彼岸花13
13 元井日和
自暴自棄になっていたのかもしれない。一緒に帰ろうなんて。結果は目に見えている。でも、その結果だってどうでもよかった。
私たちは並んで歩いた。それが一緒に帰る条件だったから。並べば事故には遭わない。火我元は何もしゃべらない。火我元の顔は、背が高い分見上げなければ見られなかった。違和感。いつも側にいるのが、チビのタツだからかな。
「火我元、私、ヒガンバナ好きよ。」
何も考えず、口は動く。
「幼い頃、母がよくごんぎつねの絵本を読んでくれた。そのあるページに、ヒガンバナの絵があるの。靄のかかったその絵に、幼いながら引き込まれた思い出がある。ヒガンバナを見ると、その空気が蘇る気がする。」
あの空気が好きだった。あの雰囲気が恋しかった。思い出にしがみついて、現実をみようとしない。ヒガンバナは、そんな印象がある。勝手だな…私がそういう人なだけなのに。
「ごんぎつねは結局殺されてしまうの。一生懸命罪滅ぼしをしていたのに、それに気づかれずに。自業自得と言ってしまえばそれまでだけれど。でも、何度も読んでもらうたびに思うようになった。あのヒガンバナは、ごんぎつねのために咲いているんじゃないかって。」
ヒガンバナは、寂しい花でもあった。火我元も、寂しいのかな…。
もうすぐ交差点にさしかかる。勝負の時が近づく。
信号が、青に変わった。“とおりゃんせ”の曲が流れた。
「火我元、みんなを代表するみたいで、とても恐縮なんだけど、」
今まで何の反応もなかった火我元が少し私を見た気がした。心臓が痛いくらいに激しく動く。でも緊張はしない。私は、私の命に興味などないのだ。ああ、こんなこと言ったら、タツに怒られるかもしれないな。
体は思うように動いた。心の中で準備をする。
「あなたがどんなに私たちのことを嫌っても、」
何故こんなにも、あなたのことを助けたいの?
「あなたがどんなに私たちのことを拒んでも、」
何故あなたのためにここまでしようとしているの?
「一生あなたが私たちを友達だと言ってくれなかったとしても、」
…分かってる。私には、私しか知らない信条がある。誰に分かってもらわなくてもいい。私は、私の信条に従って、その信条を守るためなら命も惜しくない。
私は止められないように勢いをつけて、急に前に出た。ステップを踏むように、軽く、明るく。
「私たちはずっと、あなたのことを友達だと思っているから。」
火我元に、そして、タツと司に、笑う。
火我元は目を見開いた。それは、私が前に出たからだろうか。それとも、私が事故に遭うかもしれないからだろうか。
私が、友達だと言ったからだろう か。
しかし、次に目を見開くのは私だった。タツが走ってくる。私に向かって手を伸ばす。そして、強い力で押された。
地から腹の底に響く音が、私の耳を支配し、そして、静まり返った。




