side 信志
「ありがとうございましたっす!」
魔族の少女と出会ってから三日。
最初のうちは少しよそよそしい感じだったけど、すっかり慣れたみたいで店を手伝ってくれている。
もちろん、魔族であることは隠して。
(それにしても随分馴染んだなぁ……。)
今も、店に来たお客さんに頭を撫でられて嬉しそうにしている。
とても人間が嫌いだった者の反応とは思えない。
そのお客がアサガオの花を買って出て行くと、店にお客がいなくなった。
アサガオといえば、ロットを捕まえた時に使っていたのもそれだった。
ボクの知っているアサガオなら本来は毒、といっても薬に近い感じで、リラックスの効果を与えるだけで睡眠薬みたいな効果はないはずだ。
でもロットには違った。
曰く、『抗えなくはないはずだけど、そうする気が起きなかった』らしい。
もしかしたら魔族と人間では、効果が違うものなのかもしれない。
「んー?どうしたっすか?シンシさん。」
「いや、随分馴染んだなーって。」
そんな事を考えていると、お客さんがいなくなってくるりと振り返ったロットと目があった。
ちなみにアイリスとセレスちゃんは買い物に出かけている。
そういう意味ではアイリスも馴染んだのかなぁ。
警戒しなくなったし。
「まぁ、シンシさんのおかげっすよ。まだ怖いとこもあるっすけど、少しぐらいは我慢できるようになったっすよ。」
「そか。それはよかった。」
カランコロンーー。
喋っているとまたお客さんがやってくる。
ぱたぱたと接客に向かうロットは、もうすっかり慣れきったそれだ。
「いらっしゃいませっす!」
その姿を見ながら。
(我慢。我慢ねぇ……。)
それは実際そうなんだろう。
殺した殺されたの関係が、たった数日で修復できるとは思えない。
でも……。
新しく来たお客さんに頭を撫でられている時の顔は、もっと……。
「ただいまです。」
「もどったぞ!」
と、出かけていたアイリスとセレスちゃんが帰って来た。
◇◆◇◆◇◆
「これが、私たち人間に伝わっている話です。」
「そんなの嘘っすよ!!」
アイリスが口を閉じると同時、立ち上がりながら大声をあげるロット。
それをなだめて、座らせてから話を再開する。
「まぁまぁまぁ。……じゃあ次はロットの知っている話を聞かせて。」
「…………こっちも途中までは一緒っす。確かに昔は相容れないところはあっても、魔族と人間はお互いにほぼ不干渉を貫いていたらしいっす。でも……。」
ロットの手が硬く握られる。
アイリスの話ではここで、魔族側がその不干渉を破り侵攻して来たらしい。
その命令を出したのが、いわゆる魔王。
(それを倒す事が、ボクらが呼ばれた理由、ということになるのか。)
今も、この世界のどこかで起こっている争いの火種。
それがその侵攻らしい。
「先にそれを破ったのはそっちっす!!」
再び立ち上がって、今度は机も叩く。
その剣幕に小さく悲鳴をあげるアイリス。
セレスちゃんも驚いて固まってしまった。
でも、なるほど。
「どっちが始めたのかわからないのか……。」
そんなボクのつぶやきに、アイリスとロットがお互いをちらりと見る。
攻めて来たのは相手、とお互い譲れないみたいだ。
「ま、そのことはひとまずいいか。」
ポン、と手を打ちながら言うと、チラチラとアイリスを見ていたロットが急にキョトンとした顔になる。
あれ、変なこと言ったかな……。
「いいんですか?」
「結構大事なことだと思うっすけど……。」
ああ、そう言うことか。
「どちらから始めたにせよ、今は止める方法を探すのが先だと思うから。……で、ロット。『魔王』は本当にいるの?」
「う……それは……。……いるっす。……一応。」
一応?
「もしかして、こっちへの侵攻を積極的に進めてる?」
「いや逆っす。自分が知ってる限りだと、今の魔王はどちらかといえば保守的で、むしろ侵攻は嫌々やってる感じっすね。」
「嫌なのにやってる?」
「今の魔王は絶対君主じゃないっすよ。大臣とかも大勢いて、そっちから圧力をかけられているらしいっす。……そりゃ、昔は好戦的な魔王もいたかもしれないっすが、少なくとも今は違うっすね。」
「そんな!嘘です!!」
今度はアイリスが立ち上がった。
「信志さんたちを呼ぶ前に、国が二つ滅ぼされました。どちらも魔王を自称する魔族が、高笑いをあげながら虐殺を行ったらしいです。嫌々やってるなんて、そんなの嘘です!」
「そんなことないっす!それに、それならそっちだって!!」
「違います!それこそ、そっちだって!!」
お互いに、掴みかからんばかりに感情をむき出しにしてしまった。
仕方ないので、アイリスをセレスちゃんに。
ロットをボクがなだめて、その日は解散になった。
それにしても。
(『魔王』、か……。)
一度話には聞いたことがあった。
この世界に呼ばれたその日、その瞬間に聞いた。
でも本当にいるのなら……。
こんばんは、Whoです。
ちょっとだけ人間と魔族との関係に触れる話。
ではでは。




