03.最後はお約束の展開で【Side彼女】
ビスの魔法のおかげで、あたしは無事にこの世界に降り立てた。
……あれ? なんでこうなったんだっけ?
また、気がついたら空中落下してたんだけど。アズラスさん曰く時空の歪みに落ちた、ってパターンにしても頻繁過ぎないコレ?
「……ディー?」
「えっと、久しぶり?」
あたしの中では数日ぶりなんだけど、気分的にはそんな感じ。
今日は学校行ったから、目も腫れてないし赤くもなってないはず。それは朝入念に確認したから大丈夫。
……泣いたなんてバレないよね?
「また、落ちてたんだけど……これってどういうこと?」
「分からない。急にマスターが帰ってくるような気がしたから来ただけであって、それは俺が知りたい」
「だよねぇ」
答えなんか誰もわからないとは思いつつ言ってみただけだから、律儀に答えてくれたスバルがちょっと申し訳ないかも。
ゆっくりとスバルを見つめた。
うん、やっぱり猫耳だってしっぽだってついている。ゆらりと動く尻尾は、信じられないけどやっぱり本物だよね?
さらりと揺れる紫色の隣で、朝靄色の綺麗な髪が風になびいてた。て言うか、ビスもスバルもやつれてない? あたしの記憶違いにして気のせい?
何故か担がれてたらしいビスは、スバルの肩の上から降りてあたしの両頬を包み込んだ。
「本物?」
「ビスには偽者に見える?」
「……本物だな。本物のディーだよな」
「ちょっ、何? ビス!?」
今にも泣きだしそうな顔が思ったより至近距離にあって、妙に慌てた。
いや、おでこコツンじゃないからね! 近いからね!
長いまつげが伏せられて、金朱の瞳が隠れる。サラサラの長い髪が、あたしの頬にもかかった。こんなに近くで見ても、やっぱり綺麗な顔立ちしてるなぁなんて。
って、そんなことのん気に考えてる場合じゃなくて!
「ね、ねぇ! ビス、近い!」
「……また、会えた」
「うんそうだねそうだから分かったからお願いだから頼むから離れてください、ねぇちょっとおぉ!!」
吐息、い、息がかかるんですが! 無理! 心臓的な意味で無理耐えられないっ! 美形は美形なだけで犯罪だよねこれ!?
「す、スバルぅっ!!」
「オルドビス、マスターが困ってる」
べりっと効果音がついてもいいくらいに躊躇なく、スバルがビスの襟首を引っ掴んで離してくれた。ありがとうスバル、あたしの心臓の救世主だ。
「スバルありがとう。ビスはナチュラルにセクハラやめてよね」
「……俺との感動の再会は?」
「なんか、全てが打ちのめされた気がしたからどうでもいい」
やっぱり、美形は美形なだけでも犯罪だよね。あたしの心臓がもたないし……あれ? コレ言うの何回目だろ?
あれだけ会えないことを悲しんでたのに、なんでまた会えるとこんなになるのかな? 再会に対する感動って言うものがない……いや、あると信じたいけど、湧き上がってこないって言うか。
まぁ、いっか。ビスは放置して、スバルの肩をぽんぽん叩きながら、ふと思ったことを口にしてみる。
「と言うか、スバルは何でここに? あと、ここ何処?」
最後に居た島とは違うよね? どっかの豪邸みたいな庭的な?
「オルドビスに着いてきた。だからここは彼の家だ」
「なるほど」
そっか、ここが例のビスの家か。
龍小屋とか、でっかい書庫とか、双子の兄貴がいるらしい家か……ビスのくせになんて贅沢なっ!
庭が綺麗に刈り込んであって、ドラゴンとかガーゴイルとかユニコーンとかの彫刻が普通にある家なんて初めて見たよ! なんて豪邸! と言うか、ガーゴイルとかユニコーンとか、ファンタジーでしか通用しないものがある辺りさすが異世界だよね、うん。
「あ、じゃあアズラスさんは?」
「アズラスは寝込んでいる」
「寝込んでって……」
スバルは深く頷いた。
「なんでも、ウヌディビティバルドゥが大量に迫り襲ってくる夢に毎晩寝不足だとか」
「そんな悪夢は寝不足にもなるね、うん」
仮にも神様だけどさ。
一昔前のたらこが大量に迫ってくる某CMを思い出した。あれ、実際やられたらマヂで怖いもんね。
「あ、そだ。忘れてた」
ぽんと一つ手を打って、どうしても聞きた……問い詰めたいことがあって、あたしはずかずかと放置してたビスに詰め寄った。
「ビス」
「な、何だよ?」
「これ、どういうこと?」
そう言って突き出したのは、例のブレスレット。
「なんでか分かんないけど、外せないんだけど。あたしの今後の日常生活的にすっごく困るから今すぐ外して」
「あ。……あ―…、それな……」
ちょっと、なんでそう言いながら明後日の方向を向くの? そんなに後ろめたいことでもあるわけ?
