05.場の空気を読みすぎるのも考えもの【Side彼】
なんか近くの壁にもたれかかって項垂れているディー。ぽん、と見張り番に肩叩かれて同情されてらぁ。
一緒に入ってきた人間の女が、キャーキャー言いながらバシバシスバルの肩を叩いてる。痛そうだな、あれ。
いや、そんなことよか。いい加減縄解いてもらえねぇかな。そろそろ痛ぇんだけど。むしろ自分で解いてもいい……よな?
「さて、趣味に走るのはこの辺にさせて頂きますわね」
すすす、とスカートを持ち上げて、俺の前に移動してくる。しゃがみこむと、ふわりとスソが目の前に広がった。つか、見えねぇ。
背筋を使って思いっきりのけぞって、ようやく顔が見れる感じ。こ、この体制は思ったよりも辛いぞ。
「ふふふ、魔族の方はやはり美しいお顔をされているのですのね」
「触んな」
「契約者にしか触れさせないと言うのなら、それはそれでとても美味しく頂けるのですが、それはさておき。貴方に聞きたいことがございますの」
つ、と顎にあてられた指から逃れるように、さらに上半身を持ち上げてみた。
うっ、腹の方の縄がひっぱられて苦しい……けど、顔にはださねぇようにしてみる。
これ以上人間に侮られてたまるかっつーの!
「貴方は《月薔薇の悪魔》でしょうか?」
「は? つきバラ?」
なんだそれ? ばら肉の親戚か何かか?
意味が分からなくて、力が抜けた。ってことはつまり床に倒れ伏せるってことで……。いいや、疲れた。このままでいよう。
「オルドビスは一介の地方魔族の子息だ。そんなたいそれたものじゃない」
「あら、でも地主さまですのね。わたくしと同じでしたの」
「……ここは境目のはず。地主がいるはずがない」
スバルが不思議そうに首を傾げていた……けど、あのさ。本当にいい加減これ外してもらえねぇの?
あっちでは、なんかディーと見張り番だった奴の間に通じるものがあったみてぇで、ただ黙って頷きあっている。何やってんだあいつら。
「ですから、でした、と申しました」
ふふふ、と頬に手をそえて笑ったそいつは、そっと左手を持ち上げて、そでをめくった。
「わたくしも、契約される前は地主の娘でしたの」
そこには、手首にしっかりとつけられた……貼り付けられたって言った方がいいのかもな。幅の広い黒の“契約の証”があった。
でもおかしくねぇか? それならなんでここに契約者の魔族がいねぇんだ?
「不思議そうなお顔をされてますわね。それでもうふふ、そうやって床に這いつくばっていても、美しいものは美しいですわ」
「つか、お前契約者はどうしたんだよ」
「逃げ出してまいりましたの」
「……は?」
あれ? 今なんて言った?
「ですから、逃げ出して参りましたの」
ゆっくりと、繰り返される。
逃げ出した。
契約者の魔族から。
でも、こいつは、目の前の女は限りなくBランクに近い人間だ。そう簡単に逃げ出させるようなレベルの人間じゃねぇぞ。
「従者さまにも改めてお伝えいたしましょう。お聞きになって」
「何を……」
「ここは、契約破棄を望む人間たちの隠れ里」
“契約破棄を望む人間たちの隠れ里”
頭に、言葉が刷り込まれていく。
なんて言葉だっけ? 契約破棄ヲ望ム?
誰が? 人間が。
「生まれ育った故郷にも帰れない、人間達の逃げ場でもありますの」
そこに、ディーもやってきた?
それはつまり……
「魔族はお呼びではありません。ただで開放されるとお思いにならないことですわ」
ディーも、契約破棄を望んでる……?
「魔法対策もしっかりしていますので、無駄な抵抗はなさらないようにすることですわ」
では、失礼。
目の前からスカートのすそが消える。立ち去るいくつもの足音。
それを止めることもできなくて、俺はただその場に倒れ伏せているだけだった。
次の章で色々と不足部分を書いていく予定です。あくまでも、予定ですが。
魔族と悪魔の違いとか、上位ランクの希少具合とか、人間との確執とかその辺りを色々と。
世界背景説明とかね、いまさらとかね! それはあえて言わないお約束で(笑)




