44話 キャンプの魔法、友情の香り①
夏がそろそろ終わる……と思っていたが、思い出したかのように猛暑日が続いていた。
「暑い……この間まで、ようやく過ごしやすくなったと思ったのにね……」
「ほんとですね……」
「あぁもう暑い!!!」
いつもの四人でお茶会をしているが、完全に私たち三人は暑さでやられていた。
そんな中、一人だけ涼しそうな顔であたたかいお茶を飲むミストルティン様の姿があった。
「みんな大変そうねー」
「「「ミストルティン様だけずるい!!!」」」
「そうは言われても、神族は暑いとか寒いとか感じないのよね」
神族は温度を感じても、感覚としては私たち人間とは違う。だからこうして涼しい顔でお茶を楽しめるのだ。
「いっそのこと、私も神族になろうかしら……」
冗談交じりにそう言うと、ミストルティン様はニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべた。
「エレノアとみんななら歓迎するよー!」
……いや、そこは否定するところでしょ、と心の中でツッコミを入れる。
私たち人間三人は思わず顔を見合わせ、苦笑いしてしまった。
「そういえば、みんなでキャンプしない?」
突然の、少し突拍子もない誘いに、私たちは目を見開いた。
「キャンプ!? いきなりどうして!」
身を乗り出すアメリアお姉さまに
「キャンプ行きたいです……!」
猫耳をピクピク動かし、尻尾を激しく揺らし、目をキラキラさせているメル――
「こんな暑いのにキャンプはやだなー」
単純に嫌がる私。
反応は四人それぞれ、さまざまだった。
「えー! 行こうよー! キャンプ!!!」
ミストルティン様は、私の肩を掴んでぶんぶんと揺らす。
「揺らさないで!! 吐いちゃうから!」
そう言うと、ミストルティン様は肩を掴んだまま、私の顔をじっと見つめる。
「大体にしてキャンプって危険すぎるでしょ! 魔物に襲われたらどうするの!!」
「それもそうだけど、絶対に許可下りないでしょ!」
私とアメリアお姉さまが、ミストルティン様に全力で抵抗していると、メルは猫耳をシュンとさせた。
「お二人はキャンプ、いやなんですか……?」
今にも泣きそうな目で、私たちをじっと見つめる。
「いや……嫌というわけじゃないけど、女の子だけでキャンプなんて無謀すぎるわよ!」
と、冷静にツッコむアメリアお姉さま。
「私は暑いのに外に出たくないかな……涼しくなったらいいけど」
マジの方の気持ちを言う私――
「エレノア達がメルを泣かせようとしてるー!!」
メルを利用してどうしてもキャンプに連れて行こうとするミストルティン様。
話し合いが平行線になっていると、居間からお父様がやってきた。
「ただいまー、何の話をしていたんだい?」
するとミストルティン様はニヤニヤと笑みを浮かべ事情を説明した。
「みんなをキャンプに誘ってたんですよ! でも許可下りないとか行きたくないって言われて......」
寂しそうに目を伏せ、肩を少し落とすミストルティン様。
さすがに許可は下りないでしょ――そう思っていたのだが、
そう思っていたのだが
「え? 別にいいんじゃないかい? ミストルティン様なら安心して任せられるし」
……まさかの許可……
「お父様、本気で言ってます!?」
驚いて立ち上がるアメリアお姉さまに、フリーズしている私を見つめて言う。
「だって、ミストルティン様は神族なんだし、何かあっても問題ないだろ?」
「わーい! キャンプ行ってみたかったんです!」
大喜びするメルと、事実上の決行が決まってしまって落胆する私とアメリアお姉さま。
そして追い打ちをかけるように、お父様が言う。
「アメリアもエレノアも、キャンプに行ってきなさい! ついでにルーカスとカイルもお願いしてもいいですか?」
「いいですよ! お任せください!」
……何を言ってももうダメなやつだ。
完全に諦めた私とアメリアお姉さまをよそに、ミストルティン様は満面の笑みを浮かべて言った。
「じゃあ、今からキャンプに必要なものを買いに行くよー!!」
「「私たちの意見はーーー!!!!!」」
無念の叫びが、屋敷中に響き渡ったのだった。
ーー王都・市場
「……どうしてこうなった」
「私も聞きたいわよ!」
私とアメリアお姉さまが嘆いている中、楽しそうに先を進むメルとカイル、ルーカスお兄様、そしてミストルティン様。
「ほら、早くおいでー!」
……先が思いやられる。
暫く歩いて到着したのは、お洋服屋さんだった。
「なんでキャンプの準備をするのにお洋服屋さん?」
「まぁまぁ、いいから早く入るよ!!」
そう言うと、私とアメリアお姉さまの肩を押し、強引に中へ入れる。
「私たちは二階だよ! 君たちは二階に来ないでね!」
そう言い残し、二階へ引っ張られ階段を登り終えると、そこには可愛いお洋服がたくさん並んでいた。
......嫌な予感がする
アメリアお姉さまと目を合わせると同じ事を思っていたらしく微かに震えていた。
相変わらずメルだけは目を輝かせ尻尾をゆらゆら揺らしている。
そしてミストルティン様は明らかにやばそうな目をしている
「今から水着を探すよ!」
……予感的中。
「変なもの持ってこないでくださいよ?」
「ちょっとそれは約束できないかなー」
既に不安でしかない。
案の上、ミストルティン様は変な水着を持ってきた。
「これ、エレノアに着てほしいなー」
そう言って差し出されたのは、ほぼ紐の水着。
「なんでそんなほぼ紐の水着を着なきゃいけないんですか!?」
「お願い! 一回だけ!! ね?」
……圧がすごすぎる!!!
