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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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閑話 セレスティア伯爵家の新馬車計画

お知らせ:以前にもお知らせしましたが、諸般の都合により明日よりこれまでの一日2話更新から一日一話更新へ変更します。

理由としては、やることが多く大変なのと環境が変わるためです。

15時に更新しますので、よろしくお願いします。

ーー王城・第一会議室


セレスティア伯爵家の屋敷が使われ始める二か月前の話。


王城の第一会議室には、この国の重鎮と呼ばれる者たちに加え、王宮魔道具師数名、そして王命錬金護衛隊の隊長の姿があった。

本来であれば同席することのない面々が一堂に会している。


それだけで、この会議が“例外中の例外”であることは明らかだった。


長机の上に並ぶのは、既存の設計図ではない。

白紙に近い図面と、条件を書き連ねた資料のみ。


完成された案は――一つも存在していない。


会議室内には、重々しい空気が支配していた。


理由は単純だ。


――“前例がない”。


「……確認するが」


沈黙を破ったのは、年嵩の重臣だった。


「本日の議題は、新規馬車の設計。既存規格の流用なし――すべてを一から構築する、という認識でよいのだな」


「そうだ」


即座に、宰相が頷く。


その一言で、この場に集められた者たちは“これは検討段階ではない”と理解した。


すでに――進めることが前提の話だ。


「理由は明確だ」


宰相は、机上に置かれた資料へと視線を落とす。


「安全性の問題、そして宿泊時のリスク。この二点を同時に解決する必要がある」


静かな声だったが、その内容は重い。


「現状、長距離移動においては各地の宿を利用せざるを得ない。しかし、不特定多数が出入りする環境は、護衛上“最も不安定な時間帯”を生む」


「……襲撃の可能性か」


「そうだ」


短く肯定する。


「警備を強化したところで、完全はない。人の出入りがある以上、紛れ込む余地は必ず存在する」


その言葉に、数名が小さく頷いた。


机上の空論ではない。現実の話だ。


「であれば、答えは一つだ」


宰相は顔を上げる。


「外部に依存しない環境を用意する」


「……移動中に完結させる、ということか」


「ああ」


迷いのない肯定。


「移動・休息・護衛。そのすべてを一体化させる」


その内容に、会議室の空気がわずかに張り詰める。


「……馬車の中で生活させるつもりか」


誰かの呟きに、宰相は淡々と答えた。


「最低限の休息では意味がない。“滞在できる環境”を前提とする」


もはや、それは従来の馬車の概念ではない。


「さらに――」


そこで一度、言葉を区切る。


「使用者は、エレノアだ」


その瞬間、場の空気が静かに変わった。


理解が、先に来る。


「……なるほどな」


重臣の一人が、低く息を吐く。


「通常の規格では話にならん、というわけか」


「その通りだ」


宰相は即答した。


「構造強度、魔力耐性、内部空間の安定――すべてにおいて既存の馬車では不足する」


王宮魔道具師の一人が、静かに口を開く。


「特に内部空間については、拡張および隔離構造が必須となるかと」


「魔力干渉の問題もある」


王命錬金護衛隊の隊長が低く続ける。


「外部からの影響だけでなく、“内部からの影響”にも耐えられる構造が必要だ」


わずかな沈黙。


「……それは、もはや馬車と呼べるのか?」


その問いに――


宰相は一切の迷いなく答えた。


「呼称はどうでもいい」


そして、言い切る。


「必要なのは、“エレノアが安全に移動できる手段”だ」


それだけで十分だった。


「……よかろう」


重臣が、ゆっくりと頷く。


「前例がないのであれば、作ればよい」


その一言で、方向は決まる。


「必要な技術、人員、資材――すべて投入する」


静かに、だが確実に。


この計画は、“実行段階”へと移行した。


