第8話 「灼熱のガーゴイル戦 後」 エリア:石切り場(大広間)
「はぁ、はぁ……ルーシーさんもう無理、さすがに無理……」
かれこれ10分ほど走り続けた俺は地面に座り込んでしまっていた。
「なんで、異世界に来てまで、こんな、マジきち持久走を、せなあかんのや……」
俺は座り込んだ瞬間、すぐガーゴイルに襲われてしまうと思っていたが、奴も疲れたのか近くの地面に座り込んでいた。
フゥ、フゥ……
なんだろう、本当にこのガーゴイルとは仲良くなれそうな気がする。
すると、休息している俺にルーシーの悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
「ユウさん今すぐガーゴイル攻撃してください!」
「そいつは無理な相談だ」
「なんでですか! このままだとガーゴイルが脱皮してしまいます!」
……脱皮?
蛇とかがするあの脱皮?
なんでガーゴイルが脱皮なんかするんだよ……
さらに、頭を抱える俺にルーシーはこう告げてきた。
「ガーゴイルは脱皮することによって今までに負った傷がすべて回復し、さらには攻撃力と俊敏値が大幅に上昇してしまいます」
体力全回とステータスの大幅上昇……
ふざけんな!
さっさとけりをつけないとマズイことになるぞ……!
「ルーシー、あとどれくらいで魔法の詠唱が終わる?」
「あと5分ああれば詠唱が完了しますが、ガーゴイルの脱皮には間に合いません!」
「マジかよ!」
バキバキバキ……
俺の背後から何かが割れるような音が聞こえてくる。
ま、まさか……
「ユウさん! 脱皮が始まってしまいました!」
「嫌あぁぁぁっ!」
クソッ、こうなったらやるしかない……!
「俺がガーゴイルの脱皮を食い止めるからルーシーはさっさと魔法を詠唱してくれ!」
「わかりました!」
頭をこくりと頷かせたルーシーは再び魔法の詠唱を始める。
5分か……
たった5分されど5分。
俺の人生の中で一番過酷な5分がこれから始まる。
「いくぞガーゴイル! 脱皮の準備は十分かあぁぁぁっ!」
意味のわからない奇声をあげながら、俺は鞘から剣を抜き切りかかった。
1
冷静に考えてみたら、脱皮中のガーゴイルは身動きがとれない。
脱皮を食い止めるのは容易だった。
「うおりゃ!」
ガーゴイルの頭を錆びた剣という名の鈍器で殴る。
グギィ……!
「てい!」
ガーゴイルの背中を錆びた剣という名の鈍器で殴る。
アギィ……!
数分間、俺は錆びた剣で一方的にガーゴイルを殴り続けた。
すると、俺のせいで中々進まない脱皮にイライラしているのか、ガーゴイルは細かく躰を震わせ始めた。
やべえ、凄まじい殺気を感じる……
こりゃめちゃくちゃ怒ってるな。
「ルーシーさん! まだですかー!?」
「あともう少しです!」
まだなのか!
そうですよね、だってまだ5分経ってないですもんね!
バキバキ……ゴキッ!
ゴキッ?
なんの音ですかね。
嫌な予感が……
クギャアァァァッ!
俺が数秒攻撃の手を止めた瞬間、ガーゴイルの背中が真っ二つに割れていた。
真っ黒に焦げた躰の中から出てきたのは、白銀の翼と真っ白な躰が特徴的な……モ〇ハンに出てくるクシャ〇ダオラのような姿をしているドラゴンだった。
「ちょ!? なんでドラゴンなの!?」
俺は目の前の状況を理解できなかった。
ガーゴイルが脱皮を終えたらドラゴンになりましたってどう考えてもおかしいだろ!
「ユウさん、まだ言ってなかったんですけどガーゴイルはドラゴイルという小竜の子供なんです!」
「な!? なんでそんな大事なことを言ってくれないんだよ!」
「だって戦闘中に進化するなんて思わないじゃないですか!」
「それはそうなんだけどさぁ……」
グゴォッ!
俺の言葉を遮るかの如く、小竜ドラゴイルの咆哮が大広間中に響き渡った。
そして――
「うおわぁ! か、火炎玉飛んできたんだけど!?」
ドラゴイルの口元から放たれた火炎玉は俺の真横を灼熱の炎で燃やしていた。
さらに、ドラゴイルの口元には新しい火炎玉が装填され、数秒後に放たれる。
グガアァッ!
そして、新たに放たれた火炎玉は俺の躰を目掛け、物凄い速度で飛んできた。
それはさながら炎の弾丸。
「こんな所で死んでたまるかあぁぁぁっ!」
俺は錆びた剣で火炎玉に切り裂きにいく。
その瞬間――
「くっ!」
グアッ!
辺りは謎の光に包まれた。
2
光が収まり視界が元に戻ると、目の前に驚きの光景が広がっていた。
グギィガァッ……!
なんと、ドラゴイルの右翼が根元から切り落とされていたのだ。
「何がどうしてこうなったんだ」
俺は手元にある錆びた剣を見つめる。
謎の光はこの錆びた剣から放たれたように見えた。
「うーむ、錆びた剣から放たれた謎の光がドラゴイルの右翼を切り裂いた……信憑性低いなぁ」
さらに不思議なことにドラゴイルの傷口からは血が一滴も出ていない。
まるで右翼だけが消滅させられたような……
地面に倒れこんだドラゴイルを見つめながらそんなことを考えていると、ルーシーから朗報が入った。
「ユウさん! 魔法の詠唱が終わりました! ドラゴイルから離れてください!」
俺が今の状況について考えているうちに、ルーシーの魔法詠唱が終わったようだ。
「了解!」
俺はすぐさまドラゴイルの近くから離れていった。
そして、俺が離れたことを確認したルーシーは魔法を発動させた。
「我は天の力を宿す者なり……無限の光よ、姿を剣へ変えよ……滅せ滅せ、我らが神に仇なす魔の者を討ち滅ぼせ……神聖絶刃!」
ドラゴイルの頭上に無数の光刃が現れる。
「塵と消えよ!」
ルーシーの合図とともに光刃がドラゴイルの躰に突き刺さる。
グギャアァァァッ!
ドラゴイルは悲鳴のような咆哮をあげるが、光刃は無限に現れ躰を突き刺さす。
グギィ……
だんだんと声が弱まっていき、最後は――
グアァァァッ……!
躰の中心のコアを巨大な光刃を突き刺され、ドラゴイルは消滅した。




