ep.1 普通に生活できると思っていました
——恋愛ついて——
『これからもずっと一緒だからね!』
中学の時、俺は本気で好きになった女子がいた。毎日一緒に遊んで、俺にとってその人は運命の人だと当時の俺は信じて疑わなかった。ある日俺はその女子から告られた。俺はもちろんokすることにした。だが現実は無情で残酷。その女子の告白は罰ゲームによるもの。いわゆる嘘告。バカにされ、イジメられる。恋愛は金と時間の無駄だ。関係にヒビが入り、何も得ずに傷だけが残る。俺はその時思った。
恋愛というものは最終的には傷つくもの。なのになぜ学生という生き物は、自ら傷を作りにいくのだろうか。傷ついた先に得るものがあると言うのなら、俺はいったい何を得たんだろうか。
ここは日本で四番目の名門校私立翡翠川学園。春の季節特有の桜が舞い落ち、新入生たちが期待に胸を膨らませ、正門を潜り抜ける。その中に一際目立つ女子生徒がいた。風で肩まで伸びた水色の髪を靡かせながら歩くその姿は女神のようだ。神楽坂家の令嬢、神楽坂澪である。圧倒的な学力!透き通ったように綺麗な水色の髪、整った顔、スタイル!多方面で活躍して、高スペックすぎる高嶺の花だ。
「よろしく、明月洸夜です」
席に座り、俺は大手ゲーム会社で部長を務める母親仕込みの社交辞令で隣の席の女子生徒に話しかける。するとすぐに反応して笑顔を作ってこちらへ顔を向ける。
「神楽坂澪です。よろしくね」
「あ、神楽坂さんか、あの名家の」
神楽坂家、それは政財界にも影響力を持つ旧家。古くは華族に連なる家系で、現在は巨大複合企業「神楽坂グループ」を中核に持つ。事業分野は金融、医療、教育、不動産、防衛技術、AI・通信など多岐に渡る。「日本で神楽坂の名を知らぬ者はいない」とまで言われる。母方の実家もまた大手商社を営む財閥筋らしく、この結婚自体がいわゆる政略結婚だったという話を、俺は風の噂で聞いたことがある。
神楽坂家、そういえば最近神楽坂グループの株買ったっけ。
俺は初対面の相手とはこれくらいの最低限の会話は済ませておく。あの出来事からもう二年半ほど経つ。恋愛で傷ついたからと言っていつまでも人間関係から逃げては行けないのだ。
「神楽坂さんって趣味とかある?」
「あはは…趣味ねぇ…」
神楽坂の脳裏に「定位置」「お約束」という文字が苦々しく浮かんだ。
「すぅ…趣味か…」
考え込むような仕草を見せる神楽坂。
「趣味は、アニメ…とかかな?」
「アニメ!神楽坂さんってアニメ見るんだ!どういう系?」
神楽坂は俺のテンションが上がったことを察して思わず笑顔がひきつる。
「…?えーと、ジャンルは問わず幅広く見てるかなー…」
隣の席の美少女がアニメ好きなことがあるんだな。人生何が起こるかわからない。
「まじか、結構見るんだね。俺も見習わないとな」
「ん?」
俺は最低限の会話を済ませるとさっきまで澪に向けていた視線がふっと窓の外へ流れた。そういや母親が『趣味の合う友達は見つけてこい』と言ってたから趣味の合う人が隣で良かった。怖い人じゃなさそうだし。高校生活のスタートダッシュはなかなかの出来だ。
神楽坂は息をのみ、思わず目を見開きながらも俺に話しかける。
「あの、」
「うん」
「私、神楽坂家だよ?」
「そうだね」
言わなくてもあんたが神楽坂澪なのはわかってるわ。なにか意図があったのか。
神楽坂は自身に接してくる男はごますりか、ナンパ目的のやからだけだった。だけど奴は純粋にただ神楽坂の趣味が知りたかっただけの普通の一般人。
「ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「あぁいや、全然大丈夫…」
なんだったんだ?
