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巣の主

 巣から逃げ出そうとするゴブリン達を前に、弓を構える。構えたのはいいけど……いや、この数は異常じゃないか!?

 数匹を撃ち抜いたものの、奥から次々と湧いて出てくる。他の冒険者達は困惑しながらもゴブリンを仕留めていた。

 こんなに討ち漏らすなんて、高ランクの冒険者達は何をしてるんだ? それとも何かトラブルでもあったのか? そう疑問に思う暇もないほどの物量で攻められる。

 近接戦闘をメインにする冒険者達は手を出せずにいる。あんな中に飛び込んだら、切り掛かる前に踏み倒されそうだ。


「なんだ……? なんか妙だぞ」


 下がりながら矢を放つ。ゴブリン達は倒れた仲間を気に留めず踏みつけてこちらへ進み続けている。

 ああ、そうか。違和感の正体が分かった。

 ヤツら、こっちを全く気にしていないんだ。

 ゴブリン達は俺達のことなど眼中にないとばかりに、ひたすら前に進み続ける。まるで何かから逃げようとしているかのように。


「おい、あれ!」

「なんで……」


 冒険者達のざわめきが一層大きくなる。巣の奥、深い暗闇の中。地響きのような足音と共に、洞窟の入り口を埋め尽くさんばかりの巨体が姿を現した。冒険者の一人がわなわなと唇を震わせる。


「なんで……ゴブリンの巣にオーガがいるんだよ……!」


 オーガ? 村にいた元冒険者から話は聞いたことがある。森の強者で、腕利きの冒険者がパーティを組んでようやく倒せるレベルだって。

 赤い肌に刺青のような模様が入ったオーガは、随分とイラついた様子だ。フシュウウと息を吐き出し、金棒を肩に乗せる。ゴブリン達はアイツから逃げていたのか。

 二本生えた角といい、とても強そうだ。まさかギルド長達はコイツに負けたのか……? いや、そんなことは。


「お前ら、逃げろ!!」


 洞窟の奥からギルド長の声が聞こえる。よくよく目を凝らしてみれば、何人かの冒険者を連れたギルド長がオーガを追っていた。

 冒険者達は散り散りに逃げ始める。同じようにゴブリンもバラバラに逃げ出し、何が何だか分からなくなりそうだ。

 オーガ……オーガ、か。きっと俺もいつか相手にする魔物だ。なら、ここで一つ挑戦しておきたい。

 深く息を吸い込み、吐き出す。狙うは目玉。最も柔らかい部位。


「おい、無茶をするな!」


 声が聞こえる。でも、もう後には引けない。地面を揺らしながら近づいてくるオーガの目を狙い、矢を放つ。

 飛んでいった矢は目元に突き刺さることはなく、弾かれた。少し狙いが外れたらこれか。どれだけ分厚いんだよ、あいつの皮膚は。

 攻撃されたことに機嫌を損ねたオーガは、雄叫びをあげてこちらへ足を進めた。その動きは緩やかにも見えるが、一歩一歩が大きい分、すぐに距離を詰められる。

 後ろに下がりながらもう一発。今度は狙い通り目を射抜いた。


「ガァァアアアアアアアッ!!」


 叫び声が耳をつんざく。オーガは目に矢が突き刺さったまま、金棒を振り下ろした。


「うおっ」


 矢を構えてる場合じゃない。地面を転がって金棒を避ける。オーガがもう一度金棒を持ち上げようとしたところで、矢を放った。


「くそっ、やっぱり弾かれるか」


 胸に当たった矢は突き刺さることなく地面に落ちる。

 だが、ここで諦めてはいられない。更に一発、今度も目を狙うべきだ。そう思って弓を引いたとき、薙ぎ払うように金棒が迫った。


「やばっ……!!」


 すんでのところで金棒を避けた。よろけた体を立て直して、一度距離をとる。


「逃げろって言ってんだろうが!! おい、お前ら加勢するぞ!!」

「ギルド長、無茶だって!! さっきも歯が立たなかったじゃないか!!」

「そりゃお前らの連携がなってないからだ!」

「仕方ないだろ俺達パーティでも何でもないんだぞ!! くそ、こうなったら俺が直接――」


 何やら揉めてるみたいだけど、今はそんな場合じゃないだろ。

 矢をつがえたところで、大きな影が覆い被さった。

 振り上げたオーガの腕が見える。


 まずい。このままじゃ、死――


 世界がゆっくりに見える。迫る金棒についたトゲの一つ一つまで鮮明に。

 体が熱くなる。その熱は腕を伝い、矢へと注ぎ込まれた。引き絞った弦を離す。鋭いラインを描いた矢は、オーガの胸に深く突き刺さる。


「ウガッ……ァ……」


 どさり。重たい音と共に地面が揺れる。ドシンと落ちた金棒が地面を凹ませた。


「……勝った?」


 目の前に倒れた巨体を見下ろす。俺がやったのか? 今の矢は一体……?

 俺が現状を把握する前に、ギルド長が近づいてきた。


「お前さん、思った以上にやるな。これなら連れて行っておけばよかったか……?」

「……ギルド長」

「何はともあれ、大手柄だ。流石にこの一件だけでランクを上げさせるわけにはいかねえが、お前さんなら近い内に上がるだろうよ」


 がははと笑ったギルド長は、冒険者達に号令をかけた。


「お前らは散ったゴブリン共の討伐だ。俺は負傷者を見てくる。俺が笛を鳴らすまでに一匹でも多くやれよ」


 それだけ言うと、ギルド長は巣の中へと入っていく。オーガと先に戦った冒険者でもいたのだろう。負傷者……ということは死人は出ていないのだろうか?

 とにかく、言われたとおりゴブリンの討伐を優先しよう。あれだけの数が逃げ出したんだ、そこかしこに潜んでいるだろうからな。

 まだまだ矢も残ってるし、やれるだけやってみるか。

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