04.後回しにはツケが付いてくる【Side彼】
「うん、とりあえずキミの言い訳を聞いてあげようか」
ヤバい。
何がヤバいってこの状況がヤバいの範疇を超えているくらいにヤバい。
目の前にはものすごいいい笑顔の兄貴と、表情を捨て去ったアズラスの姿。
アズラスに関しては、こうして家に帰ってくるまでの間にも何も言ってこなかったから、尚更怖い……!
二人が、半端ない威圧感を発しながら俺を見下ろしている。
俺? 俺はもうすでに自主的に正座してる。無理! こんなときに下手に反発とかできるわけねぇ!
「い、言い訳って……」
「もちろん、人間なんかに捕えられるとか無様な醜態を見せたオルドビスくんの、見苦しい言い分。それくらいを聞いてあげるくらいの酌量の余地は残してあげてるつもりだよ、僕は」
なんと言ったって、僕はそんなどうしようもないキミの心優しいお兄様だからね。
そんな風に繋げた兄貴だけど、どうしよう笑顔が深まれば深まるたびに、背中を伝う冷や汗が増えていくような気がする。
「まぁ、いいけどね。どうせキミのことだから愚直な理由でしかないってことくらいは分かってるし。そこから、どう落とし前をつけるのかくらいは自分で考えなよ。それくらいはできないと困るし、なにより僕と同じ顔でマイナスをプラス以上にひっくり返せないなんてこと、許せないよ?」
「ちょ、それどんな理由だよ!?」
「口答えできる立場だと思ってるのかい?」
「も、申し訳ありませんでした……!」
さ、逆らっちゃいけない! 本能的に頭を下げた。
「やれやれ。まさかこんなにへたれに成り下がるとは思わなかったけどね。あーあ、数日前のキミの評価を付け直さないと。アズラス。悪いけど、このバカのこと頼んでもいい?」
「……私の教育不届きですからね。尻拭いはきちんといたしますよ」
「ごめんね、あとでよく効く胃薬届けてあげる」
「お心だけ頂いておきます」
「遠慮しなくたっていいのに。まぁいいや。いいかい、馬鹿ビス。僕たちがキミに期待していることは分かってるかい?」
疲れたように深くため息をついたアズラスの肩をたたいたその手で、がしっと頭を鷲掴まれた。ぎりぎりと締め付けながら上を向かせられる。
「痛いとか思ってる暇があったら、頭を働かせて考えなよ。キミだってそこまで落ちぶれた馬鹿じゃないでしょ? もしそんなわずかな思考能力ですら衰えたって言うのなら、僕が直々に手を下してあげるから安心してね」
にっこりと、笑う。
俺と同じ顔なのに、ここまで無邪気な顔で人を痛めつけながら笑うことなんかできない。なのに、兄貴は笑う。俺と兄貴の大きな違いなんだろう。
だから俺は、いつまでたっても甘ったれとか言われるんだろ。畜生分かってるよそんなこと。
「さて、お手並み拝見といこうか。アズラス、あとは任せた」
唐突に手を離されて、ごん、と床に頭を打ち付けた。
こつこつと靴音を響かせて立ち去っていく兄貴の後ろ姿ですら見れない。情けなさ過ぎて。
「オルドビス」
「……分かってる」
アズラスに言葉にされなくても、分かってる。
「何が何でも、ディーを引き戻さなくちゃならないことは分かってる」
強引にでも、本人の意思ですら関係なく、魔法を使ったとしても。それが俺にかけられている期待。家族から与えられた、俺の役目。
兄貴が策略を巡らせて統治するのなら、俺は力で抑え込んで統治する。そうやって力を二つに分けて統一しなくてはならないのが、この領地を治めるために代々の領主と魔王と交わした盟約。俺には関係ないとか、そんなこと言えない。
「兄貴が俺に、何を求めてるかくらい、分かってる」
言葉にしなくても、その落とし前をどうやってつけるようにしているかも、分かってるんだ。
「分かってるけど」
分かっててもやりたくはないんだよ。人間だって、そこに意思がある。意思がある以上は互いに尊重することが必要なんじゃないかって、そう思ってんだ。
こんな考え方は、甘いとしか言われないんだろうけど。
頭で理解してても、やりたくない。
「分かってんだけど……!」
「分かっているなら、動けるでしょう?」
「動きたくねぇんだよっ! やりたくない、そんなことっ!」
「オルドビス」
叫んだとたん、アズラスに叩かれた。
ぱしん、と乾いた音が響く。数泊遅れて、じわじわと頬が熱をもってきたのが分かる。
「な……っ」
「子供のようなことを言うだけなら、誰にだってできますよ。まったく、貴方は成長していませんね。これでは昔と同じではないですか」
静かに、静かにアズラスは繰り返す。
叩かれた頬を抑えることもせず、俺はただアズラスを見ていた。
「繰り返すつもりですか? 自分の役目を投げ出して、その意思を貫き通しますか? 身勝手な自己主張を、子どもじみた我が侭で反抗するつもりですか?」
そこまで落ちぶれましたか、貴方は。
続けられた言葉に、否定の言葉が出てこなかった。これじゃ、アズラスの言う通り、ただのガキの我が侭にすぎない。
あれから何年経った? それでも成長できないままなのか。
そんなわけないだろ、理性は期待を裏切らず従えと言う。でも俺と言う自我はそんな非道な……いかにも魔族的なやり方は行いたくない。二つの思いに挟まれて、身動きができない。
どうすればいい? これじゃ、まるでディーの行動の意図に気付いたときみたいだ。
「これだから、貴方はいくつになっても手が掛かって仕方ないのですよ」
「……悪かったな」
「いいえ、そのための教育者でしょう?」
ふて腐れた俺を見て、アズラスはくしゃくしゃと頭を撫でてきた。
子ども扱いされたら、本当に自分は子供みたいじゃないか。
そうは思っても、アズラスが味方してくれるなら、なんとかなるんじゃないかって、そう思えるから不思議だった。
……半分以上はお兄様のターンだった気がしますww
第一章のときから考えていた伏線と言いますか、裏事情をぶちまけてみました。
まぁ、言葉不足なので中途半端ですが。
いいんです。楽しかったから。
お兄様のセリフ打ち込むときが何より楽しかったから!
お兄様ぐっじょぶ←
さて、と。そろそろビスも立ち直りましょうかね。




