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婚約破棄された令嬢を領地につれて帰った豚ですが…  作者: あらたまのみこと


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前編

人の容姿というものは、遺伝として両親や先祖から受け継ぐものである。 しかし、中には突然変異のように、優れた美貌を持つ者が生まれたりもする。もちろん、その逆も然りだ。


両親、祖父母、曾祖父母に至るまで、細身で知性派の系統だった一族から生まれたのは、なんと丸々と太った可愛い子豚だった。 長男として産まれたものの、一族の誰にも似ていない。

産んだ母の浮気かとも一瞬疑われたが、引きこもり気質の一族ゆえに、それもあり得ない話だった。 父も疑うことなく、それを突然変異として受け入れた。むしろ、その突然変異に興味津々だったと聞く。


数年後、弟と妹も生まれたが、こちらは一族の遺伝子をしっかり受け継いでいた。母はほっと胸をなでおろし、父は少し残念がったという。


そんな「王国の頭脳」と称されるフランベル侯爵家の長男が、俺、アースラン・フォン・フランベルである。


俺の突然変異は、容姿だけにとどまらない。

まず、前世の記憶がある。前世もブサメンだったが、さすがに豚ではなかった。まあ、この前世の記憶のおかげで、俺は自分を客観的に見ることができている。「豚は豚」なのだ。

しかし、あの有名な『赤い豚のパイロット』のようになることなら、できるかもしれない。 この太った肉体は、脂肪の下に恐ろしいほどの筋肉を蓄えており、この世界にある魔術と組み合わせることで、素早く力強い「動ける豚」となる。

15歳を迎えた俺は、凄まじい戦闘能力を身につけており、兵士たちからの戦慄混じりの渾名は「オーク・エンペラー」だった。


さて、そんな巨漢で豚な俺なのだが、当然の如くモテない。

こないだ魔物に襲われていた馬車を助けたのだが、乗っていた美少女には悲鳴を上げられ、白目を剥いて卒倒されてしまった。一応、屋敷に連れ帰って介抱させたのだが、気づけば弟と懇ろになっていた。

お兄ちゃんが縁を結べて嬉しいよ(血涙)。


まあ、学園卒業までに婚約者ができなかったら、家督を弟に譲って冒険者にでもなればいいか。

なんて、のんきに考えていた。

よくあるファンタジー小説のように、貴族の子供は15歳から学園への入学が義務づけられており、例に漏れず俺も入学の運びとなった。 この頃の俺は、身長2メートルを超え、体重も200キロ。プラチナレッドの髪がたてがみのように逆立つ、野生味溢れる風貌となっていた。


学園では目立ちこそしたものの、特殊な戦闘能力は隠しながら、平和に暮らした。

成績は、算術・戦略・領地経営がトップクラス。歴史は赤点ギリギリ。魔術とマナーはそこそこ、といったところだ。

「俺は凶暴なオークじゃないよ」と朗らかに接し、こちらの容姿に見慣れてもらうことで、男友達もできた。親友となった伯爵子息にいたっては、夏休みに実家に連れて行ったら、妹と懇ろになった。

またまたお兄ちゃん、縁を繋いでしまったよ。


だけど、これにはちょっとホッとした。

俺の悪評のせいで、弟妹の縁組が壊れやしないかと懸念していたので、良いご縁が繋がって何よりだった。


さて、時は流れて、巨大な爆弾が投下されたのは学園の卒業パーティーでのこと。

俺は冒険者になることも視野に入れていたので、「帰ったら両親と話をしないとなぁ〜」なんて気楽に考えつつ、相手もいないのでひたすら食事タイムを満喫していた。


辺りが急に喧騒に包まれたかと思うと、親友の伯爵子息が、俺の脇腹を肘でつついてきた。


「なんだ? 肉ならまだ余ってるぞ」


俺が猛烈な勢いで子羊肉を頬張るものだから、喉に詰まらせないか心配してくれたのか。そう思って振り返ると、彼はパーティー会場の中央を指さした。


「お前、呼ばれてるぞ」

「ほえ? 俺が?」


自慢じゃないが、高位貴族の長男とはいえ、この容姿ゆえに貴族たちからは露骨に避けられている。 パーティー会場の中央にいるような、スクールカースト最上位の知り合いなんていないはずなのだが……。


まあ、呼ばれているなら行ってみよう。どうせ「購買でアンパン買ってこい(笑)」みたいなノリだろう。


「アースラン・フォン・フランベル! どこにいる!」


叫んでいたのは王太子殿下だった。なぜに? それにしても、この巨体を見つけられないとは、目が悪いのだろうか。 そんなことを思いつつ、「へいへい」と心の中で呟きながら、会場の中央へのっしのっしと歩み出た。