逃がすものか、とあたしはビスの腕をがっしりと掴んだ。
「どういうこと?」
「いや、だから、それ、な?」
「ビス?」
睨みつけるように問い詰めると、ビスはますます気まずそうに頬をひきつらせて……そして観念したかのようにため息をついた。
「……悪ぃ。それ、取れないんだわ」
「……は?」
「マスターの契約の証か? 契約は滅多に解除できないために普通は取れないようになっている」
「はああぁっ!?」
「証とはそういうものだ」
ちょっと待ってよ!? そんなの初耳なんだけどっ! スバルまでなんでそんな当然のような顔するの!? 異世界の常識はあたしにとって非常識なんですけど!?
「何それ……。じゃ、これって死ぬまで取れないってこと?」
「……つまりはそういうことなんだよ。悪ぃ」
「どこが期間限定!? この、大嘘付き!」
いつまでたっても取れないから、なんか変だとは思ってたけどさ! 学校でもそんなチャラチャラしたもの~とかたかがこれ一個だけで説教くらって、さてどうしたもんかと悩んでたんだけど!?
何この展開! 契約したときに言った期間限定って言葉は完全に嘘じゃん!? 詐欺師!? やっぱり美形って、イケメンって詐欺師なの!? 男って嘘の塊でできてるって本当だったの!?
いや、でもビスのほとんどはお馬鹿さんな頭と適当な行動と妙な優しさでできていると思います。あれ? なんか違う。
「ま、まぁ、こんなところでもなんだし、家で茶でも飲みながら話そうぜ? 言いたいこととか全部聞くから。な?」
「それでも契約解除とかできないんでしょ? そういうパターンなんでしょ……ってそういえば、なんかスバルとも勝手に契約してたような気がするようなしないような……」
「俺は別に構わない」
「うわあああ! やっぱりそうだったんだ! スバルごめんなさい本当に申し訳ないです!」
土下座したくなるよ。なんでこんないい人? と契約とかしちゃってたのあたし! 恐れ多くも名付け親だよこれどんな展開?
「俺は、契約を破棄するつもりがなかったから、こうしてまだマスターに従属させてもらっている。マスターが気にするようなことではない」
「うぅっ、スバルってば本当にいい人? だ……」
「……だから、オルドビスのことも分かってやってほしい」
「……うん」
ぽんぽんと頭を撫でられて、ちょっと涙が出そうだ。やっぱりこんなにいい人? と契約を結んじゃったんだなんてすごく申し訳ない気がする。
っていうか、あれ? なんか丸め込まれたような気がするんだけどこれ気のせい?
「よくわかんねぇけど、円満解決したみてぇならいいのか?」
首を傾げながら歩き出したビスの背中を見て、一番大切で伝えたい事を思い出した。
そうだ、これだけは言わないと! 一番大事で、一番伝えたかった事。
「……あ、ビス」
「ん? なんだ?」
あのね、と袖を引っ張って、真っ直ぐにビスの金朱の瞳を見上げた。
「約束、ちゃんと伝えたよ」
ビスは瞳を大きく開いたまま、茫然と呟いた。
「会えたのか?」
あたしは笑いながら頷いた。
ビスが小さい頃に出会ったのはおばあちゃん。
そしたらビスは一体何歳なんだ!? とか、おばあちゃんも異世界来たの!? とか、なんて都合のいい話なんだ!? とか、そんなツッコミがいっぱいできるけど。
でもね、地球上の何億人って人間がいる中で、こうして信じられないような体験をしているのも、何かの縁だと思うから。もし違っていたとしても、あたしは一つの約束を守れたっていう、そのヒト達にとっては小さなわだかまりが解消されるとしたのなら、それでいいと思う。
「なぁ、その子って今どん」
「あ、その質問は受け付けません」
「はぁ!?」
尚も追求してこようとするビスに、あたしはぶんぶんと首を振ってスバルの腕を引いて逃げ出した。
「ちょっ、ちょっと待てよ! ディーっ!」
「マスター?」
二人の問い掛けは完全に無視っ!
いや、これは意地でも答えたくないって言うか……ねぇ? いや、だってなんか恥ずかしいじゃん。
ビスの思い出の子が、あたしのおばあちゃんだったって。
「待てよディー! それ一体どういう意味なんだよ!?」
「だから秘密だって!」
「なんで秘密にすんだよ!? 秘密の意味がわかんねぇよ!?」
「秘密なものは秘密な……うわっ!?」
「マスター、逃げ切りたいのならこっちの方が早い」
「だからってなんでお姫様抱っこ!?」
「おい!? こら! てめぇら待ちやがれえぇっ!!」
ということで。
またしばらく地球には帰れそうもないから、あたしは非日常を楽しむことにした。
さよなら言って泣いているよりは、分からなくても笑っていられるほうがいいもんね。
とりあえず、妙に足が速いビスに追いつかれないように逃げ切ることから、あたしの異世界ライフが始まるようです。
【第一章】こんにちは、異世界 了
第一章が終わりましたー!
長々とお付き合いありがとうございます!
はははっ、気付けばさりげなくお気に入り登録の数が増えていたことに気付いたときはどうしようかと思いました。おそれいります。
あ、筆者日本語苦手なので(←)誤字脱字等ありましたらご指摘頂ければと思います。
とりあえず、こんにちは編は終了です。
補足的な人物設定を挟んで、第二章へと突入します。
ちなみに、第二章は『ようこそ、勇者様』です。
これからも王道斜め12℃を突っ走り続けますので、どうぞよろしくお願いいたします!




