curtain call 家族になるとき
書籍全6巻がコミックシーモア様から先行配信中。
最終巻の一般配信は10月15日となります。
おかげさまで最終巻の刊行となりました。御礼申し上げます!
あったかいな…
ドクンドクンと私を包み込む音は柔らかで、時折聞こえるボワンとした音も心地良い。
ここはとっても良い所。欠伸を一つ伸び一つ。柔らかな壁に当たるのさえも何だか嬉しい。
ここはとても幸せな場所。わたしを包み込んでくれる愛しい場所。此処は安心できる。ここではわたしは一人じゃない。
孤独じゃない。ここはわたしを絶対に傷つけない。そんな絶対的な安心感のある場所なの。
だってここは私が選んだ場所。そして彼女が望んでくれた私の居場所。
時々壁の向こう側からそっと押される。
小さな何かの時も、大きな何かの時もある。支える様に下から持ち上げられる事もある。
わたしはその度にびっくりして身体を強張らせたり、あっちいけって蹴ってみたり、ゆっくりモゾモゾ動いてみたりと忙しい。
じんわりと優しい時に包まれる。孤独じゃない。寂しくない。だってここはわたしが待ち侘びた場所だもん。
だって彼女の中だもの!
あれ?彼女って誰?孤独って何?わたしは何を思っているの?私は何を知っているの?
まぁ、いいか。わたしはこの微睡の中を揺蕩う。優しい夢を見ながら。愛しい人に包まれながら。私を待つ人を信じながら。わたしが私になる前に傷つけた、それなのに私を受け入れてくれた人の中で私は揺蕩う。
一人の女性が自身の大きくなり出したお腹に手を当てる。
愛しの我が子は今はおねむのようで大人しい。
産まれるまではもう少しかかるだろうけれど、今から待ち遠しい。
控えめなノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
そう返事をすれば小さな男の子二人が顔を出した。
「母さま、今大丈夫?」
そう不安そうに聞いてきた長男に母は笑顔を向けて頷く。
そうすれば、兄の後ろに隠れていた弟も顔をパァッと輝かせて寄ってくる。
「あっ、こらダメだぞ!母さまはまだあんまり動いちゃいけないって父さまが言ってただろ?」
勢いよく母へと飛びつこうとした弟を兄はすんでのところで止める。止められた方は勢い余ってふかふかの絨毯の上にと転んでしまった。
痛くはないのだが、驚いて少年はべそをかきはじめる。
「ウッ…アグッ…兄さまが、兄さまがァァ〜…」
それを見て兄は一瞬怯んだけれど、弟を叱責する。
「母さまに飛びつこうとしたからだろう‼︎それに、びっくりしただけで本当は痛くないだろ?
そんなに泣き虫だと母さまのお腹の中にいる赤ちゃんに笑われるぞ!」
その言葉に少年は必死になって涙を止めようと頑張る。
もう直ぐ自分はお兄ちゃんなのだ。
隣にいる兄さまのように頼れるお兄ちゃんになりたいと、涙の浮かんだ目元をゴシゴシと拭う。
「よく頑張ったな!ねぇ、母さまもそう思うでしょ?」
自分の事のように胸を張る長男も、必死でお兄さんぶろうとする次男も愛おしくて微笑ましい。
「えぇ、二人とも素敵なお兄さまだわ。母さまとっても嬉しいわ」
褒められた二人は満更でもなさそうにえへへと笑む。
それから長男がモジモジとし出した。
「どうしたの?何か言いたい事でもあるのかしら?」
吹き出してしまいそうな程の可愛らしさを堪えて母は聞く。
長男はちょっとだけ困った顔で母を見上げる。
「あのね、えっとね、母さまのお腹に触っても良いでしょうか?」
それを聞いた弟も期待に満ちた眼差しを母へと向ける。
「えぇ、勿論よ?赤ちゃんとお話ししてくれる?」
そう言って手をお腹へと当ててもう片手で手招きした。
二人は嬉しそうに顔を綻ばせて椅子に座る母の隣で膝をついた。
そして、ゆっくりと二人で母のお腹へと手を当てるが何の反応も返ってはこない。少しの期待はずれに手を離しかけたとき、ポコンと何かが動いた。
「母さま!動いた!今動いたよ!」
「うん!動いたの!ポコンって言ったよ!」
二人の顔がとても良い笑顔で輝いた。
「この子もお兄様達に挨拶したかったのね。生まれるまで待っててねっていっているのかもしれないわね」
母は優しく言えば、やはり子供達は嬉しそうだ。
「あのね、母さま、もう弟なのか、妹なのか判るの?」
「ぼくね、弟がいいな!そしたらみんなで鬼ごっこするの!」
「僕は妹がいい!でも、もう一人弟でもいい…。母さまが元気で居てくれたらどっちでもいい!どっちでも僕の大切な兄弟だもん」
子供の成長は目を見張るものがある。こんなにも大きくなってと思う反面、少しばかり心配をかけてしまっていたのだと母は反省する。
数日前に切迫早産の恐れがあるので絶対安静を言い渡されてから、子供達へのフォローアップがしっかりと出来ていなかった。
二人の子を抱きしめて母は言った。
「二人ともありがとう。母さま心配かけちゃったわね。お腹の赤ちゃんは生まれてくるまで男の子か女のかはお楽しみにしましょうね。母さまもまだ聞いていないの。でも二人にとって大事な兄弟だってことは変わらないし、皆、母さまの大切な宝物よ」
長男はその言葉に少し安堵を見せる。
次男は意味を理解しきれていないけれど、母から宝物だと言われて屈託なく笑う。
「この子が産まれたら、ぼく犬を飼いたいな!みんなでかけっこして、水遊びして、お昼寝するの!」
「いいな!ブラックドックなんてカッコいいだろ?」
「えぇ〜ぼく、ブラックドックよりスコルがいいな!だって空飛べるんでしょ⁈」
「こらこら、二人とも、それはお父様に聞いてみないといけないわ。それにブラックドッグもスコルも魔犬じゃない…そんな危ないわ。迎え入れるのならポメラニアンとかチワワなんてどう?小さくて可愛らしいと思うのだけれど?
