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転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア


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5話 父の贈り物と、はじめての錬金術

翌朝――。

カーテンの隙間から差し込む柔らかな光に包まれながら、私はゆっくりと目を覚ました。

昨夜の出来事が、まるで夢のように胸の奥に残っている。

満月の光。お父様とお母様の言葉。

そして――精霊王様の、静かな眼差し。


(……本当に、受け入れてもらえたんだ……)


そう思った瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。


「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」


控えめなノックのあと、侍女がそっと部屋に入ってくる。

心配そうな表情に、少しだけ胸がくすぐったくなった。


「旦那様と奥様が、とても心配なさっていましたよ。

昨夜はお食事も取られなかったでしょう?」


「……うん。でも、もう大丈夫」


そう答えると、侍女はほっとしたように微笑んだ――。


侍女に着替えを手伝ってもらい居間に向かうと、すでに朝食の準備が整えられていて、ルーカスお兄様とアメリアお姉様が席についていた。


「あ、エレノア。おはよう」


先に気づいたのはアメリアお姉様だった。

優しく微笑みながら、少しだけ安心したように肩の力を抜く。


「おはよう……」


小さく挨拶すると、ルーカスお兄様がじっとこちらを見て――少し照れくさそうに視線を逸らした。


「……昨日、部屋の前まで行ったんだぞ。

でも、父上と母上が話してるって聞いて……その……邪魔しちゃ悪いと思って」


ぶっきらぼうな言い方なのに、声はどこか優しい。


「みんな、心配してたのよ」


アメリアお姉様がそっと続ける。


「朝もね、お父様が“起きてきたらすぐ知らせてくれ”って言ってたわ。

今日は早番で帰ってくるって」


「……お父様が?」


思わず目を瞬かせる。


早番――つまり、わざわざ仕事を早く切り上げて帰ってくるということだ。


胸の奥が、じんわりと温かくなった。


席に座ると、ちょうどそのタイミングで扉が開き、お母様が入ってきた。


「エレノア……!」


私の姿を見るなり、ほっとしたように微笑む。


「ちゃんと眠れた?」


「……うん。大丈夫」


そう答えると、お母様は安心したように頷き、私の頭をそっと撫でた。


「無理はしなくていいのよ。

でも……元気そうで、本当によかった」


その言葉に、昨夜の満月の光景がふっと蘇る。


――大丈夫。

私は、ひとりじゃない。


温かい空気の中、朝食が始まった。


けれど。


(……錬金術師、か……)


新しく始まる未来を思いながら、私は静かにパンをちぎった――。


昼食後、屋敷の敷地内にある魔法練習場で一人、基礎魔法の反復をしていると――庭の方から使用人が駆け寄ってきた。


「お嬢様、旦那様がお戻りです。離れに来てほしいと」


「離れに……?」


首をかしげながらも、私は魔法の練習を切り上げ、庭の奥にある小さな離れへと向かった。


扉の前に立つと、中からお父様の声がする。


「エレノア、入っていいぞ」


そっと扉を開けた瞬間、思わず息を呑んだ。


――そこは、見慣れた物置小屋ではなかった。


窓際には広い作業台。整然と並ぶ見慣れないガラス器具。小さな炉に、透明な管、秤、乳鉢、細かな刻印の入った金属器具……。


魔法とは違う、けれど確かに“何かを生み出す場所”の空気が満ちていた。


「……お父様、これ……」


呆然と呟く私に、お父様は少し照れくさそうに笑う。


「錬金術師になるんだろう? なら、まずは道具からだと思ってな」


そう言って差し出されたのは――分厚く重たい、一冊の本だった。


革張りの表紙には、古い文字で《基礎錬金術大全》と刻まれている。


「素材はあえて用意していない」


お父様は静かに続けた。


「何を使うか、何を集めるか……それも錬金術師の仕事だからな。最初の一歩は、自分で考えてほしい」


胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。


本を抱きしめると、ずっしりとした重みが腕に伝わった。


――期待と、信頼の重さ。


「……ありがとう、お父様」


小さくそう言うと、お父様は優しく頷いた。


「まずは水から始めるといい。どんな錬金術でも、基本を知るには一番わかりやすい」


私は作業台の上の透明なビーカーをそっと手に取る。


窓から差し込む光が、水の入っていないガラスをきらりと輝かせた。


(ここから、始まるんだ……)


