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RE:灼熱ノ渓谷

 それから暫く歩いた俺達は、度々罠や魔物に阻まれながらもなんとか次の階層への階段を見つけた。


「これ、耐熱薬飲んでおいた方がいいと思う?」

「う〜ん……多分?」

「前来た時は暑かっただろ。きっともっと暑くなってると思うぞ」

「多数決取るか〜。耐熱薬飲んだ方がいいと思う人〜」


 全員が速やかに手を挙げた。考える余地もない結果だな。


「よし、決まりだ。じゃあ一人一本な」


 蓋を開けると、ミントを濃〜く凝縮した香りがする。う、この匂いだけであの味が蘇ってきそうだ。

 目をつぶって鼻をつまみ、一気に飲む。


「う゛っ……」


 まずい。ただひたすらにまずい。ドロっと舌にまとわりついてくるのが余計にキツい。でも、これがないと死にそうだしな。仕方ない。

 みんなを見ると……撃沈していた。リーファもケイトもオリヴィエもレイスですら、口を押さえて震えている。分かる、分かるよ。キツいよな。ケイトは慣れているのか、比較的平気そうだけど。


「……行きましょう」


 明らかに顔色が悪いオリヴィエが呟いた。そんな死地へ赴くような顔するんじゃないよ。

 階段を降りると、まるで違う光景が広がっていた。壁のあちこちから溶岩が流れ出ていて、道の所々が侵食されている。うっかり足を滑らせようものなら……うん、気をつけよう。


「足元気をつけろよ」

「うんっ」


 できるだけ溶岩溜まりに近づかないようにして進む。すると、溶岩溜まりの中からあの岩で覆われた触手つきの魔物が姿を現した。その口はケイトへ向いている。


「危ないっ!!」


 咄嗟にケイトを抱き上げ、後ろに下がった。放たれた岩が壁に当たって砕ける。


「あ、ありがとな、エスカ。もう、なんでオイラばっかり狙うんだよう! しかもあんな場所にいるし、あれじゃあ岩を剥がしに行けないぞ!」


 ぷんぷんと怒るケイトの横でレイスが杖を構えた。


「やっちゃえ、レイスー!!」

「要するに足場を固めればいいのだろう? 容易いことだ」


 杖を振ると、魔物の周囲にある溶岩が黒く固まり始めた。どうなってるんだ?


「これなら行けるぞ!」


 ケイトが意気揚々と魔物へと駆けて行く。魔物は逃げようとするが、周りを固められているせいか動けないらしい。それを眺めながらレイスに問いかけてみた。


「なあ、あれどうやったんだ?」

「魔物の周囲の温度を下げた。思っていたよりも魔力を喰われたがな」

「大丈夫なのか?」

「問題ない。何度も出てこられると困るが」


 ケイトが岩を剥がしてあらわになった柔らかい体に矢を放つ。三本放ったところで魔物は光の粒子になって消えていった。


「毎回こうやって倒すのは無理だろうし、極力さっさと通り過ぎたほうが良さそうだな……」


 振り返ると、リーファの足元に伸びる何かが見えた。


「リーファ、足元!!」

「えっ!?」


 リーファが足元を見ると同時に、赤いそれがリーファの脚に巻き付く。ブーツはジュウウと音を立てて溶けた。杖が落ちて音を立てる。


「あ゛あぁぁっ!! あ、熱いッ熱いよぉッ!!」

「リーファ!!」


 悲痛な叫びが耳を刺す。溶岩溜まりの中から姿を現したスライムのような何かに向けて矢を放った。どうやら一発で核を貫いたらしくスライムは形を失うが、リーファの脚にはべっとりと溶岩のような見た目の液体が付着していて、今も煙をあげながらリーファの肌を焼いていた。


「助けてッ助けッあ、あ゛ぁっ!!」

「動くな」


 液体へと手を伸ばすリーファの腕を掴んだレイスは、杖を振った。脚にへばりついていた液体が黒く変色していく。


「う、うう……痛い……冷たい……」

「……充分冷えたか。痛むだろうが、耐えろ」


 ぎゅっと手を握るリーファの目からとめどなく涙があふれている。レイスは黒い岩へと変貌したそれに手をかける。引っ張ろうとしていたが、舌打ちをすると俺を見た。


「エスカ、これを剥がせ」

「あ、ああ。リーファ、ごめんな……ッ」


 黒い岩に手をかける。うわ、がっちりくっついて取れそうにない。力を込めると、バリッと岩がわずかに剥がれた。


「う゛ぅぁあああっ!!」


 あまりにも苦しそうな声に手を止めかける。レイスが顎をくっと動かした。やれってことだよな、分かってるよ。


「オリヴィエ、彼女の体を押さえろ」

「は、はいっ」


 オリヴィエがリーファの体を押さえ込む。リーファは息を荒げ、苦しそうに首を振っていた。

 叫びを聞きながらも岩を剥がす。全部剥がし終えた時には、彼女の脚は見るに耐えないものになっていた。


「……取れた。オリヴィエ、回復できそう?」

「はいっ!」


 岩を剥がす時に肉ごと持っていかれたんだろう。ところどころ抉れている傷口にオリヴィエが魔法をかける。段々と傷口が塞がり、やがて跡さえ見えなくなった。レイスは紐を取り出すと俺に手渡した。


「ブーツに巻きつけて脚に固定するんだ」

「おお……わかった」


 一部が溶けたブーツに巻きつけ、固定する。ちょっとキツめの方がいいか?


「よし、これなら動けそうだな。リーファ、痛みの方はどうだ?」


 肩で息をしている彼女は、鼻をすんっと鳴らしながら首を横に振った。良かった、もう痛くないみたいだ。


「……ならば進むとしよう。あまりここに長居しても良いことは起こりそうにない」


 リーファは目元を袖で拭い、こくりと頷いた。そっと彼女の背に手を置く。


「大丈夫か?」

「うん……治してくれたから。だいじょうぶ」


 震える彼女の背を撫でながらレイスの後ろに続いた。

 前に来た時より随分と殺意が高いな。あちこちにある溶岩溜まりの全てに魔物が潜んでいるかもしれないと思うと気が滅入りそうだ。


「レイス、リーファは治ったけどまだ大変そうだぞ。休んだ方がいいんじゃないか?」

「なら来た道を戻るか? またここまで来る必要がある。それともここで休むのか? どこから敵が来るかも分からないこんな場所で」

「うっ、それは……そうだけど……」

「……彼女のことを思うなら、少しでも早く攻略して外へ出ることだ」


 彼が少し早足なのは、早くリーファを休ませてやりたいという表れなのだろう。

 彼女のためにも頑張らないとな。ぐっと拳を握りしめた。

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