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【本編完結・書籍第1巻発売中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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外伝 シャリーシャの物語1〜 辺境の才人〜

ご無沙汰しています。

本日5月15日より、Kindle・auブックパス・honto・ブックライブ様等より本作の第1巻「幸せな過去と結界の乙女」が電子書籍にて発売されました。

それを記念して短期的に外伝の連載を致します。

シャーシャの物語となっております。

楽しんでいただけると幸いです。

「シャーシャ、お前が男だったら私はきっと家督をお前に譲っただろうな」


父に幼い頃から何度となく言われた言葉。

それはわたしにとっては重い足枷のようでした。



私が生まれたのは帝国の北西の外れにあるマール辺境伯領の領主家でした。私は領主夫妻の第4子、待望の長女として生を受けたのです。

我が家のあるマール辺境伯領は帝国領の中でも外れに位置し、結界の外であるために賊や敵国からの攻撃に脅かされる防衛の最前線でもありました。

更には帝国発足後に周辺の少数部族や遊牧民族が定住し、豪族として帝国領へ編入された経緯から結界内よりも多種族が混じり合い、支え合い、協力しあって辺境の地を護ってきた歴史があります。


私にも帝国貴族としては珍しく、少数部族の血が流れております。

私のシャリーシャという名は帝国内では珍しい名前だと思います。

その名をつけてくれたのは部族出身の母方の祖母でした。

名の意味は少数部族の古い言葉で「叡智ある者」なんだそうです。

帝国語だと「ぐずぐずしている」「決断できない」などの意味があるそうで、全くもって私にはぴったりな名前だと思うのです。だって私は自分のやりたい事、好きな事の道を自分で閉じてしまうくらいの小心者なんですもの。




話は逸れましたが、そんな成り立ちのこの地で最も尊ばれるのは義理と武だといわれます。


それは家門のあり方にも強く現れており、私も物心付く前から武具や軍馬に触れて育ちました。


歩くようになってからは、兄様達の後をついて回り、鍛錬場は私にとって遊び場も同然でした。

玩具で遊ぶように私は武具を振り回し、雨の日は大人達に混じり軍揮盤の駒で遊んで育ったのです。

あぁ、軍揮盤は何かをご説明しますわね。軍揮盤とは東国の将棋と西の国のチェスを掛け合わせ、更に地形条件や気象条件、特殊な配役の駒を織り交ぜたボードゲームの名です。これは実際の賊狩りを模して作戦の立案などにも使われる事もある遊戯で、私はこれが大好きでした。

幼い頃から一緒に育った馬達には鞍なし手綱なしでも乗る事が出来、長剣、短剣、双剣に、杖、棍、弓に弩級まで嗜む私は行動だけ見れば正にじゃじゃ馬娘という言葉が当て嵌まるような子供でした。だというのに性格は昔から臆病で人見知り。お祖母様には「貴女は石橋も叩いて叩いて叩き壊して渡れなくしてしまいそうな子ね」などと冗談混じりに言われる始末でした。



そんな風に育った私は物心着く頃には剣術、杖術、弓術、馬術など一通り免許皆伝の習得をして、時には大人をも打ち負かす事さえありました。もっとも、私の遊び相手として手加減をしてくれていたのだと思っていました。

その事に喜んだお父様が嬉しさの余りに社交界で吹聴して回って下さったお陰で、マールに軍神の加護の神童ありと一時噂が広まり、挑戦者が試合をしに来る事が何度もありました。武芸の腕を磨くことは好きですけれど、人と戦うのは苦手でした。同年代の子よりは少しばかり強かったためか相手にならず、何処まで手加減をすればいいのかと、本気になれない事も苦痛の種だったのです。その頃の私は強者揃いのマール辺境伯領でも対等に戦える同年代は両の手で数えるより少し少ない程度でしたもの…。

お兄様や従兄弟の数人以外とは初見で許可なく手合わせをする事すら禁じられていました。

外から手合わせを願われても先ずは叔父様やお兄様が手合わせをして、許可がおりた方とだけ剣を交える事がありました。

もっとも、私を心配したお父様が私と試合する人には力を抑える魔道具の腕輪をさせていたので私は勝てたのだと思いますけれど。

私はそうやってくる人達が怖くて必死になって試合をしました。私に勝っても負けても何一つ得など無いのに何故私を指名するのかと内心で泣顔でしたが、父から「お相手をして差し上げなさい」と笑顔を向けられ、仕方なく試合をしていたのです。

