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遥か未来へと続くわたしたちの生きた証

とうとう、最終回です。

 この地にたどり着いて一ヶ月の時間が流れ、わたしはこの地のことをすこし調べました。この地には、人によって絶滅させられた動物のコロニーが群生しており、わたしが初めて見たウミカラスも群れを作って生きていました。


「陸にはジャイアントモア、空にはリョコウバト、そして海にはステラーカイギュウ。どういうことでしょうか?」


 そしてわたしがわかったことは、この世界がすでに夢ではないということでした。既にわたしから夢から覚めるという感覚は失われており、逆にこの世界で睡眠をとるることができます。


「わたしが住んでいたところもここから見える……内陸に行ったら簡単に森も見つかった…………元の世界にある陸なんて、汚染されて動物が住める所じゃないはずなのに」


 わたしは目の前に歩いてきたウミカラスを撫でながら、独り言をつぶやいていました。わたしに撫でられたウミカラスは、気持ち良さそうに目を細めながらすり寄ってきます。


「……ウミカラスちゃん、ここは一体なんなのですか?」


 一通りウミカラスとじゃれ合うと、わたしは陸にある森の中の探索へ向かおうと立ち上がりましたが、わたしの後ろをウミカラスがついて来てしまいます。


「ねぇウミカラスちゃん、わたしは今から危ない所に行こうと思ってるの。それでもいいの?」


 ウミカラスはグァっと鳴いて返事をしました。なんとなくわたしは、ウミカラスが「いいよ」と言っているような気がしました。それならば、とわたしは一匹のウミカラスと森の中に入っていきました。


 森は暗く、湿った空気が吹き抜ける素敵な場所で、わたしのお気に入りな場所でもあります。しかし昨夜、この森の中から狼の遠吠えが聞こえたので、ちょっとだけ探検しようと思いました。


「よっと………大丈夫?ウミカラスちゃん」


 少し険しい道を歩いたせいか、ウミカラスは少し疲労しているように見えました。しかしウミカラスは大丈夫だというので、仕方なく私はウミカラスを抱き上げて進むことにしました。


「ウミカラスちゃん、君ちょっと重くない?」


「グァ!」


 そのまま少し進むと、やはりオオカミのコロニーがありました。この狼も、どうやら人間の手によって絶滅されられたフクロオオカミという種類のオオカミのようです。


「やはりオオカミはいたのですか………さて、気づかれる前に帰りましょう」


 わたしが帰ろうとすると、なんと手元から抱っこしいたウミカラスが飛び出して、あろうことかオオカミの群れの方へいってしまったのです。


「危ない!」


 そう思ったのも束の間、オオカミたちはウミカラスにじわじわと近寄っていきます。わたしは恐ろしくなって目を閉じてしまいました。しかし、何分経ってもそこから先の動きが起きません。どういうことかとそちらを見ると、なんとオオカミたちはウミカラスを取り囲んで、仲良くまるくなってねていたのです。


「え……なんで?」


 わたしには何が起きているのかさっぱりわかりませんでした。目の前で仲良く眠る捕食者と被捕食者の関係性を持った二匹の動物。それも人間の記録では絶滅が確認された二匹の動物が……


 わたしは逃げ出しました。この土地は分からないことだらけです。こんなことだったら陸なんて来なければ良かったとも思えて、頬を涙がつたいました。


「イオちゃん……なんなの…………何が起きてるの……?助けて…………」


 必死に走っていたら、いつの間にか海岸に出ていました。わたしは息を切らせたまま、海の中へと入っていきました。もしかしたらあの姿に戻れるかもしれない。そしてイオちゃんとまた出会うことができるかもしれないと、そう思ったからです。


 しかし、現実は違いました。いくら海に入っていっても、姿が変わることはありませんでした。少しだけ汚染された海水が口の中に侵入し、危うく溺れかけ、仕方なく陸へと戻りました。海岸には、いつの間にか先ほどのウミカラスがわたしを待っているかのように佇んでいました。


「はぁ……っ!」


 その姿に、私の心の中にはどこから湧いてきたかもわからないほど意味のない殺意が芽生え、気づかぬうちに近くにあった石を振り上げていました。


 しかし、それを振り下ろすことはありませんでした。わたしの記憶が、それを邪魔するのです。


 ウミカラス、詳しくいえば私の目の前にいるオオウミガラスは、人間によって絶滅させられた動物の確固たる例です。とある探検隊の飢えをしのぐために初めて人間に食されたのが最後、食料や皮のために乱獲が繰り返された挙句、数が減ったということで次は剥製が貴重になったということで殺され、最後に生き残っていたと言われる二匹は面白半分に殺され、卵も潰されて絶滅したと言われています。


 この内容を宇宙船の中でずっと聞いていたわたしには、殺すことなんてできませんでした。それどころか、少しでも芽生えてしまった殺意に恐怖を感じ、自分を責めました。そんなことを知ってか知らずか、ウミカラスはわたしに近寄って、なおも人懐こくすり寄ってきました。


「わたしは、どうすればいいの……?」


 私がそう思った、その時でした。


「俺も、わからないんだ」


 近くから、わたし以外の人間の声が聞こえました。あたりを見回すと、そこには先ほどまでいなかったはずの男の子が一人、私を見ながら立っていました。彼の声は、とても懐かしく、それでいて安らぎを感じました。