「そ、その…別に家柄とか、そういうの明月君は気にしないのかなぁ…って」
「家柄…まぁ気にするけど。趣味くらいは聞いてもいいかなって。クラスメイトだし」
「う、うん。クラスメイト。そそうよね…」
澪はどう対応していいかわからずぎこちなく椅子を傾け黒板の方へと向く。
まぁ俺のアニメ好きはほんとだとしても澪は全然趣味じゃなくて適当に言って趣味が合う認定されただけなのは俺は知る由もなかったが。
澪としては自分がよくわからない気持ちに踊らされるのは些か気持ちが悪い。この気持ちがなんなのか調査をすると、なにか決意を固めてるような感じの澪を見て俺は特に気にする様子もなく普通に今日を過ごす。
放課後。
(絶対に違う、あの人は無害風を装っていつか必ず襲ってくる…本性を暴いてやるんだから)
澪が頬杖をつきながら考えてると俺は席を立って帰ろうとする。俺にとって放課後の時間は一分たりとも無駄にすることは絶対にできない。
「あ、あの…!」
「ん?どしたの神楽坂さん」
「あ、いや、その…ごめん、やっぱなんでもない」
(なんでひよるんだよ私!)
「そっか、それじゃ、また明日ね」
「…うん、また明日」
なんだったんだろ?神楽坂家の令嬢が俺に何の用だったんだ、まさか俺が知らない間に失礼なことをしてしまったのか?それなら、後で謝っておく必要があるな。
教室を出て行く俺をぼーっと見つめる。自分の選択は正解だったのか、もっと上手くできたんじゃないか、そんなことが神楽坂の頭の中でぐるぐると回っている。
俺の放課後は一分一秒無駄になんてできない。それは、アニメを観るため。
靴箱で靴に履き替えいつにも増して早歩きで家へと向かっていく。
俺は帰宅部エースを自称してるくらい、帰る速さには自信がある。なぜって?俺の前を歩いて下校してる生徒を俺は見たことがないからだ。帰宅は俺の唯一の得意分野と言っても過言ではない。
そんな洸夜の背後から小走りでこちらにやってくる気配がした。
走ってまで俺を追い越したいのか、帰宅は歩かないと競技が成立しないだろ。
「一人で帰って寂しくないのか洸夜くーん」
後ろから肩を掴まれ振り返ると一人の女子生徒がいた。俺の幼馴染の琴吹有栖だ。肌は白く、全体的に華奢な体つきをしていて艶のある黒に近い灰色の髪をツインテールに結び、両側には淡いピンク色のリボンを揺らしている。前髪は目元にかかるくらいで整えられており、メスガキのヘアースタイル。
ちなみに琴吹家は、うちの近所で小さな定食屋を営む、これまたごく普通の庶民派一家だ。有栖自身は俺と同じ「庶民枠」――というより、実は学力だけならクラスでも上位に食い込む特待生らしいのだが、本人はその手の話題を極端に嫌がる。普段の態度からは想像もつかないので、俺も詳しく突っ込んだことはない。
「なんだ有栖か…お前この俺に着いてくるとはなかなかやるじゃないか」
一瞬だけ有栖は冷めた目で洸夜を見たがいつもの表情に戻った。
「なに訳のわかんないこと言ってんのよ。まぁいいわ、あんた一人で帰るの?」
「帰って予定があるから早めに帰らないといけない」
「ふーん。じゃああんたと途中まで一緒に帰る」
「まぁそうなるわな。帰り道大体一緒だし」
「私と一緒に帰れて嬉しい?」
「うわー嬉しいなー」
有栖はツインテールの片方を手でくるくると巻きながらニヤニヤと俺の顔を覗き込んでくる。俺は棒読みで返答しながら有栖の顔を押し除けるのであった。
「ちょ、前髪が…」
「あ、ごめん」
有栖はポケットからコンパクトミラーを出して前髪を櫛で整える。
こうして一番信頼できる友人と一緒に帰ることも、傷を修復する一つの手段なのかもしれない。あの時も最初に寄り添ってくれたのは有栖だったな。
