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【20万PV突破・毎日更新中】転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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155話 語られる真相、最後に嗤う②

ーー王城・執務室


「緊急の報告とはなんだ」


「はい! リーダー格のゼノの証言によりクラウゼル男爵の関与を供述しました!」


執務室の空気が、一瞬で変わった。


机へ視線を落としていた総司令官が、ゆっくり顔を上げる。


「……クラウゼル男爵だと?」


低い声。


だが、その一言だけで室内の温度が数段下がったようだった。


報告に来た護衛隊員は即座に姿勢を正す。


「はっ! 侵入者グループのリーダー格“ゼノ”が供述しました!」


一拍。


「セレスティア伯爵および養子エリシア令嬢を拉致し、奴隷として引き渡す依頼を受けたと証言しています!」


執務室へ重い沈黙が落ちる。


総司令官の隣に立っていた文官が、僅かに顔を強張らせた。


「……正気か?」


思わず漏れた声。


当然だった。


貴族同士の対立。


権力争い。


それ自体は珍しくない。


だが今回の件は、その程度で済む話ではない。


現役伯爵家への襲撃。


しかも王命錬金護衛隊の監視下にあるセレスティア伯爵家へ直接侵入。


さらに対象は、“王家保護対象”でもあるエリシア。


国家反逆に限りなく近い。


総司令官が低く問う。


「証拠は」


「現在回収班が確保へ向かっています!」


隊員は即答した。


「依頼書および魔法契約書が存在するとの証言を得ています!」


その瞬間。


総司令官の目が鋭く細まる。


「……魔法契約書か」


それは単なる紙ではない。


署名時の魔力情報そのものを刻み込む特殊契約。


偽装は極めて困難。


つまり――


事実なら、クラウゼル男爵本人の関与を直接証明できる。


執務室が静まり返る。


重苦しい沈黙。


誰も軽々しく口を開けない。


クラウゼル男爵。


その名が持つ意味を、ここにいる全員が理解していた。


貴族社会への影響。


王都への波紋。


そして何より――


セレスティア伯爵家へ仕掛けられた今回の件が、単なる私怨では済まされないという事実を。


総司令官は数秒間、無言で机を指先で叩いていた。


やがて。


静かに口を開く。


「……わかった」


低い声。


だが、その一言だけで室内の空気が張り詰めた。


「証拠が確認でき次第――」


一拍。


「クラウゼル男爵を拘束せよ」


その瞬間。


執務室の空気が完全に変わる。


護衛隊員が即座に姿勢を正した。


「はっ!!」


国家が正式に動く。


それはつまり。


もう“貴族同士の問題”では終わらないということだった。


総司令官は冷え切った視線を窓の外へ向ける。


「逃亡の可能性もある」


一拍。


「証拠回収班とは別に、監視部隊を男爵邸周辺へ配置しろ」


「外縁区画の転移門も封鎖対象に含めます!」


「許可する」


即答だった。


もう躊躇はない。


仮に契約書が本物なら。


その時点で、クラウゼル男爵は国家反逆級犯罪の容疑者となる。


セレスティア伯爵家襲撃。


王家保護対象への拉致計画。


違法組織との接触。


どれか一つでも十分重い。


だが今回は、その全てが揃っている。


総司令官は静かに目を細めた。


「……愚かな男だ」


その呟きは、誰へ向けられたものだったのか。


執務室の誰にも分からなかった。


だが――


想定外の事態が発生した。


勢いよく執務室の扉が開かれる。


「失礼します!!」


飛び込んできた隊員の表情は明らかに異常だった。


焦り。


困惑。


そして僅かな動揺。


総司令官が即座に視線を向ける。


「何があった」


隊員は息を整える間もなく報告した。


「捜索をしましたが、供述された隠し扉内に依頼書も契約書もありませんでした!」


執務室の空気が、一瞬で凍りつく。


「……何?」


低い声。


先ほどまで冷静だった総司令官の目が、鋭く細まった。


隊員は即座に続ける。


「地下保管庫そのものは存在していました!」


「違法薬物の製造設備、裏取引用帳簿、一部資金記録も押収済みです!」


一拍。


「ですが、“依頼関連の書類だけ”が存在しません!」


沈黙。


文官の一人が険しい顔を浮かべた。


「隠滅されたのか……?」


「不明です」