後にお父様は私が試合を楽しんでいると誤解していた事が分かった時には力がぬけましたけれどね。

そして、まさか腕試しの人の中に帝国の高位貴族の御令息が居て、何度も打ち負かして居たなどとはその時は露程にも思っておりませんでした。更にはその方から求婚されるなんて思っても見なかったのですけれど…。

家で教わる武術や戦術の中でも軍揮盤には熱中して取り組み、10歳を越える頃には領地で私に敵う者がない程に腕をあげました。


しかし、その才覚はお父様の目には勿体無く映ったようです。

何度も「お前が男だったなら…」そう口にされていたのですもの。


私の才覚にお父様が興味と落胆を示したのは私が7歳の時の事でした。

その年は冬の雪が少なく、春先の雪解け水も例年の三分の一程でした。その割に初夏の陽気は暑く続いていました。

私は今までの軍揮盤の戦略傾向から嫌な結論に辿り着きお父様へと進言したのです。


「お父さま、多分マールよりも下流の領地では今年水不足で日照りが起きます。昨年の冬からの雪不足で動物達の眠りも浅かったので獣害も増えます。

なので、賊が増えるかもしれません」


子供の言う事など戯言と一蹴されるかとも思いましたが、お父様はしっかりと耳を傾けて下さいました。


「落ちるとしたら何処の領地だと思う?」

私は悩みつつもお父様が出した辺境領の地図のいつくかの場所を指差しました。


「こことここは溜池がありません。湧水の出る水源は近くに無いので川が干あがれば落ちます。こちらは川の手前で領地が変わるので日照りが続けば農民が離れます」


その条件は軍揮盤の上級模擬戦でも行われる極めて稀な物ですが、条件が揃いすぎていました。

生活が出来なくなった農民の向かう先は身売りで奴隷になるか賊になるかが大半なのです。そして他人から奪い取る方が遥かに楽だと思う短絡的な考えを起こす者の多さは歴史が物語っております。

そして無知なる民を煽動してこの地を狙う者がいてもおかしくはないのです。


お父様も思うところがあったのかその年、私が指摘した2つの領への支援と賊に対する警戒が行われました。

幸にも片方の領は話を聞き入れて、共に対策を取って下さいました。

もう片方の領地は支援は受けても対策は何も行わなかった為に多くの民が流民となったのです。そして一部はやはり賊となり私達のマール領までやって来たのです。


私も領主一族の者として初めてこの時に初陣致しました。

出陣と言っても領土の境の砦へと派遣されたに過ぎないはずでした。ですが私には何故か確信がありました。この砦が攻防の最前線になると…。

それはお父様にも進言しましたが、「それならばお前が守って見せよ。万が一にもそこに賊が行くとは思えんからな」とおっしゃったのです。


ですが私の見立てでは敵賊はこの砦を目指すと思ったのです。

他の砦よりも簡易的な砦の形状、そしてマール領地と他三領が隣接する四領境という特殊な立地、更にはこの時期例年通過するキャラバンの宿営地としての実績は、私が敵方ならば少し無理をしてでも攻めるべきだと考えます。

今年はキャラバンの行路を先に変更させていたのでその心配はないとお父様は読んだようですが、その情報が賊側に、回っていない可能性の方が高いと私は読んだのです。



そして案の定、宵闇に紛れて敵襲がありました。

最初の3日は防御に徹し、此方に戦力が無いかのように装いつつ別動隊を回り込ませました。そこから敵の野営地の索敵や行動監視、他国や他領からの接触を確認して殲滅戦を行いました。

私も前線に出るべきかとは思ったのですが、流石にと大人達に止められました。

私が行えたのは作戦の立案と統率、砦内へ入り込んだ間者の炙り出しと取り押さえくらいしかありませんでした。



それでも父は立派な武功だと言って誉めて下さいました。

そしてその後あの父の落胆混じりの言葉を何度となく聞いたのです。


我が家には立派な跡取りである大兄様がいらっしゃいます。剣術の腕も馬術の腕もたち、すでに小隊を任せられている大兄様を差し置いて等とは私は考えた事すらありませんでした。


