば幸いだが………まぁ、1秒も保たないだろう。
ピキッピキピキ、パリーン!
遼鋭ごと凍りついた水は、音を立てながら内側から破壊され吹き飛んでいく!
どうやら遼鋭は体から岩出現させて氷を吹き飛ばしたようだ。
「柔らかすぎる………こんなのあってないようなものだろ。しかしいつの間にこんな技覚えてたんだ?こりゃあますます楽しめそうだ」
遼鋭の周りにあった岩達が一斉に上空へと伸び、10メートル付近で止まる。そして、すべての岩の先端が俺の方に向けられる。岩の先端部分が徐々に膨張していく
「お前の力なら簡単に防ぎきれるだろ?さぁ、イリナごと守ってやれよ。」
限界まで膨らんだ岩の先は、まるで爆弾かのように爆発すると、中から先が尖った岩が無数に弾き出される!
遼鋭からすればこんなの遊びの一環だ。俺の力を段階的に上げていくための準備。要は俺の為の肩慣らしって奴だ。それでも、この岩達の威力は十分に高い。腕に当たれば腕が簡単に吹き飛ぶだろう。
「仕方ねぇ、すべて消してやるよ!」
ビュビュビュ!
俺は腰から魔剣を引き抜くと、上空に剣線を埋め尽くすように放つ!
その剣線に当たると岩達は剣線に当たった部分だけ消えていた。
縦横無尽に張り巡らされた剣線がすべての岩をこの世界から消していく。
「水の魔力だけじゃなくて、そんな面白い剣も手に入れていたのか!飛ぶ斬撃と言ったところか?いや、でも少し様子が違うな。俺の岩をああも簡単に切っちまうってのは少し違和感がある。それに、さっき巨人を消したことも考慮に入れると何だか……………」
俺がすべての岩を消したのを見て、遼鋭は頭をぽりぽりかきながら考え始めた。つっても目はずっと俺に向けられたまんまで全然隙はないのだけれど
「イリナを解放してくれるってんなら喜んで教えてやるんだがな………」
「それじゃあいいや、めんどくせー。イリナを逃したらお前は俺と戦ってくれないからな。まったく、一途ってのは怖いねぇ」
ザンザンザン!
俺の周りから岩が出現し、俺の向かって伸びてくる!ステップ2といったところか。これもあいつからすれば肩慣らし。こんなのは俺が凌ぎきれて当然なんだよな………
だったら全部、俺が切れないわけがない!
俺は四方八方から向かってくる岩をかわしながら、斬撃を飛ばして岩を切断していく!
ドンドンドン!
岩を交わすたび棒状の岩は地面を吹き飛ばし、地面を這うかのように低空で俺へと突進してくる!
右、左、上、またも右、下、右と上、左と下と上、5方向…………全方向か!
俺は回転するように斬撃を円状に形成し、向かってくる岩をすべて切断した!
俺が通ってきた後には切った岩の残骸が点々と落ちている。切っちまえば、これがさっきまで生き物みたく俺に向かって来ていたなんて夢にも思えないな。
「…………なぁ狩虎。なんで炎を使わないんだ?お前の炎を使えば、さっきの岩なんて簡単に溶かせたろ?なんでわざわざ剣術を使うんだ」
遼鋭の攻撃が止まる
「そりゃあお前あれよ。これぐらいの段階ならまだ炎を使う必要がないからだな。こんな岩の速度じゃ、俺の体でも対処できる。だから炎を使わないんだ」
イリナの所からはそこまで離れていないな。もう少し離れとかないと巻き添えを食らっちまいそうだ。
俺は更にイリナから離れるために走り出す
「…………お前、もしかして、イリナの為か?」
ピタ
しかし、その言葉で俺の足が止まった
「ヒャハハハは!!図星か!!あれだろ?イリナは炎がまだ怖いんだろ?だからお前が炎を出しちまうとイリナが怖がるんだ………違うか?」
「……………違うな」
「いいや違くないね!!お前の行動に意味のない事なんてないからな!!思われてるねぇイリナちゃんは〜〜。さっきも憎たらしいことを言ってたが、あれもお前に憎しみを植え付けさせたかったのかな?後腐れなく殺させるためとか?…………あっはっはっはっはっ!!アーーハッハッハッハッハッ!!!いいねいいねーー!!流石は狩虎だ!!お前が優しくないとお前じゃねーもんな!!…………しかし、」
遼鋭は腹を抱えて大いに笑った後に、急に真顔になる。
「俺的にはそれは良くねーんだわ。いいか?俺はお前と戦いてーんだ。本気の戦いって奴だ。お互いに知恵を出し合って、体が軋むまで動き続けて、血が舞い上がるようなそんな高揚した戦いを俺は望んでいる。てめぇが無駄な優しさかけて本気で戦おうとしないってのなら…………そうだな、10秒やる。10秒やるからその間に炎を出して俺に戦う気概を示してくれ。」
空中に岩で出来た巨大な槍が3本浮遊する。あんなの飛ばされて当たったら体がどこかに吹き飛ぶな
「10秒経って何もしなかったら…………まぁ、その時は叩き潰して宏美の元にでも行くとするわ。それじゃあカウント始めるぞ。いーち………」
ビュビュン!