結局、圧に負けて試着室で着替えることに。
ミストルティン様に見せると、その表情は完全に変態おやじのそれだった。
興奮しており、はぁはぁと荒い呼吸をしている。
「やっぱりエレノア、かわいいい!!!!!!!!!」
「ちょっと、この人大丈夫……?」
「はわわわ……エレノア様、過激すぎます……!」
アメリアお姉さまはミストルティン様のことを、いろいろな意味で心配し、
メルは恥ずかしそうに目を隠している。
「もう終わり!!!!!」
カーテンを閉めて元の服に着替え、再びカーテンを開けると、
残念そうな顔を浮かべるミストルティン様と、顔を真っ赤に染めたメルの姿があった――
「似合っていたのに……」
だがミストルティン様はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、どこかへ行ってしまった。
……これで落ち着いて水着を選べる、と思っていた束の間、
今度はメルに、私に着せたほぼ水着よりも過激な水着を着せて楽しんでいた。
「エッチなのはいけないと思います!!!!!」
試着室のカーテンを急いで閉める私と、その近くでミストルティン様を説教するアメリアお姉さま
「メル、大丈夫……?」
「はい……」
……ほんと、このメンバーでキャンプに行けるのかな。
私の中の不安ゲージがこの時点で既に上限突破していた。
結局アメリアお姉さまがお説教をしている最中に自分好みの水着を選びお会計を済ませた。
試着を終え、なんとか水着も揃った私たちは、屋外の暑さにうんざりしながらも店を出た。
「ふぅ……やっと終わった……」
「いやー、疲れたわね……」
アメリアお姉さまもため息をつく。
メルはまだ少し赤面しているものの、手には嬉しそうに水着を抱えていた。
ミストルティン様はというと、満足そうにニヤリと笑って私たちの後ろをついてくる。
「さぁ、次はキャンプ場所を決めるわよ!」
「え……場所も自分たちで決めるの?」
私が訝しむと、ミストルティン様は両手を広げて楽しそうに言った。
「もちろん! みんなで相談して決めるのが一番楽しいんだから!」
そこで、私たちは一度休憩も兼ねて近くの喫茶店に立ち寄ることにした。
冷たい飲み物で喉を潤しつつ、テーブルを囲んで地図やメモを広げる。
「ここなら川沿いで水遊びもできるし、木陰もあって涼しそうよ」
「私は少し高台があって見晴らしのいい場所がいいな……」
メルは地図の端っこで小さくジャンプしながら、あちこち指を差して意見を出す。
「キャンプなんだし、海なんてどう?」
「「却下で」」
「えー! いいじゃん!」
「ここからどれだけ時間がかかると思っているのですか!!」
「行くまでに一週間はかかるわよ!」
「そこは、私の転移魔法でいけばいいじゃん!」
「それキャンプじゃなくて旅行だよね!?」
「俺は、山がいいかな......」
「同じく!」
ルーカスお兄様とカイルは、山を希望した。
「でも、山もそれなりに遠いわよ?」
「転移魔法を使うのならいいんじゃね?」
「だから転移魔法を使う時点で旅行だって!」
転移魔法で遠くへ行きたい派と、近場でまったりキャンプをしたい派。話し合いは完全に平行線をたどっていた。
しばらく議論を続けたが、埒が明きそうになかったため、公平にじゃんけんで決めることにした。
「みんな、恨みっこなしよ?」
「ぜってー負けないからな!!!」
「最初はグー! じゃんけんポン!」
じゃんけんに勝ったのは、元気いっぱいのメルだった。
「メル! ナイス!!」
「ま……まけた……」
テーブルを境に、勝者と敗者が生まれる瞬間だった。
これでキャンプの行き先がどう決まるのか、みんな息を詰めて見守る――そんな空気が漂った。
「じゃあ、ここの川なんてどうですか? 平原ですし気持ちいいと思いますよ!」
「メルが決めていいのよ!」
「え!? いいんですか......?」
「うん! メルが勝ったんだし」
「じゃあここで決定です!」
メルは小さくジャンプしながら、嬉しそうに両手を挙げる。
「やったー! みんなで楽しいキャンプに行けるね!」
私とアメリアお姉さまは、少し呆れつつも微笑むしかなかった。
ルーカスお兄様とカイルも肩をすくめつつ、「まあ、仕方ないか」と苦笑している。
「じゃあ、次はキャンプに必要なものをリストアップして、必要なものを買わないとね!」
ミストルティン様がにっこり笑いながら言うと、私たちはため息交じりにうなずいた。
こうして、わちゃわちゃとした作戦会議は、メルによって無事終了するのだった。




