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イノセンス至上主義

 シュテルンでの一日は散々なものだった。

 道を歩けばやたら人にぶつかりそうになったり、うっかりを装って水をかけられたり、俺とケイトだけ明らかに味がおかしい料理が出されたり。

 通りで全然亜人を見かけないわけだ。こんなところいたくもないよなあ。

 ギルドでレイスの加入申請をした時も散々だった。やたらと難癖をつけられるのだ。


「亜人がリーダーのパーティに入るなんてどうかしてるぜ」


 そんなことを言われても、レイスは何も言わなかった。

 受付嬢はレイスのギルド証を見て何か言いたげだったけど、やっぱりこの国じゃギルドの人でも亜人のパーティに加入するのはやめておいた方がいいって思うのかなあ。


 そんなこんなでどうにか宿に泊まったけど、当然のように主人(ということになっている)レイスと同じ部屋に放り込まれた。外で寝ろって言われないだけマシなのかな。


「明日になったらすぐ出よう、そうしよう」

「そうだな、みんなの防寒具も買ったし準備万端だぞ」


 ケイトがベッドに座って足をぷらぷらさせながら言う。なにしろこれから向かうのは雪山のふもとだ。極寒ノ淵境というだけあって寒いに決まってる。

 レイスは静かに本を読んでいた。一体何冊持ってきてるんだろう。本って結構値段するけど、レイスってお金持ちなのかな。


「くああ……眠たくなってきたな。寝るかあ」

「ふあ……つられちゃったぞ」


 口をもにゅもにゅさせたケイトは、ベッドの端っこで横になった。ベッドは広いから三人でも寝られそうだな。ケイトちっちゃいし。


「レイスはベッドの真ん中と端、どっちがいい?」

「私は椅子でいい」

「いやいや、そういうわけにもいかないだろ。体痛くなるぞ」


 返事はない。部屋は少し肌寒いし、椅子で寝たら風邪もひきそうだ。


「勝手に決めちゃうぞ? 決めちゃうからな?」

「だから私は椅子でいいと……」

「じゃあ端な。ちゃんと空けておくからベッドで寝ろよ」

「話を聞け」


 ケイトの隣に寝転がる。これ、思ったより詰めないと入らなさそうだな。きゅっと端につめて、落ちそうになっているケイトをぎゅっと抱きしめた。あー、あったかい……ぽかぽかだ……。




 朝、隣を見ると髪をほどいたレイスが向こうを向いて眠っていた。お、ちゃんとこっちで寝てくれたのか。やっぱなんだかんだ優しいというか、話聞いてくれるよなあ、この人。っていうか髪長いな。

 ぴよんっと跳ねているケイトの寝癖を撫でつける。お、直った。


「おはよう、ケイト。レイスもおはよ」

「……ああ」

「んん……まだねむいぞ……」


 レイスは前髪をくしゃりと掻き上げると、ベッドから降りた。髪をまとめるみたいだ。ケイトは目元をくしくしと擦りながら口をもにゅもにゅさせている。


「よしっ、準備も終わったな。それじゃ出発するかあ」


 あ、その前にレイスにオリヴィエのことを共有しておこう。


「レイス、オリヴィエのことなんだけど……」


 諸事情で感情が希薄なこと、味覚がないことを伝えた。レイスは静かに聞き「そうか」とだけ返す。淡々としてるなあ。

 さ、改めて出発だ。昨日リーファに頼んでレシピ本買ってきてもらったし、ちゃんとした帝国料理はケイトに作ってもらって楽しもう。そのためにも、さっさとこの町を出ないとな。

 ……そう思って宿を出てからは早足に門へ向かってるわけなんだけど、その道中でさえぶつかられるし石は投げられるしで散々だった。

 ようやく町をでて一息つく。


「ここからヴァイスまで他の町を見つけても入らないようにしよう」

「それがいいかもね……なんであんな酷いことできるんだろう」

「……元々亜人が少なかったからだろうな」


 ぽつりとレイスが呟く。そんな数で決まるものなのか? 首を傾げていると、オリヴィエが口を開いた。


「ノーデン大森林を挟んでいるからか、ヴァルテン帝国にはあまり布教が進んでいません。だからこそ教義に反する人が多いのでしょう」

「私からすればピュルテ皇国も似たようなものだと思うがな」

「そんなことはありません。ピュルテ皇国はリエロス教の本拠地、教義に従う人がほとんどです」


 オリヴィエが反論すると、レイスは鼻を鳴らして黙った。


「まあまあ、とりあえず進もうぜ」


 枯れ草混じりの平原を歩く。ヴァイスまではかなり距離があるな……何日で辿り着けるだろう?

 そんなことを考えていると、風を切る音が聞こえた。

 咄嗟に横へ転がると、上半身が女の子になった鳥のような魔物が鋭い爪を地面に突き刺した。


「っぶねぇ……! なんだこの魔物!?」

「ハーピーだな」


 杖を構えたレイスは、軽く杖を振る。地面から爪を引き抜こうとしていたハーピーの体に無数の氷柱が突き刺さった。


「……まだ足りんか」


 悲鳴をあげて暴れるハーピーに向かってもう一度杖を振る。今度は地面から鋭い岩の棘が生え、ハーピーの胸を貫いた。

 わあ……魔法だあ……! 思わず目を輝かせてしまう。初めてリーファの魔法を見た時もこんな感じでテンション上がったなあ……あの時はその後のぶん殴りに全部持っていかれたけど。


「すげー!! あっという間に倒しちまったぞ!!」


 ケイトがぱちぱちと小さな手を叩く。リーファもキラキラした目でレイスを見ていた。オリヴィエは声をかける前に全てが終わってしまったからか黙り込んで、ハーピーの前で祈りを捧げている。


「アタシももっともっと頑張れば、もっとすごい魔法が使えるかなあ?」

「オイラも使えるようになりたいな!」

「お前達は……羨むことを知らないのだな」


 レイスはぽつりと呟くと杖をしまった。顔を見ても感情を読み取りにくいから、一体どういう意図で言った言葉なのか判断に困るな。だからって本人に聞くのも変な話か? でも気になるよな。


「いいなって思うことくらいはあるぞ。何かあるのか?」

「いや……気にしなくていい」


 そう言われちゃどうしようもないな。

 串刺しになったハーピーの近くに寄る。たしかハーピーの羽って何かの素材になるんだったような気がする。あれ、どうだったっけ? とりあえず取っておくか。ハーピーの羽を全て毟り取り、残った死体をリーファに燃やしてもらう。


「これでよし。もう少し進んでから昼食にするか」

「そうだな。うーん、何を作ろう?」

「んー、俺は帝国料理がいいな。ちゃんとしたやつ食べてみたいんだ」

「よし、決めた! 楽しみにしててくれ」


 昼食には肉を叩いて伸ばし、衣をつけて揚げ焼きにした料理がでてきた。シュニッツェルというらしい。

 皿からはみ出しそうなくらいの肉に驚いたけど、薄く伸ばされてるからか意外とぺろっとイケる。添えられたレモンが後味をスッキリさせてくれるな。

 それにしてもヴァルテン帝国って料理に限らずかっこいい名前のものが多い気がするのは俺だけ?

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