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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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128話 名の影、届かぬ場所

エリシアたちを雇って一か月が経過した。


リナとセレナは、まだ性能にバラつきはあるものの、少しずつ安定してきている。


そしてエリシア。


呑み込みが早いというより、習熟の速度が明らかに違う。


ポーションに関しては、すでに私と同等の品質・性能に達するものもあり、店頭にも並び始めていた。


「エリシアは、最初から一番早いとは思っていたけど……ここまでとは思わなかったな」


報告書を見ながら、そう小さく呟く。


リオルはというと……


ルーカスお兄様やアメリアお姉さまの魔力安定化の訓練のおかげで、かなり良くはなっている。


うん、良くはなっているんだけど。


「……まだ爆発するんだよね」


そこだけは、なぜかしっかり残っている。


思わず、少しだけ息が漏れた。


「このままいけば、正式に弟子として教える日も近いのかな……?」


ぽつりと独り言をこぼし、報告書を閉じる。


「アトリエに行くから、あとはよろしくね」


「いってらっしゃいませ、エレノア様」


フィリアさんに見送られ、執務室を出て屋敷の奥へ向かう。


やがて転移門をくぐると、視界が切り替わった。


そこはアトリエ。


相変わらず多くの客で賑わっていて、メルが大慌てでパンを焼いている姿が目に入る。


「……今日も、変わらないね」


小さくそう呟いた。


中央商会から人員が派遣されたことで、私は調合やエリシアたちへの指導に時間を回せるようになっている。


装備の相談など、私が出ないといけない場面はまだあるけれど、それでも以前と比べればずっと余裕がある。


その“余裕”が、少しだけ不思議だった。


忙しいのに、落ち着いている。


そんな感覚だった。


慌ただしく動き回る商会の人たちを横目に、私は実験室へ向かおうとする――


その瞬間。


「……?」


足が、ほんの少しだけ止まった。


視線の先に、一人の男がいた。


棚を見るでもない。商品を手に取るでもない。


ただ、カウンターの方を見つめている。


三十代ほどの男性。


ここ最近、毎日のように来ているお客さんだ。


決まった時間に現れ、決まった時間に帰る。


そして――何も買わずに。


メルの店にも目を向けず、ただ静かにアトリエの中を見ているだけ。


不思議、というより“引っかかる”存在だった。


護衛の人たちが何も言わない以上、危険性は低いのだろう。


それでも、妙に気になる。


「……あとで護衛の人に聞いてみようかな」


小さくそう呟き、私は実験室へと足を向けた。


その背中の向こうで、男は今日も変わらず、ただ静かにアトリエを見つめていた。


ーー王都・?????


