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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第一章 幼少期編

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閑話 職を授かる儀式のあとで

職業神から職を授かる儀式の後――。

エレノアはどこか様子がおかしかった。


いつも明るく元気いっぱいの娘なのに、今日は顔を俯けたまま何も言わない。

どこか、子供っぽくない――。きっと、なにかあったのだろう。


家に帰るなり、エレノアは自分の部屋に閉じこもってしまった。

声をかけたい――。何があったのか、聞きたい――。


しかし、私も妻も声を掛けることができず、ただ背中を見つめるしかなかった。


思えば、この一週間、儀式が近づくにつれて、娘の表情はどんどん硬くなっていた。

最初は「初めてのことで不安を感じているのか」と思っていた。

だが、儀式が終わった今、自室に閉じこもるということは――ただの緊張や不安ではない、別の何かがあるのだろうと二人は感じていた。


私はため息をつき、心の中で静かに呟く。

「……何があったのか、聞いてやれればいいのだが」


妻もそっと肩に手を置き、優しく微笑む。

「焦らなくてもいいわ。娘なりに整理する時間が必要なのかもしれない」


二人は黙って、部屋の扉の向こうにいる娘を見守った――。


夕食の時間になっても、エレノアは自室に閉じこもったままだ。

使用人たちはそっとため息を漏らし、家中で心配の声が上がった。

「エレノア様が体調を崩されることなんて、これまでなかったのに……」


ルーカスとアメリアも、いつもより落ち着かない様子で食事を取る。

二人は互いに顔を見合わせ、心配そうに小さく頷いた。

食後、エレノアの部屋に行こうとしたが、私と妻に「今はそっとしておきなさい」と諭され、じっと我慢した。


――きっと明日の朝には、元気な姿を見せてくれるだろう。

淡い期待を胸に抱きながらも、家中の使用人たちは慌ただしく動き回っているのに、屋敷全体に静けさが漂っているのを感じた。

エレノアの部屋の扉の向こうでは、まだ暗い空気が支配している――。


夜が更け、静けさが支配する頃、私も妻も眠れずにいた。

娘のことが心配で、何度も声を掛けようかと思った。


すると妻が小さな声でつぶやく。

「そういえば、エレノアは何の職を授かったのかしら……」


思えば、教会で何の職を授かったのか聞こうとしたときに騒ぎが起き、そこから娘に聞くタイミングを逃していた。


「うちは魔導師の家系なんだから、もちろん魔導師……」

と言いかけたとき、あることに気づいた。


――魔導師の家系なのに、魔導師ではない職を授かったのではないか――。


その可能性に、二人は小さな衝撃を感じる。

もしかしたら、それが原因で、エレノアは自室に閉じこもっているのかもしれない――。


「ねぇ、フィオナ……もしかしたら、エレノアは魔導師ではない職を授かったんじゃないか……?」


数秒の無言が続き、妻が口を開く。

「実は私もそれを考えていたのよね……。あの子、どこか大人っぽい考え方をするし、儀式の前から妙に落ち着いていて……。まるで、自分の中で何かを決めているみたいだったもの」


私はその言葉に小さく頷く。

「……それなら、余計に混乱しているのかもしれないな。家系や期待される職業と、授かった職業との間で」


妻はしばらく考え込むように黙り込み、やがて静かに言った。

「……でも、私たちには今、ただ見守ることしかできないわね。焦らず、あの子が自分の気持ちを整理する時間を持たせてあげましょう」


そう言いながらも、二人の胸の奥には、まだ小さな不安がくすぶっていた――。


その時――廊下から扉が開く音がした。

気づかれないように扉をそっと開け、隙間から覗くと、エレノアが居間の方に向かって歩いているのが見えた。

その姿は不安で押しつぶされそうになっていて、どこか元気がない――そんな姿だった。


妻にエレノアが居間に向かって歩いていることを告げ、二人で様子を見に行くと、テラスで花壇を眺めながら俯いている光景を目にした。

影から様子を見ていると、ため息混じりで何かを言っているようだった。


私と妻は目を合わせ、意を決してエレノアのいるテラスへと向かった。


扉を開けると、エレノアはすぐに気づいた――が、何も言わない。

私と妻でエレノアを挟むように並ぶも、沈黙は続く。

やはり、言いづらい何かがあるのだろう。

だが、親として、子が不安に思っていることを取り除く義務がある。


意を決し、私は話しかけた。

「なぁ、エレノア。なにかあったのかい?」


返事はすぐには返ってこなかった。

すると妻がエレノアの小さな手を包み込むように差し伸べた。

「エレノア。黙っていると、自分が余計に辛くなるだけよ。

大丈夫。絶対に怒ったりしないから、話してごらんなさい」


少しの沈黙のあと、エレノアはやっと口を開いた。

魔導師の家系なのに、授かった職は錬金術師――。

この家から追い出されたり、冷遇されるのではないかという不安が、娘には荷が重すぎたのだ。


娘の言葉一つ一つが、長い間の自問自答の重みを感じさせる。

だが私と妻は、錬金術師という職が、エレノアにとても似合っていることを知っていた。

思えば五歳にして読み書きができ、家中の本を読み漁り、新しい知識を得ることが好きだった。

五歳の子供にしては異常とも言える知識欲――その資質こそ、錬金術師に向いていたのだ。


確かに、世間的には錬金術師は貴族家にとってプラスにならない、あまり好まれない職業かもしれない。

だが、どんな職業であろうと、親が子を支え、手を差し伸べるのは当然の責務だ。


私と妻は、子のためならどんな困難も乗り越える覚悟で、そっと手を差し伸べた――。

すると今まで抱えいていたものがどんどんと溢れていく。

その様子を見て、とてもつらい思いをさせてしまったのだと感じた。

私と妻はエレノアを優しく抱きしめ、全てを受け入れる。

「エレノア。お前には、いつでも帰る場所がある」


そう言うとエレノアは泣き出してしまった。

普段あまり感情を剥き出しにすることのないエレノアが、泣くほどに重い荷を背負っていたのだ。


暫くの間抱きしめ合っていると、エレノアが花壇の方向に視線を移動したのに気づいた。

私は視線の先を追ったが、そこには何も見えない。


しかし、空気の奥から微かにざわめくような、目に見えない何かの気配が感じられた。

風でもなく、影でもない――けれど確かに、何かがそこにある。


妻もその気配に気づいたようだが、何も見えず、私の顔を見て小さく頷くばかりだった。

「……感じるかしら?」

妻の声に、私はうなずくしかなかった。

目には見えないけれど、確かにそこにある、神秘的で、世界の奥から漂う気配。


エレノアはその気配に目を向け、じっと見つめている。

涙で濡れた顔に光が差し込むように、ほんの少し安堵の色が混じっている――

彼女だけが見ている、言葉にできない何か。


エレノアはそっと手を伸ばすように花壇の方を見つめる。

花々は、まるで彼女が感じている気配に応えるかのように、微かに揺れている。

私たちにはただの花にしか見えないが、彼女には何かがそこにいる――世界の片隅に潜む神秘そのものが、ほんの一瞬だけ姿を現したようだった。


夜の風に乗って漂う、言葉にできない神秘的な気配。

それを感じ取りながら、エレノアは自分の足で前に進む力を、少しずつ取り戻しているように見えた。


私も妻も、ただその場に立ち尽くし、彼女が見つめる神秘の余韻を静かに感じるしかなかった――。

世界のどこかで、目には見えない何かが、彼女の未来をそっと照らしているような気配だった。

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