隊員は悔しげに唇を噛む。


「ですが、保管庫内部には最近まで何かが置かれていた痕跡があります」


つまり。


“そこに何かはあった”。


だが。


最も重要な証拠だけが消えている。


総司令官がゆっくりと立ち上がった。


執務室の空気が重く沈む。


「……ゼノは嘘をついたようには見えなかったな」


低い呟き。


護衛隊員が即座に頷く。


「はい。少なくとも、本人は“存在している”前提で供述していたかと」


その瞬間。


総司令官の目が僅かに細まる。


「つまり――」


一拍。


「別の誰かが先に回収した可能性がある、か」


誰も否定しなかった。


執務室へ重苦しい沈黙が落ちる。


誰も軽々しく口を開けない。


依頼書が存在しない。


それだけならまだいい。


だが今回問題なのは、“存在していた痕跡だけが残っている”ことだった。


つまり。


誰かが意図的に回収した。


それも、王命錬金護衛隊より先に。


文官の一人が、僅かに顔を青ざめさせながら口を開く。


「陛下……これは非常にまずい事態になりましたが、いかがなさいますか」


執務室には一瞬で沈黙が落ちた。


重い。


張り詰めている。


誰もが、この判断一つで王都全体へ波紋が広がることを理解していた。


だが。


その沈黙も長くは続かなかった。


国王が静かに口を開く。


「確認だが――」


低い声。


執務室の全員が自然と背筋を伸ばく。


「ゼノとやらは、嘘をついているようには見えなかったんだな?」


問いを向けられた護衛隊長は、即座に答えなかった。


数秒。


慎重に思考を整理してから口を開く。


「……少なくとも、“契約書が存在している”という認識自体は本物かと」


一拍。


「尋問中の反応にも不自然な誘導はありませんでした」


「供述内容も末端構成員の証言と一致しています」


国王は無言で続きを促す。


「なら、すぐには判断できんな」


国王の低い声が、静まり返った執務室へ落ちる。


「対応を誤れば、国家の威厳に関わる」


その言葉に、誰も反論しなかった。


クラウゼル男爵は現役貴族。


しかも男爵位とはいえ、王都内に一定の影響力を持つ存在だ。


証拠不十分のまま拘束すれば、貴族派閥が必ず動く。


王権による強引な弾圧。


そう騒ぎ立てる者も出るだろう。


だが逆に、ここで見逃せば。


国家が伯爵家襲撃未遂すら裁けないという前例になる。


どちらへ転んでも危険だった。


国王は机へ肘を置き、静かに指を組む。


「監視部隊からの報告を待つ」


一拍。


国王は静かに続ける。


「少なくとも、“証拠隠滅をした”のであれば痕跡は残る」


低い声。


だが、その言葉には確信があった。


「転移魔法の使用痕」


「不自然な出入り」


「夜間移動」


一拍。


「何も残さず完全に処理できるとは思えん」


総司令官が静かに頷く。


実際、その通りだった。


証拠だけを正確に回収する。


しかも王命錬金護衛隊より先に。


それほどの動きをしたなら、必ず何かしらの痕跡が残る。


ましてや今回の件は急展開だ。


ゼノ達が拘束されたのは、ほんの数時間前。


その短時間で完璧な隠滅を行うのは容易ではない。


国王は机へ指先を軽く叩いた。


「この件が、既に向こうへ露呈したとも考えにくい」


執務室の空気が僅かに変わる。


つまり。


クラウゼル男爵側は、“まだ安全圏だと思っている可能性が高い”。


だからこそ。


今後、必ず動く。


証拠回収役との接触。


逃亡準備。


資金移動。


あるいは口封じ。


何かしらの“後始末”を始めるはずだった。


国王の目が静かに細まる。


「焦って動けば、必ず尻尾を出す」


その声は冷静だった。


だが同時に。


獲物を逃がさない捕食者のような冷たさも含まれていた。


数日が経過した。


王都は、表面上は何事もなかったかのように平穏を取り戻している。


市場は賑わい。


貴族達は夜会へ顔を出し。


王城もまた、通常業務へ戻りつつあった。


だが、その裏側では。


王命錬金護衛隊。


影。


さらに王城直属監視部隊までもが、クラウゼル男爵周辺を徹底的に洗っていた。


出入り記録。


転移痕。


資金移動。


接触人物。


深夜移動。


関連商会。


違法組織との繋がり。


考え得る限りの全てを調査した。


だが――


何も出ない。


不自然な転移痕も。


証拠隠滅を行った形跡も。


外部組織との接触も。


まるで最初から存在しなかったかのように。


完全に消えていた。


そして。


王城・執務室。