あと、赤ちゃんが生まれてすぐじゃなくて、少し大きくなってからみんなで決めるのもいいと思うわよ?」
子供達は反対はされなかった事にまた頬を緩めた。
その夜、二人の息子の話を愛する夫へと母はした。
その話を聞いて夫も父の顔になり顔を綻ばす。
幼い頃から恋焦がれた女性とは恋人、婚約者の段階を登り、夫婦となり今は家族だ。息子達の母となった女性はあいも変わらず美しい。それでもなお自分ではなく息子とは言え他の男の話をするのは少々面白くない。
でもそんな事言えば彼女に呆れられるとその思いにそっと蓋をした。
「いいんじゃないか?だけど、やっぱりこの子が生まれてから少ししてからが良いんじゃないかい?猫や犬が原因で咳や熱の出る子も居ると聞くからね」
そう言ってそっと妻の膨らんだ腹へと手を乗せる。
数日前に産婆から産道が短いので奥様は安静にしなければならないと告げられてから正直生きた心地がしなかった。神官も切迫早産の危険性があるので出歩いてはいけないと言った。
子供の事も勿論心配だが最愛の妻の方が男は心配だった。
そんな父親の考えを見透かしたかのようにお腹の子は思いっきりその手を蹴り上げた。
「あら、この子も家族を一緒に決めたいみたいね」
「あぁ、そうみたいだね、今はまだゆっくり母さまのお腹で過ごすんだぞ〜。出てきたら母さまを独り占めに出来ないからな」
「もう、そんなこと言って!」また妻に男は呆れられる。
でもそれでも構わない。心からの本心である。
お腹の子も同意するように母の腹を蹴った。
元気に生まれてくれればそれでいい。それ以外は望むべくもない。ただただ、愛しい人との宝物が増えることが待ち遠しい。
沢山の楽しい思い出をその身に刻んであげましょう。兄たちと同じくらいの溢れんばかりの愛を与えてあげましょう。時にはしっかりと叱って導いてあげましょう。そして沢山お話もして、遊んで、時には反発も受けるのでしょう。そして子供は神様からの賜り物。いつかお返しするその命の輝きが尊く誰かの光となるようにと願い、今一度腹へと手を伸ばす。
腹の子はその想いをしっかりと感じたのか身悶えた。
愛に包まれている事に歓喜した。
しばらく後、病院のベッドの上には女の子に乳をやる母の姿があった。
赤子は柔らかな乳房に夢中にである。それを見守る母も慈愛に満ちて温かい。
「今日は初めてお兄様達と会えるのよ、楽しみね」
赤子は乳房から口を離し満足気な顔を見せる。
くすりと母が笑ったタイミングで病室の扉を叩く音がした。
これからが家族の時間だ。新たな家族の始まりの扉が開かれた。
お読みいただきありがとうございます。
佐藤です。
前書きにも載せましたが本日コミックシーモア様から最終巻となる第6巻が配信開始となりました。
今回の話は最終巻のコミックシーモア様用の特典として書いた話なのですが優柔不断な私の性格で3つ候補をあげて、差し戻されたお話となります。
他の二つは初代様のお話と、ステラの幼少期にステラへ影響を与えた人のお話でした。
どれが選ばれたのかは読んで確かめてもらえたらなと思います。
さて、本当書籍化の機会を頂き、貴重な経験と勉強をさせて頂きました。
これも本当に読んでくださった皆様のおかげで御座います。
改めて感謝申し上げます。
来月にはコミカライズも連載開始ですので引き続きお楽しみいただければ幸いです。
細々と片翼の方も執筆しておりますのでよろしくお願いします。
佐藤真白




