ログインボーナス319日目 ヒュゲイアの杯
夜と朝の狭間、三時半。ノクターンを聴くのが相応しそうな時間。
食欲で目が覚めた。
昨日の配達員さんの所為である。
口が完全にカップラーメンだ。
いつまでも眺めていたいが、隣で寝ている彼女を起こしてしまわぬように布団から抜け出す。
寝巻にコートを羽織り財布を持って冬の朝の夜へと出かけていく。
近所のコンビニのドアの金属部分が私の顔を反射して、入店直前に性別転換に気が付いた。
もう髪の長さや胸が生えを気にしなくなって行っている。
むしろこちらが当たり前なんじゃないのかと。
鳴れって怖い。
コンビニに入ると同時に左側のイートインスペースから、ずずずっと麺を啜る音が聞こえてきた。
やっぱりこの時期はカップラーメンなのだろう。
シーフードのカップラーメンをレジで会計してもらうと流れで声をかけられた。
「蒼よ、マゼンダの奴を知らないか?」
レジ横のコーヒー広告に向けられていた意識が目の前の女性へと持っていかれる。
レジについていた女性は黄色いドレスを纏っていて場所に似つかわしくなかった。
黄色の髪、黄色の角、黄色の眼。
インナーやドレスの装飾品は黒と配色センスは良い。
色のバランスが悪ければ、踏切の遮断機やスズメバチが頭に浮かぶ。
「紅ならともかくピンクの知人はいませんね」
「そうか、お前さんならと思っておったが……、レジ袋はお付けいたしますか?」
「シールで」
「はい、ではまたな」
帰り際にイートインスペースをチラ見すると、水色の角を生やした女性が何処かで見たことがある白い少女にカップラーメンを食べさせていた。
ただその少女の角は、電球の明るさを下げてしまうそうに黒々としていた。
部屋に帰ると配達員さんは目覚めており、何故かコートの匂いを嗅いできた。
「黄色と黒の匂いがします」
「よく分かりましたね。コンビニの店員さんがそんな感じでした」
「用事が出来ましたので少し出かけてきます。これ今日のログインボーナスのヒュゲイアの杯です」
配達員さんは金ぴかの蛇が巻き付いた金ぴかの杯を手渡すと、出かけて行ってしまった。
ひとりで食べたカップラーメンは何だか寂しさの味がした。




