side 信志
その日は、朝からずっと雨が降っていた。
そのせいか来るお客さんもおらず、店のある通り全体がひっそりとしていた。
聞こえて来るのは雨の音と、たまに通り過ぎる馬車が鳴らす車輪の音ぐらい。
「こんな天気だと、お客さんも来ませんね……。」
「ひまー。」
もともと毎日お客が来るような店ではなくても、できたばかりの最近はそれなりに繁盛していた。
そのせいもあってか、今日は余計に暇に感じる。
カウンターにいるセレスちゃんも、いまにも眠ってしまいそうに船を漕いでいた。
「うむむむむ……。」
そんな中、ロットだけが難しい顔をして、窓の外を眺めていた。
「どうしたの?なにか気になることでも?」
「あ……シンシさん。……いや、大したことじゃないっす。」
「ふーん……?」
言って立ち上がる。
大したことない、と本人が言うなら特に気にすることもない。
暖かい飲み物でもいれようと台所へ向かう。
そこでふと思い出した。
雨が降ったり風が強かったりで、妙に落ち着かなくなる日がある。
(もといた場所にも、そんな日を表す言葉があったな……。なんだっけ。)
『嵐の前の静けさ』。
その時は、その言葉を思い出すまでにはならなかったけど。
結果として、その日はきっとそうだったのだろう。
そんなことを翌日、思うことになってしまった。
◇◆◇◆◇◆
ガシャン!!
昨日とは打って変わって、晴れ渡った日。
物珍しさから来るお客さんは今日もそれなりにいた。
そんな、そこそこ賑わっている店内で、突然物が割れる音が響き渡った。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌ててアイリスが駆け寄り、セレスちゃんと一緒に片付けを始める。
そこまではよかった。
でも。
「……………………。」
服に水が跳ねてしまっているのに、それを拭こうともせず。
アイリスが駆け寄って来ても、そのお客さんは呆然と立ったままだった。
「?あの、どうしました……?」
「どこかケガでもしたのか?」
さすがにおかしいと思ったのか、アイリスとセレスちゃんが声をかけるも、当然のように無視。
一点を見つめ続けている。
その視線の先は……ロット?
「あ、ああ、あ……。」
視線に気づいたロットがそのお客の方を振り向いた途端。
そのお客の顔に広がっていく表情は、『驚異』。
「な、なななんでそいつがこんなところにいるんだよぉ!!」
ビシッ、とロットを指差して叫ぶ。
もちろん、周りには他のお客もいて、その視線もロットに集まった。
「えーと、なんのことっすか?」
「し、しらばっくれるな!お、俺は夜にそいつが家から家へ飛び移ってるのを見たんだ!!」
続いた男の言葉に、店の中の人も一斉に喋り始める。
そういえばそんな窃盗犯がいるって話が。
あれって捕まったんじゃないの?
いやまだ捕まってなかったはず……。
ざわざわ、ざわざわ……。
それが一度落ち着いた時。
最初の男がもう一度口を開く。
「ま、魔族……。」
その一言が引き金だった。
言葉を聞いたお客は一斉に店の入り口へ殺到する。
押すな!やめろ!ガシャン!!おい俺が先だ!!
逃げろ!!パリ!王女様に知らせるんだ!!急げ!!
助けておくれ!!バサッ!!嫌だ!死にたくない!!!
いくつもの足音が、店から遠ざかっていく。
店と、ついでに店の前の通りからも、音がなくなった。
後に残ったのは、店にいるアイリスとボク、セレスちゃんと、俯いたロット。
それから倒され、踏まれていったたくさんの花だった。
こんばんは、Whoです。
夜とはいえ、盗みなんてしてたら誰かが見てるよねって。
ついでに言えば、戦争している相手が目の前にいれば怖がるよねって話。
まだこの店の人しか、ロットの話を知らない。
ではでは。