「アースラン・フォン・フランベル、お呼びにより参上いたしました。何か御用でしょうか?」


すると、王太子は苛立ちを露わにして、 「なんだ、その態度は!」 とキレてきた。

理不尽極まりない。呼ばれたから現れただけなのに、なぜか怒っている。


これはあれか。最近の若いもん特有の情緒不安定ってやつか? しかし、一方的にキレられると、こちらもさすがにムッとする。


「呼ばれたから参上した次第ですが、なぜ怒られねばならんのですか?ご用件があるなら事前に通知してください」


少し皮肉交じりに言ってやった。無礼だ何だと騒がれたら、爵位を返上して平民になればいいだけのことだ。


案の定、王太子と取り巻き達は「無礼だ」「この豚め」と、好き勝手に罵倒し始める。


挙げ句の果てには、騎士団長の子息がこちらに向かって突進してくると、俺の胸ぐらを掴んで「頭を下げろ!」と強要してきた。ムカついたので、そいつの頭を片手でガシッと掴み、そのまま締め上げるようにして持ち上げてやった。


「無礼なのはどちらだ。お前はただの伯爵家だろうが」


伊達にオーク・エンペラーと呼ばれていないのだ。

手足をジタバタと悶えさせているが、俺の腕はびくともしない。


弟妹の縁組がすべて無事に完了している以上、学校でこれ以上大人しくしている必要もない。卒業すれば二度と会うことのない連中だ。「もう、どうとでもなれ」という心境だった。

俺を「ただの太った豚」だと侮っていた周囲の連中は、その光景を見て顔を青ざめさせ、会場は一瞬で静まり返った。


やがて騎士団長子息が口から泡を吹き始めた。 おっと、これ以上やると本当にマズいか。 手を離してやると、彼はそのまま床に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。気絶したらしい。まあ、いいか。


「で、王太子殿下。私に何か御用でしょうか?」


王太子はガタガタと震えていたが、王族としてのプライドがあるのか、あわあわと口を動かしながらも言い放った。


「お、お、お前は、このアンジェリカと結婚しろ!」

「は?」


俺は、王太子の隣でぽつんと一人立ち尽くしている令嬢に目を向けた。 王太子の婚約者、アンジェリカ・フォン・テスラ公爵令嬢だ。 彼女はこちらを怪物を見るような、あるいは「もう逃げられない」とすべてを悟ったような、悲痛な表情を浮かべていた。


「話が見えないのですが?」

「は、話を聞いていなかったのか!?」

「いえ、聞いていましたが、意味がわかりません。突然呼びつけられ、怒鳴り散らされ、挙句の果てに結婚しろとは、理解が追いつかないのですが」

「その結婚に至る経緯を、今の糾弾で聞いていなかったのか!」

「はあ、知らんですな」


王太子は身悶えして頭を抱えた。情緒は大丈夫だろうか。この王太子、どこか脳のネジが飛んでいるんじゃないか。


「もういい、王太子命令だ! そこのアンジェリカを連れて行って、領地で勝手に結婚しろ! これは王命だ!」

「いや本当に、何を言っているんですか。王命というのは国王陛下が発するものでしょう。王太子殿下にそんな権限はないはずですが」

「うるさい、うるさい! もう行け! 行ってしまえ!」


王太子は大きく手を振り、犬でも追い払うように「しっ、しっ」とジェスチャーをした。さて、どうしたものか。

王太子からは厄介払いされ、アンジェリカ嬢は完全に放心している。 「連れて行け」と言われても困るのだが……。

頭をポリポリとかき、なるべく威圧感を与えないよう穏やかなトーンを意識して、アンジェリカ嬢に話しかけた。


「よくわかりませんが、とりあえず着いてきていただけますか? すみませんが、詳しい事情をお伺いしたいので」


アンジェリカ嬢は、視線を床に落としたまま、コクンと小さく頷いた。

俺は彼女にそっとエスコートの腕を差し出し、一緒にゆっくりと会場を後にした。



アンジェリカ嬢を馬車に乗せ、王宮を後にする。といっても、俺の巨体を普通の馬で引っ張ることはできないため、馬型の魔獣が牽引する特注の馬車だ。


馬車の中は、絶望の面持ちでひたすら床を見つめ続けるアンジェリカ嬢と、それを見て困り果てる豚(俺)という、実に見事な地獄絵図だった。 もしかすると「これからオークの巣に連れ去られて、ひどい目に遭うんだ」とでも思っているのかもしれない。彼女に気づかれないよう、そっとため息を吐いた。


