第4話『元Sランクの古傷』と、消えた激痛
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「……はぁ〜、マジでいなくなっちゃったのか……」
朝の光が差し込む部屋で、エルは綺麗に元の形へと修繕されたドアの鍵穴と、テーブルの上にぽつんと置かれた手紙を見つめ、深々と溜息をついた。
昨夜は本当に最高の夜だった。勝負ドレス姿で部屋に不法侵入してきたSランク女剣士シオン。あの気高い彼女をベッドの上で夢中で責め立て、声を漏らして乱れる姿をたっぷりと堪能し、甘く濃厚な時間を過ごしたというのに——。
目覚めたベッドの脇に残されていたのは、『修行旅に出ます』『真の伴侶となるべく強くなって戻ってまいります』という重すぎる決意の書き置き。
(あんなに可愛かったのに……あんなに最高だったのに……。朝起きたら手紙一枚残して武者修行へドロンかよ。意味が分からねぇし、あーあ……素直にめちゃくちゃ寂しいっつの……)
昨夜の愛おしく甘い余韻と、急にいなくなった不完全燃焼な寂しさを抱えたまま、エルはトボトボといつもの行きつけであるカフェ『ルピナス』のドアを押し開けた。
「あ、エルさん! いらっしゃいませ……って、なんですかその顔? ニヤニヤしてると思ったら急に溜息ついたりして、すっごく気持ち悪いですよ?」
「き、気持ち悪いとは失礼な! コレットちゃん、俺は今、人生の儚さについて深く物思いに耽っていたんだよ」
「絶対嘘だ……絶対何かスケベなこと考えてましたよね!?」
カフェオレのカップを片手にジト目で詰問してくるコレット。昨日ケーキデートを楽しんだばかりの可愛いコレットちゃんの前で、「昨夜Sランク女剣士と部屋で激しく一泊して、朝起きたら修行に出られた」なんて言えるはずもない。エルは必死に顔を作って誤魔化す。
「ち、違うって! 俺が考えてるのはコレットちゃんのことだけだってば! ああ〜、今日もコレットちゃんは可憐で可愛いなぁ! そのお胸に顔をうずめたら俺の心も癒えるんだけどなぁ〜」
「〜〜っ!? ほら、やっぱりすぐそうやってスケベなこと言う! もう、お店の邪魔です!」
頬を真っ赤にしてプンプン抗議するコレット。そのやり取りを見て、奥の厨房から甘いパフュームの香りを漂わせておかみさんが現れた。
「あらあら、朝から仲が良いわねぇ。でもエルちゃん、なんだか今日はどこか心がここにあらずって感じじゃない?」
エプロンドレス越しでも隠しきれない、Hカップはあろうかという圧倒的な爆乳を揺らし、大人の包容力を漂わせたおかみさん——ヴェロニカがイタズラっぽく微笑む。
(〜〜っ、いつ見ても凄まじいデカパイだな……。あんなにデカいのに、普段は首元まで詰まった服でしっかり隠してるのが逆にエッチすぎるんだよな……)
「おかみさん……俺、なんだか今日はすごくおかみさんの優しさに甘えたい気分なんだ……」
「ふふ、何か寂しいことあったのね? ほら、元気が出ないなら特製の焼きたてタルトを出してあげようか。甘いものを食べたら少しは元気になるでしょう?」
「おかみさん……やっぱ天使だ……ありがと……」
おかみさんの包容力とタルトの甘さに少し癒やされつつも、胸の奥にシオンの面影と寂しさを残したまま、エルは午後の仕事——森での補給作業へと向かったのだった。
「ひ、ひえぇぇぇっ……!? なんでこんな奴が出やがるんだよ!! 俺は今ただでさえテンション低めなんだぞ!!」
午後。王都近郊の森の中。
エルは補給物資が入った重い木箱を必死に抱えながら、ガタガタと膝を震わせていた。
前衛のパーティメンバーたちが悲鳴を上げて散り散りになる中、後衛の「補給係」として同行していた非戦闘員のエルだけが、取り残される形になってしまったのだ。
『グォォォォォォォンッ!!!!』
目の前に立ち塞がっているのは、体長5メートルを超える漆黒の巨獣。
戦う術を持たないエルに向かって、巨獣の鋭い爪が容赦なく振り下ろされる。死を覚悟し、エルが固く目を閉じた——その時。
「——『獄炎よ、焼き払え」
短く言い放たれた冷徹な詠唱とともに、極大の火柱が空を割って巨獣の爪を弾き飛ばした。
爆風と巻き上がる炎の中、一人の女性が静かに舞い降りる。
漆黒に金の刺繍が施された重厚な魔導ローブ。その手には禍々しいほどの圧倒的な魔力を秘めた古びた大杖が握られ、凄まじい威圧感が周囲の空気を重く支配していた。
(な、なんだあの凄まじい魔法は……!? それにあの見たこともない服と大杖……めちゃくちゃヤバい雰囲気を醸し出してやがる……誰だあの凄腕の魔導士……!?)
