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特別依頼

 灼熱ノ渓谷を踏破し、宿に戻ってゆっくり休んだ翌日。報告がてら魔石を売りにギルドへ赴くと受付嬢から特別依頼を課せられた。


「えっと……つまり異変が起きたダンジョンをクリアしてきてほしいってことか?」

「はい。ダンジョンに異変が起きると英雄が現れるとも言いますが……本当に現れるかどうか分からない英雄を待ってはいられないというのが本音です。異変が起こると難易度が上がってしまう他、街にも影響が出てしまいますから……」


 俺達じゃなくても、他の腕が立つ冒険者に依頼すればいいんじゃないか? って思ったけど、どうもそう簡単にはいかないらしい。


「腕の立つ冒険者はほとんどが忘却ノ迷宮に熱を入れています。呼び出して依頼するとなると、高額の報酬金を出さなければ引き受けてもらえないのです。かといって忘却ノ迷宮への挑戦資格を持たない冒険者は……異変が起きたダンジョンをクリアできる保証もありませんから」

「そこで資格無しかつ異変ダンジョン踏破の実績を生んだ俺達にってことか」

「異変が起きたダンジョンは踏破してしまえば元に戻るようですので。勿論、相応の報酬はお出ししますし、加えてランクの昇格もお約束いたしますよ」


 ランクの昇格か……それを出されると受けないわけにはいかないな。でも異変が起きたダンジョンってかなり危険だったし、みんなの意見も聞いておくか。


「だそうだけど、どうする? 俺は受けた方がいいんじゃないかと思ってる」

「アタシは……」


 俯いて言葉をとめたリーファは、こくりと頷くと真っ直ぐに俺を見つめる。


「賛成する。きっとこれが近道だもんね!」

「そうですね、危ない場面は幾度とありましたが……それをなんとかするのがわたくし達でしょう」

「オイラは……ううん、うーん……うん、賛成だ」


 少し迷った様子のケイトも頷いた。残るはレイスだ。彼の返事を待っていると、ため息と共に返された。


「お前達がそう決めたのならそれでいい。私はついていくだけだ」

「よし、じゃあ決まりだな。その依頼、受けるよ」

「ありがとうございます。違約金および期限はありませんが、諦める場合や長期間挑む予定がない場合などは必ずご連絡くださいね」


 頷いた俺の背中に拍手が送られる。振り向けば、ギルド内にいた獣人の冒険者達が手を叩いていた。


「おかしくなったダンジョンを攻略したんだって? やるじゃないか。さすが獣王国を守った英雄だ」

「頑張れよ、エルフの兄ちゃん」

「ネズミの嬢ちゃんもな」


 なんだか照れ臭いな。頬を掻くと、自然と口角が上がった。


「ありがとな。頑張ってくるよ」


 手を振ってギルドを出る。さあ、次はピュルテ皇国にある心境ノ鏡館だな。

 あ、でもその前にリーファの靴を買い替えないと。ちゃんと冒険者仕様の靴がいいよな。防具屋を探そう。

 ダンジョン街というだけあって目的の店はすぐに見つかった。元々のブーツに似た物を探す。


「お、これがピッタリそうだな。これにするか?」


 サイズもピッタリだし、動きやすそうだ。試着したリーファは笑顔で頷く。


「うんっ!」


 会計を済ませ、店を出る。あとは矢と食材を買ったら充分だな。

 パパッと買い物をした俺達はそのまま街を出た。


「そうだ、また中央街を通るわけだしさ。小鼠の食卓に寄るか?」


 ケイトの実家、小鼠の食卓。ケイトの姉の件以来一度も行っていないからな。いい考えだと思ったが、ケイトは首を振った。


「オイラ、旅が終わるまで帰らないって言っちまったんだ」

「ケイトって結構思い切りがいいよな……でも寂しくないか?」

「オイラは大丈夫。みんながいるからな。それに義兄ちゃんがいるから母ちゃんも寂しくないぞ」

「えっ、兄もいたのか?」


 姉がいるのは知ってたけど、まさか兄もいたなんて。ってことは、ケイトは三人きょうだいだったのか。


「血は繋がってないぞ。あのな、姉ちゃんの婚約者だったんだって」

「婚約者……」

「オイラ、ずっと姉ちゃんの親友だって思ってたんだ。まさか婚約してたなんて思わなかったぞ」


 その人は婚約相手の死を知ってどう思ったんだろう。きっと平常心じゃいられないだろうな。


「少し話してきたんだ。お互い一目惚れだったんだって。今も姉ちゃんのことしか考えられないって。だからな、結婚式したらしいぞ」

「結婚式? でも、もうケイトちゃんのお姉ちゃんは……」

「姉ちゃんが持ってたぬいぐるみとな、小さな結婚式したんだって。母ちゃんが神父さまの役してな……だから、もう家族なんだって義兄ちゃんは言ってた。本当はオイラがいる時にしたかったらしいけど、オイラがいつ帰るか分からないからって」


 そんなに相手のことが好きだったのか。尚更……つらかっただろうな。苦しかっただろう。それでも寄り添うって決めたのか。


「……そっか。家族が増えたんだな」

「うん」

「どんな人なんだ?」

「すごくマイペースだけど優しい人だぞ。白い髪と肌でな、目は黄色くてな、スラっとしてんだ。料理苦手みたいだけど、母ちゃんに教えてもらって特訓中なんだって」

「へえ。獣人?」

「おう。猫のな」


 猫……猫!?

 思わず驚いてしまった。猫とネズミって、元の動物を考えると天敵のイメージだけど……やっぱり獣人となるとその辺りも変わってくるのかな。


「ね、ケイトちゃん」

「ん?」

「旅が終わったら、みんなで食べにいこうね。きっとその頃には、ケイトちゃんのお義兄ちゃんも料理上手になってるよ!」

「へへっ、そうだな」


 ふにゃりと笑ったケイトは、リーファと一緒にくすくすと笑った。しかしまあ……もしキッチンがケイト達の身長に合わせたサイズだとしたら、猫の獣人が料理を作るのは大変そうだな。腰を痛めそうだ。

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