お昼すぎになり一人の男はとある屋敷へと向かった。


そこは本来貴族か通行を許可されたものしか通れないはずである通り


そこを通れる時点で普通の人ではないことだけは確実だった。


やがて男はとある屋敷の前で立ち止まり中へと入っていく。


「エルンスト様、ただいま戻りました。」


扉の向こうから返ってきたのは、静かで乾いた声だった。


「入れ」


短い一言。


感情の温度はほとんど感じられない。


男は一度だけ頭を下げると、屋敷の中へ足を踏み入れた。


廊下は妙に静かだった。


絨毯は高級なものだが、人の気配が薄い。


まるで“必要なものだけを残した空間”のような印象を受ける。


男は奥へ進み、扉の前で足を止めた。


軽く息を整え、もう一度声をかける。


「失礼いたします」


扉が開く。


室内には、整然と並べられた書類と、壁際に置かれた古い帳簿の山。


そしてその中心に、一人の男が座っていた。


年齢は四十代半ばほど。


鋭い目元に、無駄のない所作。


感情を抑え込んだような、冷えた空気を纏っている。


それが――エルンスト・フォン・クラウゼル男爵だった。


「戻ったか」


視線すら大きく動かさずに、彼は言った。


「エリシアですが、本日も例のアトリエでは確認できませんでした。」


その報告に、エルンストの指先がわずかに止まった。


「……そうか」


それだけだった。


落胆でも苛立ちでもない、ただ事実を受け取っただけの声。


男は続ける。


「ただ、依然と比べ店頭に並ぶポーションが明らかに増えています。

補充の頻度や調合室と思われる部屋からの出入り、販売数から推測するに誰かは実際に調合するようになったと推察しています。」


その報告に、エルンストの視線がわずかに動いた。


書類から目を離さないまま、静かに言葉を落とす。


「……誰か、か」


感情の揺れはない。


だが、その一言だけが妙に重い。


男は続ける。


「詳しくは鑑定スキル持ちを派遣する必要がありますが、魔力は少なくとも二種類が検出されています。

うち一つは、過去から継続して確認されているセレスティア伯爵由来の安定した魔力痕跡です。

もう一つはこれまで記録にない系統であり、同一環境下で新たに発生・混入した可能性が高いと見られます。」


「エリシアの魔力と同一かはわからないんだな?」


「申し訳ございません 護衛と思われる者が警戒しており詳しくは判断できませんでした。


万が一断定するのであればエリシアを知る者を派遣したほうがよろしいかと」


その言葉に、エルンストの視線がようやく男へ向いた。


一瞬だけ、空気が張り詰める。


だがそれもすぐに薄れ、いつもの無機質な静けさに戻った。


「エリシアを知る者、か」


低く繰り返す。


まるでその選択肢の意味を一つずつ分解しているかのようだった。


男は続けて頭を下げる。


「はい。現場への干渉を避けつつ確認するのであれば、最も確度が高い手段かと」


沈黙。


エルンストは椅子にもたれ、指先で書類の端を軽く押さえた。


「いや、いい」


エルンストは一言だけ


「よろしいのですか?」


男の問いに、エルンストは視線だけを上げた。


感情はない。だが、否定の意思だけははっきりしている。


「セレスティア伯爵に関する情報は我が男爵家には情報が一切公開されていない上ガードもかなり硬いと聞く。

もしここで計画がパーになれば()()()()のような末路を辿りかねない」


その言葉に、男の背筋がわずかに緊張する。


エルンストは構わず続けた。


「それは避けるべきだ」


淡々とした声。


だがその中には、明確な“損失回避”の計算がある。


「ルドルフは、計画が雑だった上不用意にセレスティア伯爵本人や裏の連中と会っていた。」


その言葉に、男は一瞬だけ目を伏せた。


エルンストは構わず続ける。


「結果、情報が漏れた」


静かな断定。

責めているようには聞こえない。ただ事実の整理だった。


机の上の帳簿を指で軽く叩きながら、さらに言葉を落とす。


「それに、焦って動いた」


一拍。


「焦りは判断を鈍らせる」


その声音には、わずかな温度すらない。


男は慎重に口を開く。


「……その件については、我々も教訓として共有しております」


エルンストはようやく視線を上げた。


その目は冷えているが、怒りではない。


「教訓で終わらせるな」


短い一言だった。


だがそれは命令でも叱責でもない。


“再発を許さない前提”の確認だった。


男は深く頭を下げる。


「承知しております」


エルンストは再び窓の外へ視線を戻す。


エルンストの言葉は、まるで盤面を眺める棋士の独白のようだった。


感情は一切ない。

あるのは、ただ状況を分解し、整理し、最適化する思考だけ。


「焦る必要はない」


静かに続ける。


「相手がこちらの存在を“確定”として認識していない限り、主導権はこちらにある」


男は一言も挟まず、ただ深く頭を下げている。


エルンストは窓の外へ視線を向けたまま、言葉を重ねた。


「情報は、動いている側から漏れる」


一拍。


「ならば、動かせばいい」


その声音には、どこか冷たい合理性だけが宿っている。


「観測対象は増やさない。だが観測点は増やす」


まるで当然の手順を読み上げるように、淡々と。


「セレスティア伯爵家そのものではなく、“周囲”だ」


そこでようやく視線が少しだけ下がる。


机の上の書類ではなく、見えない何かを見ているように。


「セレスティア伯爵家の屋敷を監視対象に入れろということですか......?」


「本来ならそう言いたい」


一拍


「だが、セレスティア伯爵家の屋敷がある場所は王都の中でも最重要区画の上本来は伯爵以上の身分がないと入ることもできない」


ゆっくりと続ける。


「だが、セレスティア伯爵家は元々を辿ればレーヴェン子爵家の次女だ

そこを辿れば何かしらのヒントは得られるはずだ」


「レーヴェン子爵家......ですか」


「レーヴェン子爵家は最重要区画にも出入りしていると聞く

セレスティア伯爵家と関りが密接なのは間違いない」


「密接ということは、それだけ影響を受ける」


男は無言で頭を下げた。


エルンストは最後に一言だけ落とす。


「……接触はするな。だが、視界からは外すな」


「かしこまりました。」


「あとそろそろお前では怪しまれる頃だろう

アトリエには別の者を派遣する。

お前は最重要区画の出入りを確認しろ

家紋くらいはわかるだろ?」


その言葉に、男は一瞬だけ呼吸を止めた。


だがすぐに姿勢を正し、深く頭を下げる。


「……承知いたしました」


声は揺れていない。


ただ、役割が切り替わったことを理解しただけの反応だった。


エルンストは視線を動かさないまま続ける。


「記録は“事実”として積み上げろ」


淡々とした指示。


「推測は混ぜるな」


一拍。


「判断は私がする」


その一言で、全てが確定する。


男はもう一度深く頭を下げた。


「かしこまりました」


エルンストはようやく椅子に深くもたれ、書類を閉じる。


「……下がれ」


短い命令。


男が静かに退室し、扉が閉まる音が響く。


室内に残ったのは、紙の擦れる音だけだった。


エルンストは窓の外へ視線を向ける。


王都の喧騒は変わらない。


だが、その裏側だけが静かに組み替えられていく。


「セレスティア伯爵家か......」


エルンストには静かに呟く


「エリシアがセレスティア伯爵家の養子になったと聞いてから私は社交界で笑いものになった。」


ーー娘の才能を見誤った馬鹿


ーー伝統を重んじすぎた末路


そう陰で呼ばれるようになってしまった


「エリシアとよりを戻せばセレスティア伯爵家と同じ地位を手に入れられる」


エルンストは不敵な笑みを浮かべる


「万が一失敗したらあいつを訪ねてもいいかもしれないな......」


エルンストの視線の先にあるカレンダー


それは例え表に出ないセレスティア伯爵家とは言えど表に出ざるを得ない関係者が必ず集まる日


「最初の計画を実行するならこの日だな」


そう呟き書類仕事へと戻るのであった。



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