二筋の斬撃が遼鋭の元へと飛んでいく!が、それを遼鋭は軽々とかわした
「使うつもりはねぇよ。どんなに脅されたってこの意思は変わらない。もうあいつに、酷い目に合わせるつもりはないんだ。」
「………そうか、分かったよ。それじゃあお前の身体能力じゃ確実にかわせない速度の攻撃を今からするからな。意思を変えるつもりはないと言ってたが…………生きたいのならば炎を使うこったな」
遼鋭の周りを浮遊していた3本の槍が回転し始める。そして1秒後、槍は高速で発射された!
確かに速い!目で追うのが精一杯だ!今の俺じゃかわせない!………今の、俺じゃあな。
ビキビキビキ!体が内側から変化していく
ドォォォォォオオオンンンン!!!
3本の槍が狩虎のいた場所を通過し、なお森の木々と校舎の壁を吹き飛ばしながら進み続ける!
「………そういや」
ガキン!
遼鋭の右隣の岩が吹き飛ぶ!
「そんなのもあったな」
「ちっ!やはりすぐに対処されるか!」
岩を吹き飛ばすとすぐに高速でその場所から移動する!
「確かそりゃ身体強化魔法って奴だっけか?5分間勇者並みの力を得る代わりに魔族の力を失うって奴……………ふっふっふっ」
俺は高速で移動して遼鋭に攻撃を仕掛けるが、その都度岩が出現して俺の攻撃を防ぐ!
「それはつまり!お前は今魔王から勇者へと堕落したんだよ!強き者から弱者への格落ちだ!それじゃあ守れるものも守れない!お前は最良の選択を選んだつもりだろうが、この選択は、お前が守れたであろう可能性を捨て去った愚かなものなんだよ!!」
細長い岩が無数に出現し、鞭のようにしなり地上にある全てのものを吹き飛ばし蹂躙していく!
なんて速度だ!かわすので手一杯で、攻撃する隙がない!それに、たまにかわし損ねて岩が直撃して吹き飛ばされる!
ああ、確かにこんな攻撃なら俺の炎で溶かすことは容易だろう。こいつはそこまで硬くない。触れればすぐだ。
でもな、少し間違いがある。
「いいや違うね!!確かに俺は弱くなった!!だがな、それでも俺の体に新たに力が備わったんだよ!!魔力なんていう目に見えない魔法体系じゃなくて、己の体っていう、行動を成すこの器に!!」
俺はかわしながら、斬撃を飛ばして岩を切断していく!その都度隙が出来て体を岩に吹き飛ばされるが、大丈夫だ。まだ動く。動く限り俺は何でもできる!
「守れない?バカ言っちゃいけねーな!!俺は今勇者の力を手に入れた!!壊す魔族じゃねぇ、人を守るために力を振るうこの勇者の力が俺の体を駆け巡る!!そうである限り俺の体は朽ち果てやしない。俺の意思は折れやしない!!」
さっきまでくらいっ放しだった岩の攻撃を徐々にかわしていく。
力が湧き上がるのを感じる。今の俺なら確実に全てを守れるという自負がある!
「どんなに遼鋭、てめぇが強い攻撃をしてこようが今の俺なら全て捌き切れる!全てがノロマなんだよ!」
ボゴン!!
俺のパンチが岩の側面にぶち当たり、岩が吹き飛んでいく!
………残り1分!!最初に少しくらい過ぎたか!あと1分のうちに遼鋭を戦闘不能状態にもっていかないと俺の負けが確定してしまう!!
仕方ねーな!!魔剣の力を解き放つしかなさそうだ!
一本一本向かってくる岩の鞭を吹き飛ばし、切断しながら遼鋭との距離を詰めていく!
「無駄無駄無駄!!狩虎、君がどんなに僕に近づこうが、僕を守るこの岩の攻撃をかいくぐることはできない!!」
遼鋭の周りには大量の岩の鞭たち。それに岩を打ち出す砲台までもがズラリと並べられている。確かにこれなら近寄れない!
………だったら!!
「近づくのは俺じゃねぇ、お前だぜ遼鋭!!!」
俺は魔剣を地面に突き刺すと、魔剣の目が紫色に光り出す!そして、
ブン!!
遼鋭が俺の目の前に出現する!!
「んだと!!一体なんだよこれは!!」
ズァァァア!!
遼鋭の背後に水と氷の壁が出現する
「空間を捻じ曲げた。魔剣の効果は空間の支配なんだよ」
さて、魔剣の能力の説明をしたことだし、イリナを解放してもらうぜ
「100発は殴るからな。覚悟しろよ!!」
「くっ!!」
ガガガガガががががががががンンンン!!!
俺の拳が遼鋭をとらえ、岩で出来た鎧を叩く音が連続で響き渡る!!
いつもなら吹き飛んでいるところだが、水と氷が遼鋭が吹き飛ぶのを防いでいる!!