それが――


後に“移動拠点”と呼ばれることになる、新たな存在の始まりだった。


「では、要件を整理する」


宰相の一言で、場の空気が再び引き締まる。


「本機は、十名規模での長期滞在を前提とする」


淡々と告げられた内容に、誰も異を唱えない。


「生活設備はすべて内包しろ。調理スペース、寝室、浴室、トイレ――いずれも屋敷と同等水準だ」


「加えて」


王宮魔道具師の一人が引き継ぐ。


「エレノア様専用の錬金スペースを設けます。規模は屋敷内の工房と同等、もしくはそれ以上を想定」


資料に書き込まれていく要件は、もはや“馬車”の域を完全に逸脱していた。


「水源はどうする」


重臣の問いに、即座に回答が返る。


「エレノア様の屋敷内にある井戸と接続します。転移魔法陣による常時供給を行います」


「……外部依存ではないのか」


「管理下にある環境です。むしろ安定性は向上します」


簡潔な説明に、納得が広がる。


「動力は馬による牽引とする」


宰相が続ける。


「ただし、馬には保護魔法陣を組み込め。負荷軽減、疲労抑制、外部干渉遮断――一か月の連続運用に耐えることを前提とする」


「了解しました」


即座に記録が走る。


「防御機構については三段構えだ」


空気が、わずかに張り詰めた。


「登録された魔力波長以外による開錠は一切認めない。試行があった場合――拘束魔法を即時発動」


淡々とした声。


だが、その内容は容赦がない。


「さらに、状況に応じて内部の人員を強制転移させる」


「転移先は」


「王城、もしくは神の領域だ」


短い沈黙。


だが、誰も反論しない。


「内部からの操作は例外とする。常に優先して開閉可能としろ」


閉じ込めは、あり得ない。


「……完全に閉じた拠点だな」


誰かが呟く。


「その通りだ」


宰相は静かに言い切る。


「外に出る必要がない環境を構築する。それが本計画の前提だ」


その言葉で、すべての要件が一本に繋がる。


「以上を満たす設計を提出しろ」


静かな命令が、会議室に落ちる。


――数秒。


沈黙が続いた後。


「……いくらなんでも、厳しすぎる」


ついに、誰かが口を開いた。


それは非難ではない。

純粋な“現実的な限界”の指摘だった。


「屋敷同等の設備に加え、空間拡張、魔力耐性、完全防御……」


別の魔道具師も続ける。


「これをすべて、移動体に収めるなど――」


言葉が、途中で止まる。


言い切らなくても分かる。


不可能だ、と。


会議室の空気が、わずかに重く沈む。


だが――


「問題ない」


宰相は、あまりにもあっさりとそう言った。


視線が、一斉に集まる。


「本件には、追加の協力がある」


一拍。


そして、静かに告げられる。


「――ミストルティン様と、大地の精霊王が全面協力する」


その瞬間。


空気が、凍りついた。


「……は?」


誰かが、思わず声を漏らす。


「今、何と……?」


「聞いた通りだ」


宰相は表情一つ変えない。


「技術面はミストルティン様が補助し、基盤安定は大地の精霊王が担う」


沈黙。


先ほどまでの“無理”という言葉が、意味を失っていく。


「……それは」


重臣の一人が、ゆっくりと息を吐く。


「最初に言うべきではないのか」


わずかな呆れ。


だが――


「必要ない」


宰相は即答した。


「その前提がなくとも、到達すべき水準は変わらない」


静かな断定。


逃げ道は、最初から存在していなかった。


「……なるほどな」


魔道具師が、小さく笑う。


「無理を通すための前提、というわけか」


「違う」


宰相は首を横に振る。


「“無理ではない”ことの証明だ」


その言葉に、場の空気が変わる。


不可能ではない。


ただ――


“やるしかない”だけだ。


「では、改めて言う」


宰相はゆっくりと周囲を見渡した。


「設計を開始しろ」


誰も、もう否定しなかった。


それが――

この計画の、本当の始まりだった。

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