有栖の顔をチラ見しながら心の中でそう呟いた。
「なに…そんな見て」
「いや別n」
「デュクシ」
ジト目で見つめながら手刀で洸夜の脇腹を軽くつつく。
この期に及んで「デュクシ」を使う奴がいることに俺は驚いた。デュクシとは主に手刀やパンチで人を攻撃する際に口で言う「殴打の効果音(擬音語)」…男子小学生などがじゃれ合ったり、プロレスごっこをしたりする際に「デュクシ!デュクシ!」と大げさなアクションとともに発する言葉として広く知られている…主な特徴と背景は…
「ちょっと、何ぼーっとしてんのよ。せっかく同じ高校に…じゃなくて! 通学路が同じなんだから、しゃきっと歩きなさいよね!」
俺の解説を止められた、有栖は俺が何も考えてないと思い込んでるに違いない。
「いや、高校生になったからって急に体力が湧くわけじゃないし。俺は目立たず平穏に三年間を過ごすって決めてるんだ」
「ふん、相変わらず向上心がないわね。……まあ、あんたが変に目立って女子にモテたりしたら、それはそれで鬱陶しいし……今のままでいいけど」
有栖の声の小ささに俺は眉を顰めて聞き返した。
「最後の方なんて言った?」
「あんたはモテない方が似合ってるといったのよ」
いやひどくね?まぁその通りなんだけど。
「家に着いたら早速アニメを見るとしよう」
独り言が夕日の中に溶ける。洸夜は家に着いたら早速階段を上り二階にある自室に籠ってテレビをつけ、自分だけの時間を満喫してた。
数十分至福の時間を過ごした俺は軽い足取りで階段を降りる。
「あ、おかえり。遅かったわね」
玄関先で腕を組んで待ち構えていたのは翡翠川学園中等部二年の妹の明月由紀だ。第一声でわかる通り……家の中でのこいつは学校とはまるで別人だ。まぁ容姿だけでも説明しておこう。透き通るような銀髪と宝石のような蒼い瞳を持ち、学園では常に優雅に振る舞う。その姿はまるで物語に登場する姫君のようで、通う中学校の生徒たちからは憧れと尊敬の眼差しを向けられていた。だが家でのこいつは、そのお姫様のイメージとはまるで別人だ。エプロン姿で仁王立ちしながら、俺を見るなり小言を並べ始める。
「ご飯できてるから、早く座って。冷めるでしょ」
うちの家庭は女手一つなため、基本的には妹が晩飯を作ることになっている。ちなみに妹の料理の方がうまい。
「お、おう。ありがとな」
「べ、別にお兄ちゃんのために張り切って作ったとかじゃないから。自分の分のついでよ」
いや二人分しかないのに「ついで」も何もないだろ。
由紀と向かい合わせになる形で座りカレーを口に運ぶ。
「どう?美味しい?」
「普通にうまいな、流石俺の妹」
「そ、そんなの当然でしょ。毎日作ってるんだから下手なわけないじゃない」
由紀はつんとそっぽを向きながらも、口元がわずかに緩んでいるのを俺は見逃さなかった。
「てかお兄ちゃん今日帰り遅くなかった?いつもなら学校終わって秒で帰ってくるのに」
兄の事に超敏感な由紀の感覚はいつにも増して鋭かった。
「秒は言い過ぎだろ、ちょっとコンビニに寄り道して行っただけだ。」
俺は息をするかのように嘘をつき、何事もなかったようにカレーを食べ進める。野菜が細かくカットされてて美味い。
由紀の眉がぴくりと動いた。由紀はスプーンを置き、腕を組んでこちらをじっと見据えてくる。
「ふーん。まあいいけど」
「あ、あぁ」
「ーって、良くないから!」
由紀はテーブルをバンと叩いて立ち上がる。
「遅くなるならメッセージの一つくらい入れなさいよ!お母さんだって心配するでしょ、まったく…!」
「わ、悪い。今度から気をつける」
「まったくもう…お兄ちゃんは昔からそうなんだから。私がしっかりしてないと、この家、回らないんだから」