「マコ……だよな?」


「イオちゃん……だよね?」


 お互いが疲れきった表情でお互いを見つめました。わたしが言えたことではありませんが、彼はまだ若く、声変わりもしていないようでした。


「会いたかったぜ、マコ。お前には伝えなきゃいけないことがあるからな」


「何ですか?それより、あなたも人間だったのですね」


「隠すつもりはなかったんだ。それでもマコを陸に連れてくるにはこうするしかなかったと思ってな」


「人間の生き残りはわたし一人のはずでしたが……」


「俺はいわゆるマコのつがい(・・・)だよ。人間が絶滅すると言われた三日前に、たった一人だけ地球で生き残らせる技術を開発して、その一人に選ばれたのが俺なんだ」


「じゃあ、あの夢は……あの、わたしたちの深海での夢は!?」


「あれは夢なんかじゃない、現実だ。俺たち生き残りが、唯一汚染されていないこの地へ安全に来れるようにするための手段だったんだ。深海生物の肉体を利用し、そこに俺たちの意識を寝ている間だけ移すことで行動可能にさせ、陸に上がるとともに深海生物の肉体を元々の肉体へと変化させる……


 ほら、お前も宇宙船に乗る前に、血と細胞を取られたろ?それを使って深海生物を人間の肉体に再構成させたんだとさ。まあ、説明してる俺もよくわからないんだが」


 わたしの質問責めに、何一つ困った表情も見せずにイオちゃんは答えてみせました。彼の喋り口を見る限り、これは嘘ではないようです。


「それじゃ……わたしたちはなぜ……」


「わからない。それだけは誰も教えてくれなかったんだ」


 これだけはさすがのイオちゃんも分からないようです。だから、わたしも考えることにしました。何故、この土地に呼ばれたのか。船もあるのだし、それこそその運搬方法でわたしの住んでいた建物に集めればよかったのではと思いました。でも、もしかしたら……


「生きた証を残すため……ですかね?」


「……どーいうことだ?わかりやすく説明してくれ」


 わたしは、頭の中に少しだけよぎった考えを構成し、言葉に置き換えました。あっているかもしれないし、間違っているかもしれませんが、この地球の現状と自分の現状から考察した答えは、これしかありませんでした。


「今ここにいる動物は、人の手によって絶滅させられた動物や、させられかけた動物などです。わたしたちもわかっているとおり、家畜や普通の野生動物などは汚染された地域でも生きることができます。ただ人間と、人間が作り出したもののみに作用するものです。


 しかし、この地だけは違った。人間の作り出したものも、人間そのものも生きることができる唯一の土地……しかしそれが知られたら、普通の人間たちはおそらくここに殺到したでしょう。だから誰にもそれを言わず、わたしたちだけをここに来させたのではないでしょうか?


 人間が罪滅ぼしのために作り出した絶滅した動物のクローンを、保護させるために。そしてわたしたち人類が生きていた証を残すために」


 わたしが考えついた理由は、少し甘すぎるような気もしました。しかしイオちゃんはこの仮説に納得がいったようです。


「それじゃあ俺たちが何をするか、決まったな」


「はい」


 無意識のうちに、わたしとイオちゃんは手をつないでいました。それを見物するように、あたりのウミカラスや森から出てきたオオカミにシカ、空を飛ぶ無数の絶滅したはずの鳥たちが集まってきました。


「わたしたちが死ぬまで、この地を守り続けましょう。そしてこの地を、わたしたちが死んだ未来、他の知的生命体が現れた時にでも誇れるような、遥か未来へと続くわたしたちの生きた証にしましょう!」


「おう!」






 その後わたしたちは、この地から見えたわたしの住んでいた建物を拠点にただただ生き続けました。時に大きな天変地異でこの地が危険になったときは、建物の中にあった様々なものを駆使してこの地に住む動物たちを守り抜きました。


 そして少しずつではありますが、この地の環境を広げ、地球の浄化もすることができるようになりました。今もビルの屋上にある農場でとれた野菜と卵を食べながら、今は二人……いや四人で暮らしながら、この地を守り続けています。


「お母さん、何やってるの?」


「これはね、未来にもしわたし達みたいに頭のいい生き物がいた時のために記録をしているの」


「ふーん……って『深海 しんかい! 〜Shin-Kai〜』って、どんな題名よ」


「お母さん、センスないかな……」


「そ、そんなことないって!あ、お父さんと弟が呼んでたよ。朝ごはんだってさ」


「はい、じゃあ一緒に行こうか」


 わたしは娘の手を引っ張って二人のいる食卓へと向かおうとしました。しかし、一つだけやり忘れたことがあったので、娘の手を一旦離して、電波のスイッチを入れて、一言。


「こちら、太陽系第三惑星、地球です。今日もとてもいい一日です。よければぜひ、地球に訪れてください」


 宇宙に向かって、地球を宣伝しました。家族からは笑われていますが、もし宇宙人がいたら、ぜひ地球の美しさを知って欲しいのです。


「お母さん、早く!」


「はいはい」


 今日も地球でたった四人の人間の生き残りは、緩やかに衰退してゆくこの地球と共に生き続けています。遥か未来へと続くわたしたちの生きた証を、残すために。

いかがだったでしょうか?


最終回だけがどうしても納得いかずに、何度も消して書き直しているうちにこんなに長引いてしまいました。


さて、この作品を書いた経緯につきましては、最初はディストピアストーリーに『深海』という要素をどうにかして織り交ぜたいと思って書き始めたのです。


しかし海の生物のことを調べていくうちに、最終回で大活躍したオオウミガラスという存在に出会ったのです。


そこで色々と模索した結果がこうなりました。


皆さんがもし、イオやマコの立ち位置についたらどうしますか?作者はおそらく気が狂ってしまうと思います。


今回の話で深海の生物、そして絶滅した生物についてすこしでも興味を持っていただけたらと思っています。


作中に残された謎についてですが、今後他の作品にて少しだけ触れていきたいと思っています。


さて、長くなってしまいましたがこれにて深海は終了です。至らない点が多くございましたが、楽しんでいただけたらと思います。


では。

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