それに今は何とか訓練に参加させてもらっていますがその内にそれも出来なくなる事は何となく察していました。

私は女です。男に比べれば柔らかく力の無い身体です。どんなに鍛えても力で男には敵わないと理解し、技術でそれを補おうと努力はしておりましたが、終わりが近い事も理解していました。もう子供という油断を誘う要因も身長の低さというアドバンテージも失われつつあります。


帝国で軍職に就けるのは殆どが男性です。女性も軍職に就く事は出来ますが数も少なく、その大半は最も高貴なる貴婦人の護衛以外の任務は与えられないのです。


女は家庭を守る者。男は家族を守る者。その考え方が染み付いた地に、私はこのまま好きな事をする事は出来ないのだと静かに諭され、自分の夢と可能性に蓋をそっと閉めたのは10歳の秋の事でした。



本当は軍職を目指そうかとも思ったのですが、私の家は辺境伯家。

結界内の帝国貴族家からも一目置かれる高位貴族です。


こんな辺境の地の私にも釣書は届いていましたし、熱心に手紙を送って下さる方もいらっしゃいました。私は家庭に入って婚家を支えねばならない立場です。軍職に就いて出世しても皇城の最奥で1日を過ごす日々になる事でしょう。私は自分の出来る事で国をお守りしたかった。結界の無い辺境の地で生きてきたからこそ、この地を守ることに誇りと矜持があったのです。ですが、結界内の貴族にそのような思想をもつものは殆どいないと母から聞いた時の私の絶望など誰が想像出来たでしょうか?


12歳からは帝都の学園へと進学も予定されていたので、この辺りが引き際だと感じ、自分から武具を置きました。


ですが、今まで父や兄弟、叔父達と共に鍛錬しかしてこなかった私が本当に貴族令嬢としてやって行けるのか、大きな不安がこの時の私にはあったのです。

それは私が勉強と環境へ慣れるためにと早くに帝都のタウンハウスへと移ってから顕著なものへと変わって行きました。


帝都での新たな鍛錬と戦いの日々が始まったのです。


改めまして、大変ご無沙汰しております。

佐藤真白です。


シャリーシャの物語を書かせていただきました。

これから週一の不定期投稿で3〜4話の予定です。

カーテンコールというより外伝かなといった内容ですのでこの形で投稿致します^ ^


作中で出てくる軍揮盤は大将棋(15×15の盤で各駒65枚前後の超大型ボードゲーム)に地理的条件(複数の盤で高低差や水場有りなど)や気象条件(試合前に引いたカードによって豊作、暖冬、日照りや疫病、蝗害など)を其々踏まえて兵糧や駒などが制限されるゲームとして考えたオリジナルのものです。名前的に長期休載でも大人気の漫画家先生の作品のゲーム名と近いですが、あれよりも大きな軍事演習用ゲームと思ってもらえたらなと思います。

ファンタジーなので魔法の駒もあるかもしれないですね!



シャーシャは何故最後軍人になっていたのかが明かされる外伝となっております。

ちょっと違った物語ですがお楽しみ頂ければ幸いです。



また、電子書籍の方も発売中です。もし読まれた方がいらっしゃれば感想などもお聞かせ願えれば嬉しいです!


書籍の方は最終巻まで書き終えて一段落で一息ついているところです。一部の人物の最後がなろうとはちょっと違ったものになる予定です。

長々とあとがきを書いておりますが読者の皆様がいらっしゃる事で創作の活力になっております。

その感謝を込めて、いつもありがとう御座います!

これからもよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
投稿ありがとうございます。 スピカの生涯が桁外れすぎるせいで忘れてしまいがちですが、スピカが親しくしていた人たちも並外れた人物が多かったのでしたね^^; シャーシャが懐かしくて読み返していたらつい全…
 盤上遊戯なら『軍議『版』』ではなく『軍議『盤』』ではないかと。
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