07.それに既視感を覚えて【Side彼】
「ちょ、てめえ人の話聞いてなかったな!」
俺はすぐさま追い掛けた。
あ、宿代は先払いだったから心配ねぇからな。
ここまで丁寧に教えてやったのに逃げるとか、恩をあだで返すようなことして、何なんだあいつ。
「おいこら! 止まりやがれ!」
「誰が止まるか!」
うわ速答。しかも叫び返されたし。
ま、そんでもディーは所詮人間。
魔族の俊足にはかなわねんだよな。あっさりと追い付いたぜ? あしからず。
「お前なぁ、人の話はちゃんと聞けよ」
「嫌! あたしは何も聞いてない。知らない、分からない! 話してよ変態!!」
「へ、変態ってお前な……」
「どうせ、他の魔族に狙われてるなら俺と契約しねぇ? とかなんとか言うのは目に見えてんの!」
あ、なんだ。そこまで考えてたのか。
そこまで分かってんなら話は早ぇな。俺の目的も半分は果たせるし、アズラスにも視線でいい加減に契約しろ言われたし。
「お前はそれでも良いのかよ?」
「それも嫌! あたしは元の世界に帰るの! ほっといてよ!」
……すげぇ我儘っぷりだな、オイ。
そんな自分勝手な屁理屈が、魔族相手に通用すると思ってんのかよ? ま、俺は諦めねぇけど。
さっきから伝わってくるのは戸惑いや不安。
我儘だって、それからなのかと思う。
よくわかんねぇけど、いきなり自分の知らない世界に放り出されて、不安にならねぇはずねぇもんな。
ざわりと、魔力が波立った。
「なら期間限定でどうだ? どうせ、帰り方分かんねぇんだろ?」
「……あ」
くしゃりと、泣きそうに顔が歪んだ。帰りたい、と心が大きく揺れたのを感じる。
実を言うと、期間限定での契約は出来ないんだけどな。まぁ、多少の嘘は目を瞑ってくれ。
……うーん、もう一押しってところか?
「ちなみに俺はかなり心が広い方だぜ? 他の奴んとこ行ってみろよ? 人間なんざ魔力増幅器だとか思ってるやつの方が多いんだからな」
「……そうなの?」
コレは本当。
人間風で言えば奴隷……かな。幻術で自分に気があるようにしたり、麻薬で一種の興奮状態にしたり……。
一言で想いとは言っても、人間の感情は多いからな。そこに恐怖や絶望とかも含まれるわけだ。
今この時点だって、ディーの不安や戸惑いだけでこんなにもさざ波を立てられている。
「……本っ当に期間限定?」
「あぁ」
いや、嘘だけど。ようは気の持ちようだ。
「途中で契約破棄とかできる? ビス自体が信用ならないんだけど!?」
「おいコラ。それ、どーゆー意味だよ!?」
「いや、だって……」
「おっ、そこにいんのはもしかしてランクSSの人間だったりする?」
「は?」
ったく、横から口入れてくんじゃねぇよ……。
ディーがあからさまに嫌そうな顔をした。
だから言ったろ、どこぞのアホな魔族がディーの力に引かれてふらふらと近寄ってくるって。
ま、俺はディーを譲る気はねぇけどな。正面から堂々と張り合ってやろうじゃねぇか。
繰り返しますが、ビスはちゃんと考えてはいません。
感じたまま話しているでしょう、だってこの子残念な子(笑)
今回は、続けて次の節も投稿します。