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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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閑話 引っ越しの影で進むもの

エレノア達が引っ越しの準備を進めているころ――


王城内の大会議室には、この国の重鎮たちや各騎士団長、小隊長たちの姿があった。


長机を囲むように並ぶ者たちの表情は、いずれも硬い。軽い会議ではないことは、一目で分かる。


「――では、会議を開始する」


低く、よく通る声が室内に響いた。


口を開いたのは宰相である。


その一言で、ざわめきは完全に消えた。


「議題は一つ。“エレノア嬢の護衛計画の見直し”についてだ」


その名が告げられた瞬間、何人かの騎士がわずかに息を呑む。知らぬ者はいない。


だが――


「見直し……ですか」


騎士団長の一人が静かに口を開く。


「現行の体制でも、すでに過剰と言える水準かと」


その言葉に、何人かが小さく頷いた。


王命直轄の護衛。常駐部隊。敷地内拠点。さらに複数の緊急対応手段。ここまで揃えられる対象など、通常は存在しない。


だが。


「エレノア嬢の警備に過剰ということはない」


宰相が、静かに口を開いた。


その声は低く、しかし一切の迷いがない。


「むしろ、さらに厳重にしなくてはならない」


淡々とした口調。だが、その一言で場の空気が引き締まる。


「現行の体制は、あくまで“基準を満たしている”に過ぎない。“万全”とは言い難い」


誰も口を挟まない。挟める空気ではなかった。


「我々が想定している脅威は既知の範囲に過ぎない。しかし、対象はエレノア嬢だ。未知の事象が発生する前提で動くべきだろう」


その言葉に、何人かがわずかに表情を引き締める。


「ゆえに――」


宰相は、はっきりと言い切る。


「現行体制は強化を前提とする。過剰という概念は、この件においては存在しない」


静かな断定だった。だが、それは命令と同義だった。


「まず、防衛構造の再設計を行う。具体策を示す」


机上に広げられた図面へと、全員の視線が集まる。


「屋敷の外周には、強力な防護結界魔方陣を設置する」


「結界……強力、ですか?」


第三騎士団団長が眉を寄せる。


「既存の王城防衛網を上回る規模だ」


淡々とした説明に、室内の空気がさらに引き締まる。


「屋敷敷地内では、王城と接続された転移門以外、および屋敷関係者以外の転移を封じる術式を施す」


「……完全に封じる、ということか」


第四騎士団団長が確認する。


「その通りだ」


宰相の声は静かだが、圧は明確だった。


「加えて、屋敷内部には魔力波長を検知する装置を至るところに設置する。登録外の波長を検知次第、即応部隊が転移門から現場に急行する」


「関係者以外の魔法を封じる結界術式も構築する」


「――つまり、内部での魔法的干渉は成立しない」


「そう理解して構わない」


短いやり取りの中で、内容の異常さだけが際立っていく。


「さらに、24時間体制で王命錬金護衛隊を常駐させる。騎士団も当番制で巡回を行う」


「王命錬金護衛隊の増員も並行して進める」


「……増員ですか」


第五騎士団団長が小さく息を吐く。


「必要である」


一言で断じられた。


「もちろん、これで終わりではない」


宰相は図面を指し示しながら続ける。


「屋敷の各区画に侵入検知および隔離手段を増設する。避難転移の基準とルートも再検討し、発動条件の微調整を行う」


「……順次、ですか」


団長たちが顔を見合わせる。


「段階的強化ではない。常時最適化だ」


その言葉に、誰も反論できない。


「全体像を理解せよ。屋敷の防御網は多層かつ自動化されている。外部侵入は想定済み。内部干渉も即座に無力化される」


静かに、しかし確実に言い切る。


「これだけ揃えられる対象は、通常存在しない」


一拍。


「だが、エレノア嬢の警備に“過剰”という概念は存在しない。むしろ、さらなる強化が必要だ」