腕を組んでため息をつく由紀は、まるで保護者のような貫禄だ。歳下のはずなのに、なぜこいつはいつも姉貴分みたいな顔をしてるんだ。
「はいはい、由紀お姉様の仰る通りで」
「か、からかわないでよ!別に、お兄ちゃんのことが心配とかそういうんじゃなくて…家族として当然のことをだね…」
由紀は頬を赤くしながら早口でまくし立てる。誤魔化そうとするほど墓穴を掘っていることに、こいつはいつ気づくんだろう。
「まあ、ちゃんと帰ってきたし。今日のところは良しとしましょう」
由紀はふいっと視線を逸らしながらも、俺の皿に大盛りのカレーをよそってくれた。相変わらず素直じゃない奴だ。
その時、玄関の扉がガチャリと開いた。
「あ、母さん帰ってきたみたい」
由紀が玄関へ目をやる。
廊下から歩いてくるのはスーツを身にまとい、若い女性、肩まで伸びた黒髪はサラサラで、大きな蒼い瞳は由紀そっくりだ。名を明月晴奈という。大手ゲーム会社「オリオンゲームズ」の部長を務めており、常に持ち帰りの企画書とにらめっこしている、なかなか忙しい人だ。
「なんだ、もうご飯食べたの?」
「お兄ちゃんと食べちゃったよ」
「寂しいもんだねぇ」
「休日は一緒なんだから別に良いだろ」
不意をつかれたように洸夜へ視線を向ける母。
「あぁ洸夜いたんだ。相変わらず気配を消すのが上手いわね」
晴奈は晩飯をレンジで温めて席に腰を下ろす。
「消したくて消してねぇよ…」
俺はこめかみを押さえ、ゆっくり息を吐く。
「それで洸夜、高校初日はどうだった?ちゃんと友達はできた?」
「初日から友達なんてできるかよ」
晴奈は相づちは返すものの、声には熱がなかった。肩の力が抜け、話の続きを待つ気も失せていく。「ふーん」と返す母。そしてカレーを食べ進める。
いやなんで聞いたんだよ。
「私は友達たくさんできたよ」
「さすが由紀、洸夜も見習わないとね」
「お兄ちゃんは要領が悪いだけで、ちゃんとやることはやってるから。心配しなくても大丈夫だよ、お母さん」
俺の肩を軽くポンと叩きながら、由紀はそう言ってくれた。フォローしてくれてるのはわかるんだが、なんか上から目線な気がしてならない。
「べ、別にフォローしたわけじゃないから。事実を言っただけ」
案の定これだ。
「もう部屋戻ります…」
「強く生きろよ息子」
俺は何を言っても無駄だと悟り、口を閉ざした。
俺は階段を上り自室に戻る。さて、俺のお待ちかねアニメ鑑賞の時間だ。この時間だけは誰にも邪魔されてはならない。最近ハマってるラブコメを深夜帯まで見て、就寝するのが俺のルーティーンになりつつある。
おっと、アニメばっか見てるわけじゃないぞ。ゲームもしてる。最近買ったエロゲーを思う存分楽しむことで、明月洸夜の生命は維持できているのだ。
アニメを数時間見てふと時計を観察する。
「もう二時か…寝るとするか」
布団を被り今日の疲労がどっと押し寄せ、秒で眠りにつくことができた。
気がつくと、俺は誰もいない放課後の教室にいた。机も、黒板も、窓から見える校庭も、何も変わっていない。
……ただ、誰もいなかった。
時計を見る。長針も短針も、十二時を指したまま動いていない。
『……誰かいる?』
『だーれだ?』
両手で目を覆われて視界が暗闇に染まる。首筋に吐息がかかり、体は密着状態。俺は半ば強引に振り解き、その場から離れた。
振り返ると、そこには俺が嫌でも思い出したくない中等部時代のあの女、天ヶ瀬メイが立っていた。
いつからそこにいたのか分からない。ただ、彼女は当たり前のようにそこにいた。
『なに逃げてるの? 洸夜』
鈴を転がすような、かつて俺が世界で一番好きだった声。
夕暮れ色の光を受け、彼女はふわりと微笑んでいる。……だが、何かが決定的におかしい。
影だ。