総司令官が、重い表情のまま報告書を机へ置く。


「……以上です」


執務室は静まり返っていた。


文官達の顔色も悪い。


数日間。


国家規模で動いた。


にもかかわらず、決定的証拠は一つも出なかった。


国王は静かに報告書へ目を落としている。


やがて。


小さく息を吐いた。


「影はどう判断している」


低い声。


総司令官が即座に答える。


「“現状では証拠不十分”との結論です」


一拍。


「監視継続による成果も薄いと判断されました」


その瞬間。


執務室の空気がさらに重く沈む。


つまり。


国家最高峰の諜報機関ですら、“これ以上は難しい”と判断した。


文官の一人が苦々しく呟く。


「……逃げ切られた、ということですか」


誰も即答しなかった。


国王は数秒間、無言のまま窓の外を見つめる。


そして。


国王は静かに口を開いた。


「……苦渋の決断だが」


低い声が執務室へ落ちる。


誰も口を挟まない。


「嫌疑不十分の状態で、罪人を裁く法はない」


その言葉は重かった。


王として。


国家として。


感情だけで貴族を裁けば、それは法ではなく暴力になる。


たとえ疑わしくとも。


たとえ黒に限りなく近くとも。


証拠が存在しない以上、“有罪”にはできない。


国王は静かに視線を上げる。


「本件は、現時点をもって無罪放免とする」


その瞬間。


執務室の空気が重く沈んだ。


文官達の表情にも苦みが浮かぶ。


総司令官も無言のまま目を伏せている。


誰も納得していない。


だが同時に。


誰も反論できなかった。


法とは、本来そういうものだからだ。


だが。


国王はそこで言葉を終えなかった。


「――ただし」


空気が僅かに張る。


国王の目が冷たく細まった。


「引き続き、“影”による監視を継続する」


一拍。


「表立った捜査は終了だ」


「だが、水面下の監視は続けろ」


その声には、明確な警戒が滲んでいた。


総司令官が静かに頷く。


「はっ」


国王は窓の外へ視線を向ける。


王都は今日も静かだった。


だが、その静けさが本物だとは誰も思っていない。


クラウゼル男爵。


そして、その背後にいる“何か”。


それらはまだ、確実に動いている。


ただ――


今はまだ、姿を見せていないだけだった。


――三日後。


王都外縁部・中央処刑施設。


空は重く曇っていた。


冷たい風が石造りの施設を静かに吹き抜ける。


セレディア王国では、三年前までは公開処刑が行われていた。


罪人を民衆の前へ引き出し、その罪と結末を見せることで国家秩序を示す。


それが長年続いてきた“見せしめ”の形だった。


だが。


当時主流だった処刑方法は斬首。


処刑台の上で首を落とすその光景は、あまりにも刺激が強すぎた。


飛び散る血。


響く悲鳴。


倒れる罪人。


その様子を目撃した民衆の中には、体調を崩す者や精神を病む者まで現れた。


もっとも――


当時は、それすら“娯楽”だった。


処刑日になれば露店が並び、酒が振る舞われ、人々は祭りのように集まる。


罪人へ石を投げる者。


歓声を上げる者。


子供を肩車して見せる親すらいた。


公開処刑とは、長い間“民衆の娯楽”として消費されていたのだ。


だが。


時代は少しずつ変わっていった。


劇場。


魔導映像。


闘技大会。


様々な娯楽が増え、人々は“処刑そのもの”へ熱狂しなくなる。


そして何より。


子供達への教育上よろしくない。


その声が、年々強くなっていった。


罪人の死を見て笑うこと。


血へ歓声を上げること。


それを“当たり前”として育つ環境を、陛下はよしとしなかった。


結果。


祭り騒ぎだった公開処刑は徐々に規模を縮小。


観客も減り。


歓声も減り。


やがて――


陛下が自らの判断によって、長い公開処刑の歴史は終止符を打たれた。


それ以降。


処刑は全て非公開。


国家管理下の施設内で、粛々と執行されるようになった。


見せしめではなく。


秩序維持のための“司法執行”として。


それが現在のセレディア王国だった。


そして。


罪人に対しても、最低限の配慮がなされるようになっていた。


処刑方法そのものは、現在も変わらず斬首刑。


執行には大型ギロチンが用いられ、できる限り一瞬で終わるよう調整されている。


苦痛を長引かせないため。


それが現在の王国司法の方針だった。


だが。


どれほど“迅速な執行”であっても、死への恐怖そのものが消えるわけではない。


処刑台の前で足が竦む者。


錯乱し、泣き叫ぶ者。