王都にある我が侯爵邸に到着すると、執事が、俺が公爵令嬢を連れているのを見て天変地異でも起きたかのように大騒ぎし始めた。それをなんとか宥め、アンジェリカ嬢を侍女に預けると、執事には分かる範囲で説明をした。 「どうやら何かの罰ゲームで、俺と結婚しろと王太子に無茶振りされたらしい」と。事情を聞いた執事は涙を流していた。

泣くなよ。俺は知らんがな。


アンジェリカ嬢の世話をする侍女には「今夜はゆっくり休ませるように」と伝え、俺自身は公爵邸へと向かうことにした。彼女を我が家に入れて俺も在宅のままだと、後から貞操を疑われて傷モノにされたとされかねないからだ。夜のうちに身の安全と居場所を報告しておく必要がある。 馬車から馬を外し、今度はそれに跨って公爵邸へと向かった。


公爵邸に到着したのはよかったが、当然のように門兵に鋭い槍の先を向けられた。 俺の容貌に怯えて震えてるし、侯爵家の者だと名乗っても、彼らは俺の両親を知っているため、このオークのような男がその息子であるとは信じてくれないのだ。

困った。


だが、騒ぎを聞きつけて出てきた公爵家の家宰が俺の顔(?)を知っていたため、事態は収拾した。門兵たちは平謝りだったが、まあ、夜遅くに突然「オーク・エンペラー」が現れたら誰だってビビる。

驚かせて悪かったね。


幸いにも公爵閣下はご在宅だった。

アンジェリカ嬢をこちらの屋敷で保護している旨と、パーティー会場での顛末(執事に話した内容と同じこと)を伝えると、公爵閣下は丁寧にお礼を言いつつも、どこか同情に満ちた哀れみの視線を向けてきた。

とりあえず「明日の朝、娘を迎えにきてほしい」と告げ、公爵邸を後にする。


そこから王都で宿を探したのだが、「お客様の体重を支えられる頑丈なベッドがありません」と軒並み断られてしまった。仕方がないので、冒険者たちが野営する広場で野宿することにする。

ちなみに俺はすでに冒険者登録を済ませており、一応Aランクだ。

「夜中に絡まれたら面倒だな」と懸念していたが、幸いにも何事もなく朝を迎えることができた。

公爵閣下がお迎えに来る前に、体を清めておかなくては。


我が侯爵邸に戻ると、アンジェリカ嬢がすでに起きて待っていたようで、執事と共に出迎えてくれた。

彼女は昨夜のお礼と謝罪を述べようと近づいてきたが、俺は手でそれを制した。


「あ、ごめん。それ以上は近づかない方がいい。まだ朝風呂に入ってないんだ」


そう言って待ってもらい、俺はそそくさと風呂場へ直行した。

昔、訓練後に妹に近づいた際、その臭さで泣かれたことがあり、汗臭い状態で女性に近づくのがトラウマになっちゃったのよ。


さっぱりして朝食の食堂へ向かうと、そこにはアンジェリカ嬢だけでなく、公爵閣下もすでに到着されていた。 お二人ともお茶を召し上がっていたので、俺は給仕にコーヒーを頼み、席に着いた。


「おはよう。ほう、アースラン殿はコーヒー派かね」

「おはようございます、公爵閣下。ええ、この苦味とコクが好きでして。愛飲しております」


といった具合で、公爵閣下と和やかにモーニングを楽しむことになった。 アンジェリカ嬢はひと言も喋らず、黙々と食事を進めていた。まあ、食欲があるなら体調は問題ないだろう。


朝食が終わり、一息ついたところで、公爵閣下はアンジェリカ嬢に向き直った。


「アンジェリカ。昨夜、学園で何があったのかを話しなさい」

「はい……」


アンジェリカ嬢は、蚊の鳴くような細い声で話し始めた。


「王太子殿下から一方的にエスコートを断られ、一人で会場に向かいました。すると、会場入りした途端に殿下と側近の方々に呼び出され、わたくしが殿下のお気に入りの子爵令嬢を虐めていたと糾弾されたのです。