死を覚悟していたエルは、突如現れた圧倒的な存在感の女性に息をのむ。
すると、フードの奥から覗く美しい顔立ちの女性は、フッと表情を和らげると、どこか甘く包み込むような声音で囁いた。
「——大丈夫かい、エルちゃん?」
「お、おかみさん……!?!? なんでヴェロニカさんがそんな格好してここに……!?」
普段カフェで優しい笑顔とともにタルトを出してくれる爆乳おかみさん——ヴェロニカのあまりのギャップに、エルは目を丸くして絶叫した。
「コレットちゃんからエルちゃんが今日も森に行ったって聞いてね。昨日も王都の近くだっていうのに凄まじい魔獣が出たでしょう? なんだか気になってちょっと見に来てみたんだけど……やっぱり正解だったわ」
おかみさんは大杖を構え、巨獣を見据える。
「エルちゃん、下がっていなさい。うちの常連さんに怪我はさせないわ」
「おかみさん……アンタ、マジで何者なんだよ……!?」
「ふふ、ちょっと昔取った杵柄ってやつよ」
おかみさんは大杖を振り抜き、再び極大の炎を放つ。だが——巨獣は凄まじい皮膚の硬度と巨体でその火炎を強引に押し切り、鋭い爪を振り下ろしてきた。
『グォォォォンッ!!』
「くっ……!? 『金剛の障壁』!!」
咄嗟に展開した防御魔法陣だったが、巨獣の重い一撃を殺しきれず、激しい衝撃波がおかみさんを襲う。
ドゴォンと後方へ吹き飛ばされ、地面を滑るおかみさん。その激しい攻防の煽りで、着ていた魔導ローブの胸元がビリリと大きく切り裂かれた。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
「……ふぅ、やっぱりブランクがあると身体が鈍っているわね。でも、サクッと終わらせてあげるわ——」
立ち上がり、再び大杖に凄まじい魔力を集束させようとした——その瞬間。
「——くっ……!? あぁぁぁっ……!?」
「おかみさん!?」
魔力が途中で霧散し、おかみさんは左胸の古傷を押さえて膝をついた。先ほど受けた衝撃と、急激に練り上げようとした魔力によって、古傷の激痛が走ったのだ。本気で大魔法を使おうとすると魔力回路が途絶してしまう。
魔法が消えた隙を見逃さず、巨獣が狂喜の咆哮とともに巨大な爪を振り上げた。ターゲットは動けないおかみさんだ。
「くっ……逃げ……なさい……エルちゃん……っ!」
古傷の激痛に膝をつき、必死に声を絞り出すおかみさん。
それを見たエルは、足の震えを必死に抑えながら物陰から飛び出し、おかみさんの元へ大急ぎで駆け寄った。
「おかみさん……っ!? おいおい、大丈夫かよ! 立てるか!? 肩貸すから早く——」
介抱しようとおかみさんの肩を抱きかかえ、無理やりにでも立ち上がらせようとしたその時。
破れたローブの隙間から、露出した左胸の痛々しい『3本の斜めの古傷』が、エルの目に間近で飛び込んできた。
(っ……!? なんだよこれ……! おかみさん、胸が大きいから隠してたんじゃなくて、この酷い傷痕を隠すためにいつも服を着込んでたのか……!?)
激痛に耐えて顔を歪めるおかみさん。その痛々しい姿を見た瞬間、エルの胸が強く締め付けられた。
——と同時に。
破れたローブの隙間から、古傷とともにチラリと覗く豊満すぎる乳房と、そこからのぞく大人の色香あふれるデカ乳輪が、エルの目に嫌でも飛び込んできた。
(〜〜〜〜っっっ!? 傷も痛々しくてヤバいけど、その奥のデカ乳輪も破壊力凄まじいだろ……っ!!)
お世話になっているお姉さんを死なせたくない情と、目の前の圧倒的なデカ乳輪に脳みそがパニックを起こす。
迫り来る巨獣の影。エルは混乱と本能のまま、倒れ込むおかみさんの身体を必死に支え、抱き起こした。
「こんなところで死んじゃ駄目だろ!! 頼むから勝手に諦めないでくれよ!! 俺にまた、あの店で特製タルト喰わせてくれー!! ついでにそのデカ乳輪も食べさせてくれよぉぉぉっ!!」
極限状態の中、「優しくしてくれるお姉さんを死なせたくない」という感情とデカパイへの情熱が最高潮に達した——その瞬間。
エルの全身から、無自覚かつ圧倒的な暖かな波動(神級オートバフ)が激しく溢れ出し、身体を支えられているおかみさん全体を包み込んだ。
(な……なに、これ……!? 身体の中に……信じられないほど暖かくて強大な魔力が流れ込んで……っ!?)
激痛で死んでいたはずの魔力回路が一瞬で再構築され、全身の細胞が全盛期をも遥かに凌駕する魔力で満たされていく。元Sランク大魔導士としての知識をもってしても、到底説明のつかない常識外れの現象。
(まさか……エルちゃんの力!? この子が、私に魔法を超えた『何か』を流し込んでいるというの……!?)
驚愕に目を見開くヴェロニカ。だが、背中から伝わるエルの必死で暖かな体温と、なりふり構わず自分を助けようとする熱い叫びが、大魔導士としての理性や疑念を一瞬で溶かし去った。
「……ええ、いいわよエルちゃん! 私の身体、なんだって食べさせてあげますから……っ!!」
おかみさんは大杖を掲げ、極大熱線で巨獣を一瞬で消滅させた。
静寂が戻った森の中。
胸を撫で下ろすエルの前で、おかみさんは破れた服の隙間から滑らかな白肌を見せて微笑んだ。痛々しかった『3本の古傷』は跡形もなく消え去っている。
「っ……!? あの酷い古傷が……消えてる!?」
「ええ……私を助けて、傷まで治してくれたんだもの。今夜、エルちゃんの部屋に行ってあげるわね。約束通り……じっくり食べさせてあげますから……♪」
※なお、この時のエルはまだ知らなかった。
彼女が誰にも触れさせず隠し続けてきた絶対の『ブラックアンタッチャブル(不可侵領域)』を、自分がただのスケベ心と勢いだけであっさり溶かしてしまったことを——。
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