05.無意識と無自覚ほど性質の悪いものはない【Side彼女2】
スバルの後を追って歩くこと……どれくらいだろ?
黙々と歩く紫色の猫を追いかけて、あれからずっと海岸を歩いてる。どこに行くのかは、全然分からないけど。
「ね、ねぇ。どこ行くの?」
「にゃあ」
……いや、聞いても分からないのは予測済みですけども。
「なぁ~」
「……不機嫌そうな声じゃないしねー。キミは一体何が言いたいのかさっぱりだけど」
いやまぁそれでどうしたとか、そんなことは関係ないんだけどさ。
「にゃあお」
「どうした……って、コンクリートっ!」
ふと、スバルが立ち止まった。
さて今度は何かな、と前を見れば慣れ親しんだコンクリート舗装の地面が! 道がある!
たかだかこんなことで喜んでるのもアレだけどさっ! コンクリート舗装の道だよ! むき出しの地面の道じゃないよ、砂でもないよっ!
「コンクリートの道ってことは……誰か人がいる!」
「なぁぅ」
いやまぁ、普通にいるもんなんだろけど。
どこか呆れたように鳴いたスバルは、すたすたとその道を歩いていく。
「あ、待ってよ!」
あたしは慌ててスバルの後をまた追いかけた。
まぁ、そのねコンクリートの道とは言っても両脇はジャングル的な何かなわけだから、一人で置いてかれたくないなぁ……って。置いてかれるって言っても、猫だけど。
ほら、草むらからいきなりがばぁっと何かが出てこられても困るし? チキンハートなんだよ、これでもっ!
ほんっとに頼むから出てこないでよ……。動物でも幽霊でも、人間でもビックリするから、マヂで。出てこないで下さい。
よしっ。こんだけ祈っとけば大丈夫……なはず。
「どこに続いてるのかな? やっぱり、お約束的な島の中心部?」
うぅむ……。謎だ……。
「スバル。キミは知ってるんだよね?」
まぁ、そう聞いてもゆらゆらとしっぽを動かして、歩き続けるだけで返事はない。
猫に返事を求めてる時点で痛い人間っぽいのは自覚してるけど……誰もいないからいっかなーと。
「……それにしても、すっごい大自然だなぁなんて」
高層ビルに囲まれた、人ごみのコンクリートジャングルにいたからそう思うのかもしれないけど。
360度自然ってすごいね。マイナスイオン効果抜群だよきっと。
なんて言うの? 部屋に置く芳香剤の香り? いや、こんなのしか例えられないあたしもあたしだけど。
「……ビバ、異世界?」
でも、楽しむよりはとりあえず帰りたいかなぁ、なんて。
そんな暢気なことを考えてたら、突然スバルが茂みに向かって威嚇し始めた。
「フーッ!!」
「は? え、何!?」
背中の毛を逆立てて、スバルは今にも飛び掛りそうな体制をとっている。
突然の展開についていけないあたしは……えぇと、どうしよう。
「あ―…、そこにいる何者かに告ぐ。悪いことは言わないので今すぐ引き返してください。もれなくあたしの心が落ち着くから」
自分で言うのもなんだけど、間抜けだね。
正直言った本音だけれども。
「それから、えっと、猫も飛び掛らなくてすみます。さぁ平和的に解決しましょうよ、ねぇ……?」
ねぇとか言ってる場合じゃないのは分かってるんだけど。
いや、本当に出てこないでくれると嬉しいんだけどなぁ……。
「ぷっ」
「ぷ?」
「にゃああああっ!!」
「うわ、ちょっ、ぎゃあああああああっ!!」
ん? 今、誰かが思わず噴き出したような……て言うか、超知っている声のような気が……。
なんて。のんきにそんなことを考えてたら、スバルが茂みに向かって飛び掛った。
それから上がる悲鳴もやっぱり聞き覚えがあって……。
「……ビス、一体何がやりたいの?」
茂みを掻き分けて様子を見に行くと、案の定と言うかなんと言うか、ビスがスバルに噛み付かれていた。
「いてえっつの!! 離せ馬鹿猫あだだだだっ!!」
ひょいと、スバルを抱き上げて歯を剥がしてやると、ビスの二の腕にくっきりと歯形がついていた。
あらら、血が出てる。
「……大丈夫? 絆創膏いる?」
「コノヤロウ……」
忌々しそうにスバルを見ていたビスだったけど、噛み跡は気にしてないみたい。なら、あたしも気にしないけど。
「ん? スバル、何つけてるの?」
身をよじってあたしから逃れようと必死のスバルの首に、いつの間にか首輪がついていた。
さっきはこんなのなかったじゃん。いつの間にこんなのつけてたの? 異世界の不思議ですか!?
紫色の毛に埋もれるように、こげ茶色の首輪がきちっとついている。何故かDの文字がぶら下がっていた。
「なんで?」
「なんだよ? 何か見つけたのか?」
「や、あの首輪が……わわっ!?」
嫌がるように、ひらりとスバルはあたしの手から逃れて、華麗に地面に降り立った。
猫は気まぐれだもんね。触られるのとか、抱き上げられるの嫌いって聞くし。
「ま、いっか」
「は?」
意味が分からないとでも言いたそうなビスだけど、説明しなくてもいいよね。ビスお馬鹿さんだし。
「ところで、何か分かったこととかあったの?」
「あ? ……たぶん?」
たぶんって、疑問系にされると不安になるんだけど。
「なんか、でっかい広場に、変な塔があった……気がする」
「え? 気だけ?」
「だから、たぶんって先に言ったじゃねぇか!」
そこで逆ギレするのもおかしいと思うんだけど。
しきりに首を捻るビスに、案内してよって。
あたしは足元で毛づくろいを始めたマイペースなスバルに苦笑しながらそう言った。
第四節おしまいです。
短いとは言わないで下さい、一つ一つが長かったのだから。
続きもかっとばしていきますよー!