彼女の足元から伸びる黒い影だけが、意思を持っているかのようにウネウネと蠢き、ゆっくりと俺の足元へ向かって這い寄ってくる。
『……なんで、お前がここにいる』
声が震えないよう、必死に喉を締め付ける。
メイは首をカタリと横に傾けた。関節が鳴るような、小さな違和感のある音が響く。
『なんでって……約束したじゃない。『ずっと一緒』って』
彼女が一歩、足を踏み出す。
その瞬間、教室の景色がぐにゃりと歪んだ。壁の塗料がボロボロと剥がれ落ち、窓の外の夕空がどす黒い赤色に変色していく。
静寂しかなかったはずの空間に、無数の「ひそひそ話」が響き始めた。
『あいつ本気にしてたんだって』
『ウケる、罰ゲームなのに』
『かわいそー、勘違いしちゃって』
あの時、教室中に響き渡っていた同級生たちの嘲笑。それが耳元で、頭の中で、鼓膜を直接押し破るような音量で渦を巻く。
『みんな、洸夜のこと笑ってたよ? でも私ね、本当はちょっとだけ可哀想だなって思ってたんだ』
メイの顔から、笑みが消える。
いや、消えたのではない。目も、鼻も、口も……まるで濡れた絵の具を指で拭い去ったかのように、彼女の顔パーツがずるりと平らになっていく。
のっぺらぼうになった「それ」が、両腕を大きく広げて俺へと近づいてくる。
『だからね、洸夜。もう傷つかなくていいように……ずっと、私の罰ゲームになってよ』
冷たい影の手が、足首に巻き付く。
身動きが取れない。金縛りのように体が固まる。
顔のないメイが、俺の至近距離まで顔を寄せてきた。黒い穴のような『何か』が、耳元で笑う。
『ねえ……これからも、ずっと一緒だよね?』
「――っ!?」
跳ね起きると、そこは見慣れた自分の部屋だった。
机の上の目覚まし時計が、機械的な電子音を鳴らしている。
全身が嫌な汗でぐっしょりと濡れていた。心臓が胸を突き破りそうなほど激しく脈打っている。
「……最悪の目覚めだ」
俺は顔を覆い、深く重いため息を吐き捨てた。
彼女は確か、内部進学せずに他の高校受験してどっかいったんだっけ。もう顔を見ずに済むのは安心するが夢に出てくるのは聞いてない。
朝、俺は朝日に照らされながらあの悪夢を思い出さないように何も考えずに妹より先に家を出た。外は静けさに満ちていて俺の足音だけが聞こえる。
巨大な校舎の正門を通り抜け、教室へと足を運ぶ。すると目立つ水色の髪が教室の窓からチラリと見えた。ノートにペンを走らせている。
まだ七時半前だぞ、来るの早くないか。しかも勉強してるし。
俺が扉を開けると神楽坂は顔を上げてこちらを見てくる。目が合うと俺は軽く会釈して自分の席へと向かう。だがやつはすぐ目を逸らし顔を外に向け窓に写る景色を見つめる。
嫌われるようなことしたっけ。
隣の席に美少女、縁の無い世界がすぐそこにある。これは目の保養になりそうだ。俺が席に腰を下ろすと神楽坂が景色をみつめたまま。
「あなた、来るの早いのね」
均衡を破ったように神楽坂が口を開く。
「早く来てもなにかするわけでもないが。お前こそ早いと思う」
「勉強しないといけないからね」
「へー朝早く来て勉強か、凄いな」
「明月くんも勉強してみたら?頭がすっきりするから」
「とてもじゃないができません」
ふと神楽坂の目元を見るとうっすらクマができていた。きっと夜遅くまで勉強していたのだろう。
勉強の邪魔になると思い俺は机に突っ伏して睡眠を開始する。
まぁこの毎朝する会話もこの席だからできることだ。席替えで隣同士じゃなくなったら接点はなくなるだろうし、期間限定と思えば楽しめるか。恋愛対象として見たら終わりな気がする。同じ過ちを繰り返さないようにしよう。
こうして、俺の全然普通じゃない高校生活が幕を開けたのだった。




