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第12話 「入社式――社会という名の現実と、家族という名の秘密」


春の朝は、どこか薄く冷たい空気を残していた。


柿沼榮助(18)は、真新しいスーツに袖を通しながら鏡の前に立っていた。


ネクタイを結び直す指が、ほんの少しだけ固い。


(ここから本当に“社会人”か)


高校までの延長ではない世界が、今日から始まる。



会場は《株式会社・龍雷神》本社ビルの大ホール。


白と黒を基調とした空間に、緊張した空気が漂っていた。


新入社員は約40名。


誰もがまだ“他人”の顔をしている。



■新入社員(男女40名・抜粋グループ構成)


※榮助と同期(ほとんど初対面)


男子:

・柿沼榮助

・藤崎悠真(真面目・成績トップ)

・黒田蓮(体育会系)

・中村海斗(軽いノリ)

・佐々木翔太(冷静分析)

・遠山健人(無口)

・松岡凌 (ムードメーカー)

・高田颯太(野心家)

・西川優斗(穏やか)

・森本拓海(観察系)

・加藤大輝(熱血)

・井上亮介(理論派)

・田村駿(社交的)

・橋本悠斗(軽快)

・石田陸(真面目)


女子:

・白石結菜(明るい)

・西園寺玲奈(冷静系)

・藤堂紗希(社交的)

・神谷美月(落ち着き)

・桐谷奈緒(姉御肌)

・一ノ瀬陽菜(親しみやすい)

・天野琴葉(清楚)

・佐伯雫 (クール)

・小泉彩音(観察)

・遠藤里奈(鋭い)

・水島結菜(情報通)

・橘美咲(現実派)

・片岡莉子(しっかり者)

・藤堂奈央 (ムードメーカー)

・白石芽衣(控えめ)


まだ互いに名前も曖昧なまま。


ただ「同期」というだけの関係。



入社式が始まる。


静かな音楽とともに、社長が入場する。


《株式会社・龍雷神》代表取締役。


黄金おうごん


その名は、どこか現実離れした重さを持っていた。



黄金は壇上に立つ。


しばらく会場を見渡し、ゆっくりと口を開く。


「君たちは今日から、社会の一員になる」


静かな声。


だが会場全体に響く。



「この会社は“結果”で人を見る」


一瞬、空気が張り詰める。


「才能ではない。努力でもない」


「出した結果だけが、君たちの価値になる」



誰も動かない。


榮助も、ただ聞いている。



「ここでは“学生の延長”は通用しない」


「昨日までの自分は、今日で終わる」



その言葉が、会場に静かに沈む。



入社式は続く。


辞令交付、研修説明、配属の概要。


一つ一つが“現実”として積み重なっていく。



式が終わる頃には、誰もが少しだけ疲れた顔をしていた。


だがそれでもまだ、始まったばかりだった。



夜。


柿沼家のリビング。


そこには4人が揃っていた。


榮助、父・健二郎、母・美枝子、そして姉・智恵子。


全員が《株式会社・龍雷神》関係者。



食卓には少し豪華な料理が並ぶ。


だが空気はどこか“仕事の延長”のようだった。



智恵子が榮助を見て言う。


「入社式、どうだった?」


榮助は少し考えてから答える。


「……重かったです」


智恵子は小さく笑う。


「それでいいの」



そして表情を少しだけ引き締める。


「これからが本番よ」



「高校と社会の違い、分かる?」


榮助は黙る。


智恵子は続ける。


「高校は“守られた失敗”」


「社会は“許されない失敗”」



その言葉は静かだったが、鋭かった。


榮助は視線を落とす。



健二郎は黙って酒を飲んでいる。


美枝子は静かにそれを聞いている。


誰も否定しない。


それがこの家の“現実”だった。



同じ頃。


柊木家。


菫、桜、そして双子の妹・燈子と玲子が食卓を囲んでいた。


穏やかな夕食の空気。


だが話題は自然と榮助へ向かう。



菫が言う。


「今日、入社式だったの」


燈子が反応する。


「へぇ……龍雷神だよね」


菫は頷く。


「うん」



玲子が少し首をかしげる。


「そういえば、お姉ちゃんの会社って……」


「秘書課の美枝子さん、いるわよね?」


菫は少し驚く。


「ええ」



燈子がさらに言う。


「もしかして……取締役の健二郎さんって、ご主人のお父さん?」


菫は言葉に詰まる。


「そう……なるわね」



玲子が静かに言う。


「じゃあ、お姉ちゃんの家系、全部会社にいるってこと?」


少しの沈黙。


桜は気にせずご飯を食べている。



菫は苦笑する。


「……そうなるわね」



燈子がさらに言う。


「ていうかさ、今日うちの部署に智恵子さん来てたんだけど」


その一言で菫の動きが止まる。


「……智恵子さん?」



玲子が思い出すように言う。


「うん、総務の人。めっちゃしっかりしてる人」


菫は静かに息を吐く。


「……本当に、全部繋がってるのね」



桜が無邪気に言う。


「おにいちゃん、すごいね!」


その言葉だけが、唯一重くない。



同じ夜。


柿沼家と柊木家。


別々の食卓。


しかしどちらも、同じ会社の名前の上で繋がっている。



まだ誰も気づいていない。


この“偶然”が、どこまで連鎖していくのかを。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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