オリーブと青い小鳥
翌朝、宿を出た俺達は食材と矢を買い足して街を出る。
ちなみに宿で食べた朝食はカボチャの種で飾られたパンと細長く加工された白い肉だった。どうやら腸に肉を詰めて作っているらしい。ハーブとレモンの風味が爽やかで美味しかったなあ。
「ひとまずピュルテ皇国に戻ろう。帝国は俺達が活動するのには向いてないみたいだからな……」
「懸命な判断だ」
そんなわけで、俺達はピュルテ皇国まで戻ることにした。帝都とか一度見てみたいけどな。どうやら魔導工学がとても発展しているらしいから。
しばらく歩いて、歩いて、昼食をとって、歩いて、歩く。日が暮れてきたら火を焚いて野営の準備だ。
ケイトが料理をしている中、リーファが一冊の本を持ってオリヴィエの隣に座った。
「リーファさん、それは?」
「ふっふっふー……アタシ、考えたんだ。オリヴィエさんをもっともーっと笑顔にする方法!」
本の表紙には一人の少女が青い鳥へ手を伸ばす絵が描かれている。
「これね、オリーブと青い小鳥っていう絵本なんだ。読み聞かせてあげるね!」
「読み聞かせ……ですか?」
「うんっ! きっとオリヴィエさんも気にいると思うの! さあ、はじまりはじまり〜! あるところに、オリーブという女の子がいました。オリーブには病気のお兄さんがいて――」
リーファは一生懸命に絵本を読んでいる。たしか文字を読むの苦手って言ってたよな。でも、オリヴィエのために頑張って読んでいる。
そうか、それがリーファが考えたオリヴィエの感情を呼び起こす方法なんだな。小さく笑って、その様子を見守る。
レイスはちらりと彼女達を見ると、手元に視線を戻した。ちゃっかり小さなテーブルセットを使ってるけど……それ、もしかして収納鞄に入れてたのか? 一体どれくらいの容量があるんだろう。
彼は杖をペンのように持ち、青いインク壺につけた。思わずそっちに目がいく。えっ、それってペンにもなるの?
彼は迷いのない手つきで羊皮紙に線を引いていく。あ、もしかしてスクロールを作ってるのか? どうしよう、あっちも気になる。どっちも見ていたいな。
結局、俺はちらちらと両方を交互に見ていた。だって気になるし。
「そうして青い小鳥と出会ったオリーブは、小鳥へ手を伸ばします。小鳥さん、小鳥さん。お兄ちゃんの病気を治すために、あなたの羽根が必要なの。羽根を一枚くださいな」
「小鳥さんは分かってくださるでしょうか……」
オリヴィエはかなり物語に入り込んでいるようだ。両手を握って、真剣な眼差しで絵本を見つめている。彼女の顔からはいつもの微笑みが消えていた。珍しいな、あんな顔を見るのは初めてだ。それだけ絵本に夢中ってことなんだろうけど。
「すると、小鳥は大きく羽ばたきました。ひらり、ひらりと一枚の羽根がオリーブの手へと舞い降ります。透き通るような青い羽根。どこまでも広い空のように青い羽根。オリーブは嬉しくなって、大きく手を振りました。小鳥さん、ありがとう! 小鳥は返事をするように鳴いて、遠くへと飛んでいきました」
「ああ、よかった……これでお兄さんは助かるのですね」
「家に帰ったオリーブは、さっそくお兄さんに青い羽根を渡しました。お兄ちゃん、青い羽根だよ。これでお兄ちゃんの病気は治るよね? お兄さんは笑います。ありがとう、オリーブ。おかげで元気が出てきたよ」
お、これでめでたしめでたしって感じか。優しい話だな。
オリヴィエはホッとした様子だ。けど、次のページをめくったとき、少し悲しそうな顔へと変わった。
「けれども、お兄さんの病気はまだ治っていませんでした。元気が出てきたというのは、自分のためにとても頑張ってくれたオリーブへの優しい嘘だったのです。その日の夜、お兄さんは熱を出しました。とてもとても酷い熱です。お兄さんは顔を真っ赤にして、うーんうーんとうなされていました」
「そんな……」
「お兄さんが意識を失ったとき、不思議な夢を見ました。とても美しい青色の鳥が、熟したオリーブの実がなった小枝を咥えて飛んできたのです。お兄さん、お兄さん。優しい女の子のお兄さん。どうぞ、この実をお食べなさい」
雲行きが怪しくなってきたと思ったら、なんだか不思議なことが起きてるな。どうなるんだ? 耳を澄ませて話を聞く。
「お兄さんは、鳥からもらった実を食べることにしました。だって、この鳥はオリーブがもってきてくれたものと同じ、美しい羽根をもつ鳥です。お兄さんがオリーブの実を食べると、なんだか力がみなぎってくるようでした」
「小鳥さん……!」
「小鳥は歌うように喋ります。あの女の子はとても優しい。私を見つけたのに、捕まえようとしなかった。だからあなたを助けにきたの。お兄さんは笑顔でお礼をいいました。ありがとう、美しい小鳥さん。これであの子を一人にせずにすむよ。目が覚めたとき、お兄さんの病気はキレイさっぱり治っていました。オリーブとお兄さんはずっと仲良く一緒に暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
リーファが読み終えると、オリヴィエは小さく拍手した。彼女の青い瞳は少し潤んでいる。
「よかったですね、オリーブさん……とても、とても優しいお話でした」
「えへへ、いいお話でしょ? 本屋さんで見つけたとき、これだ! って思ったんだ」
リーファは本を閉じると、にこりと笑う。とても優しい笑顔でオリヴィエを見つめた彼女は穏やかな声で続ける。
「ね、オリヴィエさん。アタシ、まだまだオリヴィエさんに知ってほしいお話があるんだよ。だから、また読み聞かせしてもいいかな?」
「ええ、ぜひお願いします。ふふ、なんだか胸があたたかくなりますね」
笑いあう二人を見て、ふと思いついた。オリヴィエの感情を呼び覚ます方法。もしかしたら、アレもいいんじゃないか?
二人に声をかけようとした時、ケイトが「できたぞー!」と声をあげた。おっと、先に食べようかな。きっと見た目で美味しく、匂いで美味しい料理が出来上がったはずだから。