自室に戻り、胸を高鳴らせながら私は分厚い本の最初のページを開いた――。

そこにはまず「錬金術とは」と書かれていた。


読み進めると、錬金術は「調合と錬成」から構成されているとある。

さらに読み進めると、わかりやすい解説が載っていた。

お湯に茶葉を入れ、その成分をお湯に溶かす――という例だった。


錬成は「素材を理解し、分解して、別の形に作り変える」と書かれていて、私は思わず息を呑んだ。

知らない世界が、いま目の前でゆっくりと開かれていく気がした。


次の章を読み進めると「水の違い」について書かれていた。

そこには、水は基本素材と呼ばれ、ポーションには必要不可欠な素材と書かれている。

だが、品質によって毒にも薬にもなるとも書かれていた。


『百聞は一見にしかず!

身の回りの水を調べて観察してみよう!』


……まるで本そのものが、私に語りかけているみたいだった。

――そうか。私には“鑑定”がある。

なら、やることは一つだ。


まずは、目の前の井戸水から。

水面にそっと手をかざし、意識を集中させる。


――鑑定。


頭の奥に理解が流れ込む。


【鑑定結果】

名前:井戸水

品質:普通−

備考:井戸に溜まった水

   飲用は可能だが、腹痛や下痢の原因となる細菌を含む場合がある

   煮沸殺菌してからの飲用を推奨


……井戸水って、そのまま飲めるものと飲めないものがあるのね。


次に、厨房で侍女に湯冷ましの水をお願いした。

同じように意識を集中させ、鑑定すると


【鑑定結果】

名前:飲用水

品質:普通

備考:水を煮沸殺菌して冷ましたもの

   そのまま錬金術に使えるが不純物が混じっている

   より効果を高めるには蒸留が推奨


煮沸殺菌しても錬金術には使えるけど、より効果を高めるなら蒸留が必要なのね。

侍女にお礼を言い、身近な水をすべて調べて回った結果、一番品質が良いのは飲用水だとわかった。


胸の奥で小さな希望が静かに膨らむ。

前世の知識も、今の私の“鑑定”も、これからの錬金術の道にきっと役立つ――。


「次は蒸留水を鑑定したいんだけど、確か水を一度水蒸気にして、それを冷やして溜まったのが蒸留水……よね……?」


せっかく離れに実験室があるのだ。ここを活用するしかない。

侍女のマリアを一人連れていくことにする。


「火を扱うので気を付けてくださいね?」

「はい……わ、わたし……気をつけてやるね……!」

小さな声で、でも一生懸命にうなずくマリア。


実験室に足を踏み入れると、錬金術用のフラスコや器具が並んでいる。

私はまず、水を注いだフラスコを火にかけた。


沸騰して立ち上る水蒸気は、ただの湯気ではない――冷却用魔道具が繋がった管を通して、再び液体へと戻る仕組みだ。


マリアは横で慎重に見守りながら、必要な器具を渡してくれる。

「この管に蒸気を通すと、また水に戻るのですよ」

説明を聞きながら、私は手元の器具に集中した。


蒸留水が完成した瞬間、頭の奥に意識を集中させて鑑定する。


――鑑定。


【鑑定結果】

名前:蒸留水

品質:高品質

備考:純度の高い水

   不純物や細菌はほとんど含まれておらず、錬金術に最適

   そのままポーションや実験に使用可能


胸の奥がじんわりと熱くなる。

――やっぱり、錬金術の道はこれから始まるんだ。


分厚い本を抱え、蒸留水を眺めながら、私は小さく息をついた。

「よし……これから、もっと勉強するんだ……!」


でも、心のどこかで小さな疑問が芽生える。


――ポーションを作るには、ほかにも素材が必要……よね?

この屋敷の中にあるものだけで足りるのだろうか。

それとも、外の森や川に行かなくちゃいけないのかも……。


胸の奥で、ほんの少し冒険心がくすぐられる。

――よし、まずは次に何を集めるか、調べてみよう。

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