再会
あんなに会いたいと主張していたラキは、スペースシップの中から出ては来なかった。
前回、ラキに守られっぱなしだった事が、私の中では、まだ消化されていない。
だが、ラキが会いに戻って来たと聞いて、体が勝手に走って来てしまっていた。
しかし、スペースシップから降りて来たのは、魔熊だけで、待ち人は降りてくる気配がない。
無言で待ち続けた時、私達は、スペースシップの中に移動されていたのさ。
「ガウッ?」
察したのか、魔熊は、ある部屋の一室に案内した後、何処かに行ってしまった。
「……」
自分でも、今さら何を話したいのかわからないが、先ずは、コールしてみよう。
ドアの横のパネルを押せば、ドアが明滅した。
そして、多分、ラキの意思ではなくドアは勝手にスライドした。
「上皇人だな」
仄かな明かりに誘われて、中に踏み入れたが、レストルームにもベッドルームにも何処にもラキの姿はなかったんだ。
「そんな……」
ダストボックスまで開けて確認したが、やはりいない。
焦って、エントランスに向かい、何かに突っ掛かり、それを足でヒョイと拾い上げたら、それがラキだった。
「おま、何して……」
俯いているラキの表情は見えない。
「ラキ? どうしたんだ?」
「……いっしょ……ない……」
「えっ?」
「一緒じゃない、ライルゥ、嘘つき」
ペチペチペチ、ペチペチ。
赤ちゃんよりは、成長している短い腕を振って、私の顔をペチペチ叩いた。
「ううっ、ライルゥ、嘘つき。ラキ、怒ったの」
泣きながら必死に訴えるラキには、不良の私も堪えるな。
「ラキに怒られたのは、初めてだな」
叩く手を止めないラキをそのままに、怒り続けるラキの可愛い声を聴いていたんだ。
「ううっ、嘘、ため! 約束したあ、ライルゥ、悪い子……」
ペチペチペチ、ペチ……。
「反省するから、許してくれないか?」
今度は、頬をぐにゃぐにゃと潰された。
「また、ため! ライルゥ、約束守らない悪い子」
随分と怒りが深いみたいで、本当に参ったな。
だが、安易に約束する事は、出来ないし……。
悪い言葉を知らない、まっ白な心のラキ。
やっぱり、このまま別れて他の誰かに任せるのは心配だ。
「ううっ、ても、ラキは、ライルゥと一緒がいいの!」
ううっ、ううっと我慢しながら涙をこぼすラキの、純粋な願いにこころ打たれない筈がない。
私の心の中でピシリと軋む音がして、それから、頭の中にガルアの大婆様の声がした。
『ヒッヒッ、ライカとその夫のバズの息子、ライルよ。久しぶりだね。婆を覚えているかね?』
『大婆様を忘れる筈がありませんよ』
『そうかえ? イーヒッヒッ』
『それで、これは、夢ですか?』
『夢じゃないよ、よくお聴き。婆には、お前が決心する事がわかっていたよ』
『えっ?』
『ヒッヒッ、だから、こうして、婆の一部を貸しておいいたのさ。隙がないと言われておったじゃろうて』
『まさか、あの時』
『ヒッヒッ、ライルよ、あの子供をお前さんが守ってやるには、ちーと、力が足りぬ。じゃから、これは、婆からの贈り物として受け取るがよい』
ポツポツ、ポン、ポン。
気付いたら、あの日見た羊雲が、私を包んだのだった。
「あ~、ライルゥ、これ、なあに?」
ラキがぐにゃぐにゃしていた私の頬に、モコモコの毛が生えたからと、そりゃ、これ、なあに? になるだろうさ。
「ラキ」
「ぅん?」
「私を雇ってくれよ。そうしたら、いつも側に着いて護るからさ」
「約束、絶対?」
「ラキ、絶対はないよ」
「絶対ない?」
頭を両手で抱えているけど、跳ね髪がピコピコ動いていて可笑しい。
「絶対はないが、信じてくれさえしたらそれは約束だ」
また、ヒタと見詰めてきたぞ。
少したじろげば、ハッキリと澄んだ声がした。
「はい。ラキは、ライルゥを信じます」
すると、スペースシップのルーム内だと言うのに、不意に風が流れて……それは、私の指に集まり雫石になったんだ。
そして、ラキの指にもそれは集まった。
「あ~、ライルゥ一緒!」
ラキの喜びようときたら、大変なものだった。
今は、はしゃぎ疲れたラキが腕の中で気持ちよさそうに眠っている。
「私の腕は、フワモコだからな」
これまで私は、この世に助けなんてないと思って生きていたが、ラキに出会ってからは、それが変わったかもしれない。
知らないうちに、自然や緣、目には映らない不思議なものからも、こうして、力をもらっているんだなと感じる事が出来たからだろう。
おわり
【ラキの日常】
皆さんこんにちは、ラキです。
今は、ライルゥと一緒に暮らしているの。(ベルナップのお祖父様から貰った屋敷)
「ゆっくり噛んで食べるといい。生意気なガキは待たせておけばいいからな」
毎朝、学校のお友達が迎えに来てくれるの、ラキ嬉しい。
「ライルゥ、フィビーとネルは、ガキと言わないよ?」
あ、ラキの髪が、ピョコンと跳ねたのか、ライルゥが優しく髪を撫でてくれたの。
「良く勉強しているな、偉いぞラキ」
ライルゥが嬉しそうだから、ラキも嬉し。
「ラキちゃん、一緒に行こう」
「早くしろよ、遅ぇなあ」
早く……しないと……ても、んんんっ。
パンが飲み込めなくて困ったの。
ても、ライルゥがアルルの乳、手にくれたから飲めた。
「そこの二匹の小猿! 作法がなっていない、こっちに座れ」
あれあれぇ? フィビーとネルを猿って言ってるの?
「はぁ~い」
「わかったよ」
二人は、ウッドデッキにライルゥが置いた長いイスに座った。
それを作ったのもライルゥなの。ライルゥは何でも知っていて、何でも出来るのぉ。
なのに、ラキが一緒にいて欲しくて……。
クタ~ (跳ね髪萎れる)
「ラキ、お昼は後で沢山届けるから、一緒に食べような」
「あ~、いいの?」
「ベルナップの仕事より、ラキの成長の方が大事だからな」
「ん、ラキ嬉し」
ライルは、モコモコになった手で、ラキの髪を撫でたの。また、跳ねちゃったのかなぁ。




