お絵描き大会
結局、例の『オリヴィエの感情を呼び覚ます方法』は翌日に持ち越されることになった。暗い夜よりも明るい朝の方がいいからな。
そんなわけで今、俺達はみんなで絵を描いている。美しい景色を見て、絵に表すのもいい経験になると思ったんだ。サーカス跡地で弔った時につかったクレヨンと紙が残っていたからな。もちろん、空想のものを描いてもいい。
「よしっ、描けた!」
寒い中でも懸命に咲いている花を描いてみた。小さく儚い青色の花だ。我ながら上出来だと思う。
さて、みんなはできたかな?
「みんな〜、描けたか〜?」
「うんっ、丁度描き終わったところだよ!」
「オイラも!」
「わたくしも描けました」
レイスの返事がない。見れば、真剣な眼差しで手を動かしていた。最初は断られたけど、何度か誘ったら乗ってくれたんだよな。思ったよりしっかりやってくれてるみたいだ。
「レイスが描き終わるまで待ってようか」
「オイラ、お茶いれておくぜ。あったかいお茶が飲みたくなってきた」
「あっ、アタシも!」
二人は焚き火の方に向かって、お湯を沸かし始めた。俺も火にあたってこようかな。コート着てるのに寒いや。
みんなでお茶を飲んでいるとレイスが戻ってきた。
「おかえり、レイス。ほい、あったか〜いお茶だぞ」
「……ああ」
お茶を受け取ったレイスは丸太に腰掛けて一口飲む。一息ついたところで発表会だ。
「まずは俺から。わりと上手く描けたと思うんだけど、どうだ?」
青い花の絵を見せると、わりと良い反応が返ってきた。リーファとケイト、それからオリヴィエは拍手までしてくれている。
「エスカくん、絵が上手だね!」
「またエスカの絵を見れて嬉しいぞ!」
「お上手ですね、エスカさん」
「……それなりに素質があるな」
「へへっ、なんだか照れるな。ありがとう、みんな」
小さく咳払いして、次はリーファだ。いったい何を描いたんだろう? そう思っていると、リーファはケイトと顔を見合わせ、一緒に絵を見せた。
「じゃーんっ! アタシとケイトちゃんで一緒に描いたよ!」
「みんなの絵だ! どうだ、超大作だろ?」
二人とも自信満々だ。並べられた紙には俺達全員の姿が描かれていた。少し崩れていて、でも特徴が捉えてある良い絵だ。全員笑顔なのもいいな。
「やるじゃないか!」
「素敵な絵ですね、ふふ」
「……悪くはないと思うが」
次はオリヴィエだ。彼女は何を描いたのだろう?
「皆さん素晴らしい作品を描いていて……わたくしの絵は見劣りしてしまいそうです」
彼女は控えめに絵を見せた。そこには一組の男女と青い鳥が描かれている。あ、これって。
「オリヴィエさん、これって昨日の絵本?」
「はい。とてもいいお話だったので、つい」
「すっごく素敵だね! アタシ、この絵好きだよ!」
「きゃっ……もう、急に抱きついては危ないですよ。リーファさんったら」
リーファがオリヴィエに抱きつく。オリヴィエは少し困ったような、それでいて優しい笑顔で赤い髪をすくように撫でた。
昨日の一件で二人の仲が縮まったのかな? うんうん、良いことだ。
じっと絵を見つめていたケイトが首を傾げる。
「絵本? ああ、昨日一緒に読んでたアレか! いいな、みんな幸せそうだぞ」
「……絵のことはよく分からないが、良い色使いなんじゃないか」
さて、最後はレイスだ。一番長く時間をかけていたけど、さてさて。
「私は木々を描いていた。面白みも何もない風景画だが……」
「……えっ」
思わず絵を凝視する。えっ……上手くね? 上手い。間違いなく俺達の中で一番上手いぞ、これ。
細かい部分まで丁寧に描き込まれたそれは、影もしっかりつけられていて、まるで風景をそのまま切り取ったみたいだ。それに、すごく線が綺麗。
みんな言葉を失っているのを見て、レイスは眉をひそめた。
「……何か間違えていたか?」
「いや、その……すごく上手いなって見惚れてたっていうか……」
「レイスさんすっごいね!?」
「びっくりしたぞ!!」
「レイスさんにこのような特技があったとは驚きです」
口々に褒める俺達を前に、レイスは絵を見下ろす。
「特技と言うほどのことではないと思うが……見たものをそのまま写すだけだからな」
「だけって……いやいや、すごいよ。すごく精密じゃないか」
「スクロールを作る時と同じ要領で描いただけだ。寸分違わず線を引かなければ効果を発揮できないからな」
は〜、なるほど。レイスは見て写すのが得意なのか。すごいなあ。
……うん? ってことは、それだけ線を引くのが上手くないとスクロールって作れないのか? 俺、教えてもらったとして作れるようになるのかなあ。
「絵を描くのって楽しいね!」
「みんなの絵、宝物にするぞ」
「次機会があれば、わたくしも皆さんの絵を描いてみましょうか」
わいわいと話しながらみんなが描いた絵をまとめ、ケイトの収納鞄に納める。良い思い出になったな。
オリヴィエも、なんだか前よりも自然な笑顔になってきた気がするし。ケイトの思いやりたっぷりの料理に、リーファの優しい読み聞かせ、そして俺のお絵描き。全てがオリヴィエに良い影響を与えているみたいでよかった。
このまま続けていけば……きっとオリヴィエの固まった心も柔らかくなることだろう。
空を見上げれば太陽が真上に昇っていた。もう昼か。
「よしっ、じゃあ食事にしよう。食べたら出発だ」
あ、そうだ。みんなで料理するのも良いんじゃないか? ふと思いついて、みんなに提案してみる。
「そうだね、みんなで作るの楽しいと思う! でもアタシ、料理ってほとんどしたことないんだ。大丈夫かな……」
「大丈夫だ、オイラが教えるから安心してくれ!」
ドンッと胸を叩いたケイトに、リーファが顔を綻ばせる。オリヴィエは少し腕まくりをしていた。
「わたくし、料理はそれなりにできますよ。オリーブの枝では当番制でしたから」
「……煮込み料理なら」
ぽつりとレイスが呟く。おっ、お願いしなくても参加してくれるのか。よかった。
レイスって一人で暮らしてたんだよな? 二十五年間ずっと煮込み料理ばかり食べてたってことか? 飽きそうだな。
「よしっ、それじゃあ作るぞー!」
「「おーっ!」」