事実無根だと否定しましたが、『証拠はある。言い逃れはできない』と切り捨てられ、婚約を破棄されました。そして……アースラン様に嫁げ、と」


相変わらず視線は下を向いたまま、今は手元のティーカップを見つめている。

しかし、これって完全に乙女ゲームのテンプレ展開じゃないか? オーク・エンペラーが出てくる乙女ゲームって、ジャンルはどうなってるんだ。

そのうち、俺が「アンジェリカ嬢を攫ったオークの魔王」として討伐されるイベントでも発生するんじゃないだろうな。


「その後、アースラン様にこちらの邸へ連れてきていただき、一晩保護していただきました」

「なるほどな。王太子殿下の愚行には頭が痛い。一応確認するが、お前はその子爵令嬢に本当に嫌がらせをしていないのだな?」

「はい。『婚約者のいる身で、他の令息にみだりに近づくのはお控えなさい』と注意はいたしましたが、それ以外は何も。そもそも接点すらほとんどありませんでした」


うん、まさにテンプレートだ。 俺はコーヒーを啜りながら、完全に他人事として聞いていた。

まあ、あとは公爵家と王家が話し合って解決する問題だろう。巻き込まれた豚さんの出番はこれにて終了だ。


「それで……お前は、アースラン殿に嫁ぐ意思はあるのか?」


ブッ――と、口に含んだコーヒーを盛大に吹き出しそうになった。何を言っているんだ、このオッサンは。

あまりの衝撃に俺が呆然としていると、公爵閣下とアンジェリカ嬢が、こちらを見てクスクスと小さく笑った。


「王太子殿下の命令(王命)ですので、王家から正式な撤回の回答がない現段階では、従わなければ『王命違背』の罪に問われかねません」

「そうだな。正式な王命かは怪しいが、王太子からの命令であることは事実だ」


公爵閣下は少し考え込むように、俺に視線を向けた。


「アースラン殿。すまないが、しばらくの間、アンジェリカを預かってもらえないだろうか? まずは王家の出方を見極めたい。フランベル家に決して不利益はいかせないよう取り計らうので、頼む」

「そう来ますか。……ああ、それなら、春から弟と妹が学園入学のために王都へ上がってきます。その期間、こちらの侯爵邸で一緒に過ごしていただく形なら。今は使用人が少ないですが、弟妹が来れば人員も増えますので」

「アースラン殿も王都に残られるのか?」

「いえ、俺はさっさと領地に帰りますよ」

「それなら、アンジェリカも一緒に領地へ連れて行ってもらえないだろうか?」


なんでだよ! 社交界で「オークに陵辱された令嬢」とか噂されちゃうぞ。ヤバいって、マジで。


「……絶対におすすめしません。アンジェリカ嬢に、取り返しのつかない悪評が立ちますよ。それこそ、婚約破棄なんて可愛く思えるほどの噂が」


アンジェリカ嬢が不思議そうに首を傾げた。


「婚約破棄が、可愛い……ですか?」


はぁ、と深いため息を吐いた。もういい、諦めよう。こういうことは、高位貴族にははっきり現実を突きつけないと理解できないのかもしれない。


「俺と一緒に領地へ行ったとなれば、社交界ではこう噂されます。『豚に犯された』『オークに陵辱された』『オークの巣に連れ去られた女』『魔物に生贄として捧げられた哀れな姫』とね。こうなれば、もはや人間社会では生きていけません。生まれてくる子供は『母親の腹を裂いて生まれてくる魔物のハーフだ』とまで言われますよ」


あまりにも生々しく酷な内容に、二人は言葉を失って静まり返った。


「間違いなく、これくらいのデマは一瞬で広まります。名誉回復どころの騒ぎじゃありません。公爵閣下だって『我が子を怪物に生贄として差し出した親』と後ろ指を指される。これは確信です。社交界の悪意を甘く見てはいけません」


これは卑屈になっているわけではなく、客観的に見た社交界のリアルな反応を予想しただけだ。

俺の本来の人間性を知っている身内と、外見だけで判断する大衆とでは、その認識の差は天と地ほどもある。もし俺に前世の記憶がなければ、とっくに心を病んでまともな人生を送れていなかっただろう。それほどまでに「外見」の第一印象というものは残酷なのだ。


「王命を騙って俺と婚姻させようとしたこと自体、公爵閣下、ひいてはテスラ公爵家に対する最大級の侮辱行為なんですよ」


結局、俺の進言が通り、アンジェリカ嬢は王都の侯爵邸に残ることになり、俺は予定通りさっさと侯爵領に戻ることになった。俺が去れば、入れ替わりで弟妹が王都にやってくるため、不貞を疑うような変な噂が立つ余地もない。


公爵閣下とアンジェリカ嬢が「どうしても何かお礼をしたい」と言うので、代わりに弟妹の勉強を見てやってほしいとお願いした。 アンジェリカ嬢は学園を首席で卒業した才女だ。学園内の派閥や人間関係にも詳しいし、弟妹にとってはこれ以上ない家庭教師になってくれるだろう。

公爵家からアンジェリカ嬢付きの侍女も何人か呼び寄せる手はずが整い、身の回りの世話の心配も解消された。


こうして俺は、王都に連れてきていた一部の使用人たちを屋敷に残し、当初の目的通り、のんびりと実家の侯爵領へと旅立った。


評価・レビュー等は受け付けておりますが、返信できない場合が多いので、ご承知おきくださいmm


本作はAI(Gemini)を利用し、校正を行っています。

基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。

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