例え腕で胴体部分を隠そうが、何発も殴り続ければいずれお前の腕の鎧は砕け散るだろう!!
「うぉぉぉおおおオオオオ!!!!」
ガガガガガガガガ!!!!!
岩の破片と氷の破片と水の飛沫が辺りに舞い散る!!
くそっ、拳の皮が剥けて血が出てきやがった!!ああ、イッテェよクソが!!
バリン!!
遼鋭の腕の装甲が砕け散る!!
来た!!今だ!!!
ザシュザシュ!!
パンチで結構深くまで掘り進んでいた水と氷の壁の周りから氷の柱が出現し、遼鋭の動きを止める。
「残り20秒。ありったけの力をお前に打ち込む………」
ビシプシッ………
俺の膨大の魔力の流出に耐えられなかったのか体が悲鳴をあげる。身体強化魔法の限界を超える一撃だ。多分、これを使えば残り20秒のタイムリミットもすぐさま0へとなるだろう。
筋肉が躍動し弾け飛ぶ。拳の何箇所かの骨が粉々だ。だがそんなの痛くも痒くもない。イリナが傷つくことに比べたら屁でもない!!
俺は助走をつけて走り出し、丁度いい距離でジャンプする!
肘部分から水が勢いよく放出され、俺のパンチは更に加速される!!
水の放出部位は肘から拳へと徐々に移動していき、水の加速が更に加速していく!
今俺が出来る最大の一撃だ!!打ち抜かせてもらうぜお前の全てを!!
「ビギンズオールエフェクト(全てが始まった力の証)!!!」
メシャァア!!!!!
拳が当たった部分が吹き飛び、いや、周り全てが吹き飛んだ。氷と水でできたもはや洞窟と言えるまで掘り進められた壁は衝撃によって所々が倒壊していた。
もちろん、俺の右腕もだ。単純に自分の力に耐えられなかったのだ。腕がぼきぼきメキメキ。骨?いや、もう軟体動物の腕にしか見えないってぐらい骨がポキポキだった。
さすがの遼鋭でもこれをくらって立ってはいられないだろ。俺の全力の一撃だ。最低でも気を失ってもらわないと……………
「ふぅ…………お前といいイリナといい。やっぱり隠し玉ってのは予期できないもんだな」
………!?!?
んだってお前!?
俺は驚いて拳の先を見つめると、そこには拳である程度削られた岩の………何か、腕があった
「イリナほどの威力は出てなかったが………お前にしちゃいい線かっちゃいてたぜ?まぁ、強いて敗因をあげるとしたら、俺に一瞬余裕を作っちまった事だな」
ボコボコボコ!!
俺の下の地面が蠢き、地中から更にもう一本の腕が出現する!!
「敬意を払おう。俺は勇者の力なんてゴミだと思っていたが、イリナと狩虎。2人の力は評価しよう。俺をギリギリまで追い詰めたんだからな。」
俺は後ろへと跳びのき、岩の方を凝視する。
岩で出来た両腕の真ん中の位置から更に顔が出現する。
「ギャオォォォオオオアアアア!!!!」
辺りに咆哮が木霊する!
「だから見せてやろう。俺が土石竜と呼ばれる所以を。だから見せてやろう、圧倒的力という奴を」
岩で出来た巨大な竜が出現した。かつてストレス発散のために対峙した暴竜カオスなんかじゃ比べようもない迫力。咆哮が当たって痛いぐらいだ。
絶望ってのはこういう事を言うんだろうな。魔力が尽きて1分間、俺は水を出す事のできるただの一般人へと成り下がってしまった。もう正直どうする事もできない。
「いいや、それは間違いだよミフィー君。どうする事もできないっていうのは自分1人で、そして力がないときに言うんだよ」
聞きなれた声。…………全く、拘束はどうしたんだよ?まさか無理したんじゃないだろうな
「もう君は1人じゃない。もう君に力がないとは言わせない。ミフィー君を味方するのはだってこの私、美少女で才色兼備に最も近いイリナ=ヘリエルなんだから」
俺は振り返ると、腕と足がボロボロのイリナが立っていた。多分無理矢理に足掻いて拘束を解いたのだろう。………無理しやがって。
「手を出してミフィー君」
俺は差し出された腕を握ると、すぐさま引っ張られて立ち上がる。
「君を殺すのは私の役目。だから、委員長に殺させはしないよ」
「………やれやれだな。助けた仲間に[殺す]と言われるなんて、世界広しと言えども俺ぐらいだろうな。」
俺は魔剣を手元に移動させて、左手で引っこ抜く
「いいじゃない。それだけ愛されている証拠だよ」
…………まぁ、そういう事にしておこう
「それじゃあ………」「………そうだね」
俺とイリナは目を合わせると、笑いあって、そして遼鋭の方へと向いた。
竜が荒れ狂っている。まったく、目の前は絶望だらけだ。全然輝かしい世界などない。だけれど、嬉しいかな。俺の目の前にはそれでも明るい未来が見えてしまっている。
「「叩き潰すとしますか!!!」」
俺とイリナの声が、目の前を明るく照らし始めた
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