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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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閑話 神であっても怒られる時はある

 深い緑に満たされた森の奥――そこは、人の立ち入ることのない領域。

 大地の精霊王が統べる、静謐にして厳かな空間である。


 風は穏やかに木々を揺らし、足元には柔らかな苔が広がる。

 本来であれば、訪れた者の心を安らがせるはずのその場所は――


「……」


 しかし今、妙な緊張感に包まれていた。


 理由は単純。


 森の中心、開けた一角。

 そこに――


「…………」


 きっちりと正座をしている少女が一人。


 理を綴る者、ミストルティンである。


 普段の奔放さはどこへやら。背筋をぴんと伸ばし、膝の上に手を置いたその姿は、まるで叱られる前の子供そのものだった。


 そして、その正面には――


「……ミストルティン」


 腕を組み、低い声で名を呼ぶ存在。


 大地の精霊王、ルヴァリオン。


 その隣には、同じく腕を組みながら眉をひそめる男――


「いやぁ、さすがに今回は擁護できねぇな」


 戦場を駆ける者、アルヴェク。


 二柱の視線が、まっすぐにミストルティンへと突き刺さる。


「うっ……」


 わずかに肩を震わせるミストルティン。


 逃げ場は、ない。


 ここは大地の精霊王の領域。

 そして何より――


「自覚は、あるな?」


 静かに、しかし逃がさぬ声音で問われる。


「……はい」


 観念したように、ミストルティンは小さく頷いた。


 ――こうして。


 神であろうと例外ではない、

 ありがたい(?)説教の時間が、幕を開けたのであった。


「で?」


 腕を組んだまま、ルヴァリオンが低く問う。


「なぜ、あのような真似をした」


 逃げ場のない声音。


 ミストルティンは一瞬だけ視線を泳がせ――


「……気になったから」


 ぽつりと呟いた。


「は?」


 アルヴェクの呆れた声が漏れる。


「だって! エレノアが作ったんだよ!? “防犯用の薬”って言ってたし――」


「だから試したのか」


 ルヴァリオンの一言で、言葉が止まる。


「……」


「場所は」


「……中庭の……離れの実験室です……」


「状況は」


「……引っ越し準備中で……人も……出入りしてて……」


「結果は」


「……爆発しました」


 小さく答える。


 森の空気が、ぴたりと止まる。


「ちなみにだが」


 アルヴェクが肩をすくめる。


「あそこ、薬品も資材も山積みだったよな?」


「う……」


「誘爆してたら、離れどころか本邸までいってたぞ」


「……」


 ミストルティンは俯く。


 そのまま、ルヴァリオンが一歩だけ踏み出した。


「ミストルティン」


「……はい」


「お前は、何のためにあの子の傍にいる」


 静かな問い。


 だが、その重さは明らかだった。


「……守るため、です」


 小さく、しかしはっきりと答える。


「ならば」


 ほんの僅かに、声が低くなる。


「なぜ、お前がその子を危険に晒した」


「――っ」


 息が詰まる。


「守るべき存在のすぐ傍で」


「出入りの多い場所で」


「制御も理解もしていない物を使い」


「結果、爆発を引き起こした」


 一つ一つ、逃げ道を塞ぐように言葉が重なる。


「それが、守る者の行動か」


「……ちが、」


 反射的に出かけた言葉は――


 続かなかった。


「違わない」


 静かに、断じられる。


「結果として、お前は危険を持ち込み、拡大させた」


「……」


「守る側が、それをしてどうする」


 完全な正論だった。


 ミストルティンの肩が、小さく震える。


「……はい……」


 消え入りそうな声。


 反論は、できない。


「エレノアは」


 ルヴァリオンが続ける。


「何も言わなかったな」


「……」


 ミストルティンの身体が、びくりと揺れる。


「怒鳴ることも、責めることもなく」


「周囲の安全確認を優先し」


「離れの被害と、保管物の損耗を即座に把握していた」


「……うん」


「その後も」


 一拍。


「お前に対して、何も言わなかった」


「……はい……」


 震える声。


「どう感じた」


 問われる。


「……怒ってる、って……思った……」


「違うな」


 ルヴァリオンは静かに首を振る。


「……え」


「呆れている」


「――」


 言葉を失う。


「怒る価値すらないと、そう判断されている」


「やめて……」


 小さな拒絶。


 だが止まらない。


「信頼があればこそ、怒りは生まれる」


「だがそれすら越えた時」


「残るのは、失望だ」


「……っ」


 ぎゅっと拳を握るミストルティン。


 何も言い返せない。


「ミストルティン」


「……はい」


「反省は」


「……してます……」


「ならば」


 ルヴァリオンが告げる。


「やるべきことは分かるな」


「……」


 ほんの一瞬の沈黙の後――


「……謝ります」


 小さく、しかし確かに。


 その言葉が落ちた。


「戻るぞ」


「……はい」


 足元に淡く光が灯る。


「逃げるな」


「……逃げません……」


「向き合え」


「……はい」


 光が弾ける。


 次の瞬間。


 中庭にある離れの実験室――その前。


 扉は半壊し、壁の一部が焦げている。


 中からは、まだかすかに薬品の匂いが漂っていた。


「……ミストルティン様」


 静かな声。


「……はい……」


 恐る恐る振り向く。


 そこには――


 いつも通りの、穏やかな表情のエレノア。


「少し、お時間よろしいですか?」


「……はい……」


 怒気はない。


 責める色もない。


 ただ――淡々としている。


 それが、何よりも怖い。


「今回の件ですが」


「……はい……」


「同様の事象が再度発生した場合」


 一瞬の間。


「次は、実験対象として扱いますね」


「え?」


 顔を上げた瞬間。


 にこり、と。


 柔らかな笑顔。


「もちろん、安全には最大限配慮いたしますので」


「いや全然安全じゃないよね!?」


 思わず叫ぶミストルティン。


「……反省は、しているのですよね?」


「してます!! 本当にしてます!!」


 即答だった。


 食い気味だった。


 全力だった。


 ――その日。


 理を綴る者は。


 しばらく実験室への出入りを固く禁じられた。

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