彼岸花12
12 安藤司
「何で俺らは隠れて見てるんですか?」
俺とタツさんは、日和先輩と火我元さんの帰っているところを尾行している。尾行とはいっても、相手には気づかれているけど。ん?それは尾行と言えるのか?
「何でって、お前な~。男女が二人で一緒に帰るんだぞ。その間に入るのはまずいだろう。」
タツさんの顔がゆるみきっている。タツさん…あの二人はそういう関係じゃないですよ。二人は交差点に差し掛かった。
「ほら、あほなこと言ってないで、もう交差点ですよ。」
「あほ⁉…ひどい…先輩に対してそんなこと言うなんて…」
「先輩?誰のことですか?俺の先輩はあくまで日和先輩です。タツさんはただのタツさんですよ。」
「え!そんな風に思われてたわけ?」
「当然です。」
タツさんはしばらくうじうじ言っていたが、すぐに立ち直った。
「タツさん、」
いつもより、真剣な声になっていたような気がした。気が付いただろうか。タツさんは、ん?と振り向いた。
「タツさんは、もし日和先輩が最後の手段ってのをしようとしたら、止めに行きますか?」
「ああ!」
即答だった。タツさんは何の躊躇もなく力強く頷いた。流石タツさん。俺は到底かないっこない。
正直、日和先輩が言った「最終手段」を、日和先輩はいつか実行に移すと思った。もしも実行に移さない計画なら、きっと最初から意見自体を排除して、俺たちに言わないだろう。きっと今がその時だ。タツさんは返事の通り、きっとなりふり構わず突っ込む気だろう。俺に今できることは…
「タツさん、手を出してください。」
「?」
タツさんは何のことか分からず、しどろもどろしている。俺は面倒くさくり、無理やりタツさんの右手を掴んだ。
「おわ!なんだ司、どうしたんだ!お、俺にはそんな趣味はないぞ!」
「鬱陶しいので、少し黙ってもらえます?」
「ぐは…先輩に向かって黙れって…。」
ショックを受けたタツさんだった。しかし、俺が黙って手を握り続けると、タツさんも黙った。 自分の中から、見えないものが流れ出るのを感じた。手を通して、タツさんに流れ込んでいく。この感覚は嫌いだ。何か嫌な思いがする。でも、それが何か分からない。 一瞬、何かがフラッシュバックしかけた。何かを思い出しかけた。しかし、結局それが何なのか分からなかった。
いつの間にか目をつむっていたらしい。俺は目を開けてゆっくりと息を吐いた。そしてパッと手を離した。
「…司?」
「はい、何ですか?」
あくまでしらばっくれる。俺は意識して、いつものやる気のない目でタツさんを見た。
「何をほおけてるんですか。日和先輩、もうすぐ交差点に入りますよ。」
「…あ、ああ。」
気づかれただろうか。俺は拳を握りしめた。肩から指先にかけての激痛としびれが、鼓動に合わせて腕を痙攣させる。タツさんは何も気づかなかったようだった。隣にいるのがタツさんでよかった。これが日和先輩なら、何か感づかれてたに違いない。
「元井…変な考え起こすんじゃねえぞ。」
タツさんがつぶやいた。この交差点を抜ければ、きっと日和先輩は無事に家に辿り着く。でも、そうもいかないだろう。
信号が青に変わった。火我元さんと日和先輩が横断歩道を渡り始めた。二人は何か話しているようだった。 横断歩道の真ん中あたりにきたときに、日和先輩が動いた。トンッとステップを踏むように、一歩前に出た。そう認識した瞬間、俺の隣からタツさんは消えていた。 走るタツさん。俺は、滅多に見ることができない日和先輩の笑顔を見た。この人は、死にたがっているのだろうか…。死んでもいい、そんな思いを抱えているのだろうか。その気持ちが分かる気がして、そう感じた自分に気づいて虚しくなった。
「タツさん、あなたは何があっても死にはしない。だから、日和先輩を助けてあげてください。あなたには、運が味方していますよ。」
日和先輩はタツさんに弾き飛ばされた。そこへ、カーブしてきた車が突っ込んだ。この位置からは見えない。タツさんは俺の視界から、消えた。