最後まで暴れ続ける者。


そういった罪人は決して少なくなかった。


特に公開処刑廃止直後は、執行官へ掴みかかろうとする者や、自害を試みる者まで現れたという。


結果として。


現在では、さらに別の配慮が加えられている。


処刑前夜。


対象者は処刑施設近くの拘束室で最後の夜を過ごす。


そして眠りについた後――


昏睡魔法が施される。


深い眠りのまま意識を失い、そのまま執行される仕組みだった。


恐怖を与えないため。


最後の瞬間まで錯乱させないため。


それが現在のセレディア王国における“慈悲”だった。


また。


最後の言葉についても制度が改められている。


かつては暴言や呪詛を防ぐ目的で猿轡を嵌められ、罪人は何も語れないまま処刑されていた。


だが。


「どれほどの罪人であっても、最後に言葉を残す権利くらいは与えるべきだ」


そう陛下が判断したことで、現在では執行前に最後の発言が許可されている。


謝罪。


懺悔。


家族への言葉。


あるいは呪詛。


その内容に制限はない。


もっとも――


実際に最後の言葉を口にする者は少数派ではあるが。


多くの罪人は、処刑直前になると恐怖で言葉を失う。


あるいは、自分の結末を受け入れきれず沈黙したまま終わる。


だからこそ。


最後の言葉を残す者は、逆に強く印象へ残る。


後悔。


未練。


憎悪。


時には、死の間際だからこそ漏れる“本音”すら存在した。


執行場の空気は静まり返っていた。


観客のいないアリーナ・


響くのは術式維持装置の低い駆動音だけ。


そこへ、淡々と執行準備が進められていく。


拘束確認。


昏睡状態確認。


術式安定化。


そして――執行許可。


立会人の一人が静かに頷く。


「……執行を開始する」


低い声。


処刑官がギロチンの固定術式を起動した。


重い金属音が静かに響く。


だが。


叫び声はない。


抵抗もない。


男達は既に昏睡魔法によって深い眠りへ落ちていた。


恐怖も。


混乱も。


何もないまま。


ただ粛々と、処刑だけが進んでいく。


一人。


また一人。


処刑官達は無言のまま執行を終わらせていった。


そして最後。


ゼノの番が訪れる。


護衛隊長は静かにその姿を見つめていた。


尋問室で見せた、あの諦め切った笑み。


そして最後に残した言葉。


「クラウゼル男爵には注意しとけーーあいつはとてつもない野望をかかえている」


あの言葉だけが、どうしても引っかかっていた。


ゼノは昏睡状態のまま、静かに拘束台へ固定される。


処刑官が最終確認を終えた。


「異常なし」


「執行します」


短い報告。


次の瞬間。


処刑装置が静かに作動した。


それだけだった。


何も起こらない。


何も残らない。


ただ静かに、一人の罪人が処理された。


やがて。


全ての執行が終了する。


立会人達が記録書へ署名を行い、処刑官達も淡々と後処理へ移っていく。


その中で。


護衛隊長は、形式通りに場内を見渡した。


立会人席。


記録補助席。


監視術式の反応域。


すべて正常。


そして、最初から最後まで――


そこに“女”がいた形跡はなかった。


「……問題なし」


それだけ呟き、視線を記録書へ戻す。


違和感というより、確認項目の一つが消えた感覚に近い。


処刑は予定通り、滞りなく完了している。


それ以上でも以下でもない。


やがて施設は静かに閉じられ、日常へと戻っていった。


――王都・クラウゼル男爵家


夜。


蝋燭の灯りだけが揺れる執務室。


「やはり、あの方は聡明なお方だ」


男爵は静かに笑みを浮かべた。


「まさか今回の取引を見越していたとは」


指先で回されるのは、一見ただの筆記具。


だがそれは魔道契約用に調整された特殊な魔導ペンだった。


契約内容を記録するための固定術式。


そして内部には、もう一つの層が仕込まれている。


数日後。


条件が成立した時点で、契約記録そのものを構成層ごと崩壊させるトリガー式術式。


――紙の破棄でも、偽造でもない。


“最初から存在しなかったことにする”消去機構。


男爵は満足げにそれを回した。


「これで証拠は残らない」


静かに息を吐く。


そして、窓の外へ視線を向けた。


「……やはり、あの方に頼るしか方法はないようだ」


夜の闇に、その言葉だけが溶けていった。

次回は閑話を投稿します! 処刑場にいなかった女の話です。

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