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揺れる想いと奪う答え《シオン&ベルナルド》

最後は、シオンとベルナルドの物語。

ほんの少しの寂しさと、隠しきれない想いを書きます。

どこまでも続く水平線を、シオンは無言で眺めていた。

陸地はどこにも見えず、ただ海だけが広がっている。

もう見えはしないのに、その方角から目が離せなかった。


「どうしたの、やっぱり寂しくなった?」


いつの間にか隣に来ていたベルナルドが、シオンの顔を覗き込む。

彼女は顔を顰めると、顔を背けて不機嫌そうに答える。


「そんなわけないじゃない。船を降りるって話は前から聞いてたし、今更……」

「でもシオン、金髪くんのこと結構気に入ってたよね?」


何が言いたいのか、とシオンはベルナルドに睨むような視線を向けた。

しかし彼は相変わらず飄々とした笑みを浮かべ、その視線を受け流す。

その表情に見透かされた気がして悔しかったのか、シオンは再び遠くを見ながらしれっと言った。


「そうね。……王太子妃になってほしいって言われて、一瞬揺れる程度には好きだったかも」

「は!?」


予想外の発言に、さすがのベルナルドも声を上げる。

彼の反応に満足したように、シオンは小さく笑うと彼に向き直った。


「冗談よ。揺れるどころか、秒で断ったから」

「……てことは、打診されたのは冗談じゃないんだ?」


確認するようにベルナルドが聞くと、シオンは頷く。


「ええ。ヘリオスじゃなくて、シュゼルからだけど。あの人からそんなに信頼されてるとは知らなかったわ」


シュゼルの忠誠心はよく知っている。

“命を捧げている”という言葉が、比喩でもなんでもないとわかるくらいに。

そんな彼が、ヘリオスーーアリウスの妃を、簡単な気持ちで決めるわけがない。

絶対の信頼を置いているからこその打診だったのだろう。


シオンはさらりと言っているが、ベルナルドからすれば気が気ではない。

まさか自分の知らないところで、そんな会話があったなんて。


(はぁ、マジで何言ってんだよあいつ……。絶対にシオンの出自に気づいてるだろ。信頼できて、亡国とはいえ王族だったらそりゃ候補になるよな……。ああもう、万が一シオンが本気にしたらどうしてくれんだよ)


「どうしたの?」


顔を片手で押さえながら何かを呟き続けるベルナルドに、シオンは首を傾げる。

彼は気を取り直すように短く息を吐くと、シオンに聞いた。


「断ってよかったの?かなり名誉なことだったのに」

「無理に決まってるでしょ、私は指名手配犯よ?……まあ、それは取り下げられるって言われたけど、懸賞金かかってた事実が消えるわけじゃない。王太子妃なんて堅苦しいのはゴメンだし、それに……」


シオンは船尾にある船主の部屋にちらりと目を向ける。


「私は、爺様(じじさま)を一人にできないもの」

「まあ、そうだよね」


真剣な瞳に、それは本心だとわかった。

彼女がいなくなる可能性が無いのは良かった、が……。

どこかモヤモヤとした思いが消えず、ベルナルドは無言で波打つ海面を見つめる。


まるで拗ねたような表情を浮かべるベルナルドの横顔を眺めながら、シオンはポツリと口を開いた。


「……もし、私が断らなかったら。連れ戻しに来てくれたのかしら……」


微かな言葉に、ベルナルドが一瞬固まる。

少し驚いたような顔で、シオンに顔を向けた。


「え?」

「え?……………っ!?」


無意識の呟きだったのか、何に驚いているのかとシオンは小さく瞬きをする。

しかしすぐに口に出していたことに気づき、動揺しながら目を逸らした。


「な、なんでもない!忘れて!」


顔を見られず、慌てて船室に戻るべく踵を返す。

早足で去ろうとするその背中に、ベルナルドは不敵なーーしかし、柔らかさも感じる笑みを浮かべつつ声をかけた。


「どんな相手からだって、必ず奪いに行くよ。王太子妃強奪なんて、最高にかっこよくない?」


冗談か本気かわからない言い方に、シオンの足が止まる。

思わずスカートの裾をぎゅっと握りしめ、耳まで赤くなったのを隠すように俯く。

言葉が出ず、しばらく唇を噛んでいた……が。

ようやく軽く呼吸を整えると、ほんの少し震えた声で呟く。


「………ばかじゃないの」


そのまま振り返ることなく、シオンは船室に戻った。

だが、隠しきれないほど真っ赤になっていたことに、ベルナルドが気づかないはずはない。

ついニヤけそうになるのを押さえながら、シオンが去った方向に熱い視線を向けた。


「期待していいのかな?ほんっと可愛い」


申し出を断った一端に、自分の存在もあったのではないかと。

そう思ってしまう程度には、浮かれていた。



本編を終えてなお、彼らの心は静かに動き続けています。

ほんの断片ではありますが、その後の姿を覗いていただけたなら嬉しく思います。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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