「……承知しました」


一斉に頷く騎士団長たち。


「各自、これを前提に即応態勢を整えよ。理解できぬ者は、屋敷に近づく資格すらない」


その言葉の重さが、会議室の隅々にまで染み渡った。


ーー王都・セレスティア伯爵家


王城でエレノアの護衛計画の見直しが行われている頃――

屋敷内では、王命錬金護衛隊による各設備や魔法陣の点検に加え、実際の護衛計画に沿った演習が行われていた。


「転移門の動作と、緊急避難用の転移魔法陣――いずれも問題ありません」


「神族側の領域への接続は確認できたか?」


「そちらは、エレノア様の関係者以外は転移できないため、実地確認は不可能です」


「……そうか」


短いやり取りの後、隊長はわずかに視線を落とした。


「だが、理論上の接続は成立しているのだな」


「はい。魔力経路、座標固定、術式連動――いずれも正常値です」


「発動条件に達した場合、問題なく転移が行われると推定されます」


「推定、か……」


小さく呟きながらも、否定はしない。


それが“神域”という未知領域に対する、現実的な判断だった。


「引き続き監視を継続しろ。異常があれば即時報告だ」


「はっ!」


周囲では、他の隊員たちもそれぞれの持ち場で確認作業を続けている。


床に刻まれた転移陣の輝度測定。

壁面に埋め込まれた魔力波長検知器の感度調整。

廊下に配置された封魔結界の再起動試験。


一つ一つが、確実に機能しているかを徹底的に洗い出していく。


「外周結界、第二層まで展開完了!」


「干渉テスト開始します!」


屋敷の外では、結界展開の確認演習も同時に進められていた。


複数の隊員が模擬的に侵入を試みる。


――が。


「侵入不可。弾かれました」


「魔力干渉、完全遮断を確認」


即座に結果が報告される。


「次、転移侵入を想定した試験に移る」


「了解」


術者が座標指定の転移を試みる。


しかし――


「転移……失敗。座標固定に弾かれています」


「王城接続門以外、完全封鎖状態を確認」


「よし、記録しろ」


淡々と進む確認作業。


だが、その最中だった。


「――待ってください」


一人の隊員が、わずかに声を上げた。


「どうした」


「北側廊下の波長検知器が……一瞬、反応を取りこぼしました」


「何?」


空気が一瞬で変わる。


「再現します」


未登録の魔力波長を再度発生させる。


――数秒。


「……検知、遅延しました」


「反応まで約二秒のラグがあります」


「二秒だと?」


隊長の声が低くなる。


「通常は即時検知のはずだ」


「はい……ですが、先ほどと同様の遅延が発生しています」


「原因は?」


「現在解析中ですが……周囲の結界干渉の影響か、もしくは――」


言い淀む。


「言え」


「……神域接続術式との干渉の可能性があります」


「……」


一瞬、沈黙が落ちた。


誰もが、その言葉の意味を理解している。


――制御しきれていない領域がある。


「該当区画、即時封鎖」


隊長は迷わなかった。


「予備機に切り替えろ」


「原因の切り分けを優先。神域系統との干渉なら、単独で扱うな」


「はっ!」


一気に空気が張り詰める。


それまで“順調”だった点検が、一転して“実戦”に近づく。


「即応部隊、配置変更」


「遅延区画に重点配置!」


「了解!」


転移門が光り、部隊が再配置される。


わずか二秒。


だが――


「この二秒が命取りになる」


隊長が低く言い放つ。


「ここは“守られる前提”の場所ではない」


「“守り切る場所”だ」


その言葉に、全員が無言で頷いた。


「全系統、再点検を行う」


「想定外を潰せ。すべてだ」


「了解!」


再び、屋敷全体が動き出す。


先ほどまでの整然とした点検ではない。


より鋭く、より実戦的な動きへと変わっていく。


そして――


その中心にいる少女は。


自分が、どれほど厳重に守られようとしているのかを――


まだ、知らない。

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