空飛ぶ少女
休日のショッピングモールは家族連れ、友人同士、カップル、おひとり様と、老若男女であふれている。
数多くのショップに飲食店、映画館もあるここは、休日になるといつもこうだ。
出入り口ではショッピングモールの看板キャラクターの着ぐるみが、子供相手に風船を配っていた。ウサギに似た着ぐるみの周りには多くの子供がいる。
その出入り口から、映画帰りの高校生カップルが出てきた。
「やっぱりイケメンはいいね」
どこかぼんやりした表情の彼女が口元を緩ませて言う。
「え、青子ちゃんってイケメン好きだった!? え、あの俳優の中だと誰がタイプだった!? え、どんな奴!?」
その彼氏が嫉妬をにじませて、慌てて聞いている。
二人が観たのは女子高生を中心に人気の学園ラブコメディである。そこには今話題のイケメン俳優が数多く出演していた。
「イケメンは好きだよ。いいと思う。でも、あの中でタイプは特にないかな」
青子は他人が見れば素っ気ないと思うほど淡々と言った。
しかし、滉征はそれが青子の普段の口調だと分かっている。そんなことは気にせずに、さらに聞いた。
「え、じゃあ、好きな芸能人とかはいる?」
「芸能人は分かんない。でも、佐南は一番イケメンだと思う」
「え!?」
衝撃を受けたように立ち止まる滉征に、青子はつられて止まった。手を繋いでいたので、軽く引っ張られたのだ。
「どうしたの、滉くん?」
「え、青子ちゃんって佐南の顔がタイプ? 好きだったの?」
滉征は恐る恐る――聞きたくないと言うように――聞いた。
青子は小首をかしげて――なんでそんなことを聞かれるか分からないと言うように――答えた。
「一番好きなのは滉くんの顔だけど」
「!?」
「滉くんもイケメンだもんね」
青子はへらりといつものように笑うが……。
言われた言葉が衝撃的で、その場に崩れ落ちそうだ。
とりあえず、この顔に生まれて良かったと思った。そんなことを思ったのは初めてだ。両親と神様にも感謝する。この顔で産んでくれてありがとう。
「滉くん、行こうよ」
「う、うん」
感動に浸りながらも、青子の隣に戻る。
「一番のイケメンは佐南で、一番好きなのは滉くんで、一番可愛いのは柊かな」
そう言う青子に、滉征は「柊はもちろん可愛いけど、俺にとって一番可愛いのは青子ちゃんだから!」と言おうかどうしようか一瞬迷い、言ってしまえと思った瞬間、
「あーっ!」
子供の声が聞こえた。
二人して思わず立ち止まり振り返る。
そこには飛んでいく黄色の風船と、それを追いかけて走り出す子供がいた。
その子の足が地面を離れたとき、「危ない!」と一緒にいた母親が慌てて飛ぶ子供を抱きしめる。母親の腕の中で、「僕のー!」と子供が風船に必死に手を伸ばしていた。
なんとなく、ふわふわと飛んでいく風船を見る。
すると、隣にいた青子の手が離れた。
ハッとして彼女を見れば、その視線は飛んでいく風船に固定されていて。
走ってもいない。一歩踏み出したわけでもない。
それなのに。
青子の身体は音もなく浮かんだ。
そして、風船へとあっという間に飛んでいく。
その背中に、いつかの青子の背中が重なる。
初めて見たときに滉征を捕えた、飛んでいく青子の背中。
滉征はまぶしそうに、それを見つめた。
彼女は今日も空を飛んでいた。
END
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




