取り戻した平穏
子供達を抱きしめて泣きじゃくるオリヴィエを見守る。こんなに泣いているところなんて、初めて見た。それだけ心配だったんだろう。それだけ、安心したんだろう。
キッチンから顔を覗かせたケイトは、オリヴィエを見てギョッとした。
「オリヴィエ起きたか? えっ、泣いてる……!?」
「ケイト、そっとしておいてやってくれ」
「あ、ああ、分かった。そうだ、料理が出来たから並べておくぞ。落ち着いたら食べてくれ」
テーブルの上には茶色い豆のスープとパン、薄めにスライスして焼かれた肉が並べられている。食べやすそうなメニューだな。
テーブルについたみんなは各々好きに食べ始めた。
あ、ちなみにレイスは戻ってきている。町の中に残っている魔物はいなかったそうだ。
「うん、美味いな」
「おいし〜!!」
みんな美味しそうに食べる中、一口スープを口に含んだオリヴィエの手が止まった。それに気づいたケイトが、少し慌てた様子で声をかける。
「オ、オリヴィエ? どうした? 何かあったか?」
「……味が」
ぽつりと呟いたオリヴィエは、呆然とスープを見つめた。
「味が、します」
ケイトとリーファ、そしてレイスと目が合う。みんな少しぽかんとしていて、じわじわと笑顔になった。
「本当!? オリヴィエさん、味が分かるようになったの!?」
「は、はい。あれ? わたくし、皆さんに言ってましたか?」
「あー、実は俺がタンドレーから聞いてさ、みんなに話してたんだ」
ごめんと謝ると、オリヴィエは「いえ、大丈夫です。少し驚いただけで」と呟いた。よっぽど驚いたのだろう。どこか心ここに在らずといった様子だった。
「よかった、これからはもっとたくさん美味しいものが食べられるよ!」
「ちゃんと味のする豆のスープはどうだ?」
「おいしい、です。とても……とても、おいしい……ッ」
ぽろぽろと涙が溢れだす。雫を拭った彼女は、泣きながらも笑っていた。
「なんだかわたくし、泣いてばかりですね……ふふ」
「泣けるようになったのも良いことだよ。なあ、みんな」
「そうだぞ! だから思う存分泣けばいいんだ」
「よかったあ……! オリヴィエさんの心、たくさん動くようになったんだね」
わいわいと賑やかな中で食事が進む。タンドレーもまた、涙を滲ませていた。
「よかったですね、オリヴィエ。本当に……良かった」
メガネを外し、雫を拭き取ってメガネを掛け直す。微笑んだ彼はとても安心した顔をしていた。
「皆さん、オリヴィエを……そして僕達を助けてくれて、本当にありがとうございました」
タンドレーは深く頭を下げた。俺達は笑って「顔をあげてください」と彼に伝える。
「なんと言っても、大切な仲間の家族だから。助けないわけにはいかない、だろ?」
「そうそう! 大切な仲間の大切なひとは、アタシ達にとっても大切なひとだもん!」
「オイラ達にできることなら手伝うぜ」
「……焼けていた家々は粗方消火しておいたが、瓦礫の撤去などやることは多いだろうからな」
タンドレーはくしゃりと笑うと「本当に優しい方々だ」と呟いた。
それからは早いものだった。この町の長だという人がテキパキと復興の指示を出していく。俺達は主に瓦礫の撤去などの力仕事を手伝った。
どうやら各ギルドや町長の屋敷には連絡用の魔道具があるらしく、他の町々へ支援の申請をして少しずつ復興していく予定だそうだ。
「ふう、今日はこれくらいだな」
数日も経てば作業にも慣れてくる。綺麗になってきた町を眺め、一息ついた。
あと一週間もしない内に町は片付くことだろう。そしたら建物の再建が始まるんだろうな。
ちなみに、今回の功績が認められて俺達のランクがCに上がった。これであと一つランクを上げれば忘却ノ迷宮に挑戦できる。
さあ、そろそろ孤児院に戻ろう。みんなはもう戻ってるかな? 今日の食事はなんだろう。
孤児院に戻ると、何やらみんながリビングに集まって話し合っていた。タンドレーもいるな。いったい何だ?
「みんな、真剣に話し合ってどうしたんだ?」
「あ、エスカくん。あのね、ギルドの通信網で分かったことがあるらしくて……えっと、その」
「僕が話しますよ。エスカさん、どうぞお座りください」
タンドレーに言われるまま席につく。楽しい話ではなさそうだな。復興について何か問題でも起きたか?
「これは他言しないでいただきたいのですが……この町に押し寄せた魔物は全て忘却ノ迷宮から出てきた魔物達らしいのです」
「えっ、忘却ノ迷宮から?」
タンドレーは重々しく頷いて続ける。
「はい。デフィールに集まっていた冒険者達で対応しようとはしたらしいのですが、何分突然のことで相当量の魔物が街の外へ流れ出たらしく……ここプリューム以外にも押し寄せていたそうです」
思ったより大変なことになってたんだな。他の町は大丈夫だったんだろうか?
「皇都の方にも魔物が向かっていたようですが、そちらは問題なく対処されたようです。しかし、どうやらアマルガ王国の方にも向かっていったようで」
「ええっ、アマルガ王国にも?」
「はい。むしろ大部分がそちらに向かったそうですよ」
それは……大丈夫なんだろうか。急に大量の魔物が押し寄せてくるなんて。
「ただ一つ気になるのは、王都を無視して南下していったという報告でして」
「南下? 王都じゃなく、その先に向かうなんて一体……」
ふと、気付く。王都の南には何がある?
いやまさか、そんなはずない。だって襲う理由がないじゃないか。
王都より南。そこにあるものといえば。
俺の故郷……トーガ村だ。




