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オリーブの枝

 オリヴィエの実家とも呼ぶべき孤児院『オリーブの枝』にて。カフェオレを楽しんで一息ついたあたりで、タンドレーは話を切り出した。


「お三方はオリヴィエのご友人でしょうか?」


 ずっと俺達のことが気になっていたんだろう。久々に帰ってきた娘が見覚えのない人達を連れてきたっていうんだから、そりゃそうだ。

 オリヴィエは小さく笑い、カフェオレが入った器を机に置いた。


「そうであり、そうではありません。彼らは私の仲間……パーティの一員です」

「へえ、パーティの」


 タンドレーは少し目を丸くして俺達を見る。そういえばまだ自己紹介をしてなかったな。すっかり忘れてしまっていた。


「俺が『追憶ノ探求者』リーダーのエスカ・トーガ。で、こっちがメンバーの……」

「アタシがリーファ・レヴァでっ」

「オイラがケイト・ラットだ!」

「これはどうも。『オリーブの枝』管理長のタンドレー・フォリエです」


 小さくお辞儀をした彼は心配そうな顔で言葉を続けた。


「オリヴィエは強い子ですが、何分猪突猛進なところがあり……ご迷惑をかけておりませんでしょうか」

「まさか、とても助けてもらったよ。な、皆」


 リーファとケイトはこくこくと何度も頷く。

 大きく腕を広げてリーファが笑った。


「そうそう! 怪我も、こう……パァ〜ッ、シャランラ〜ッて治しちゃうの!」

「それにすっごく強かったぜ!」

「目的が同じ者同士、これからも一緒に旅を続けたいと思ってるんだ。オリヴィエは俺達にとって大切な仲間だよ」

「ほう……それはそれは」


 タンドレーは震える指でそっとメガネを外す。

 そして、目元に滲んだ雫をそっと指先で拭った。


「よかったです……とても、よかったです。オリヴィエにいい仲間が見つかったようで、本当に……ッ」

「タンドレー、そう泣かないでくださいな。皆さんが驚いていますよ」

「すみません、なんだか最近涙もろくて……これはいかんなあ」


 すん、と鼻をすすった彼はメガネをかけ直し、ほっとした顔で微笑む。そして深く頭を下げた。


「何卒、娘をよろしくお願いします」

「はい!」


 鐘の音が響く。それを聞いて立ち上がった彼はにこりと笑った。


「そろそろ昼食の時間です。今日はここに泊まっていってください。子供達も喜びますから」

「ええ、そうしましょう。皆さん、いかがでしょうか?」


 泊まらせてもらえるなんて、とてもありがたい話だ。断る理由がない。三人で顔を見合わせて頷く。


「ぜひ!」




 その日の食事はとても賑やかなものになった。

 大勢の子供達と囲む食卓はいつにも増して明るくて、皆の笑顔も倍輝いて見える。

 時々小さい子がこぼしてしまっているのを、タンドレーやオリヴィエ、比較的大きい子供達で拭ってやっている。こうして普段過ごしているんだなあ。

 温かな茶色い豆のスープは素朴な優しい味わいで、なんだかほっとする。リーファとケイトも美味しそうにパンと一緒に平らげていた。

 オリヴィエもいつにも増して穏やかな笑顔でスープを口にしている。


「オリヴィエはこのスープが好きなのか?」

「ええ、そうですね。孤児院の皆で飲むこのスープが、一番好きです」

「すごく優しい味だもんな」

「……はい」


 うっすらと笑ったオリヴィエに、俺も笑顔で返す。


「そうか、オリヴィエはこのスープが……よし、オイラこのスープのレシピ覚えるよ。なあタンドレー、どうやって作るんだ? ぜひ教えてくれ!」

「ええ、構いませんよ。後程レシピを書いて渡しましょう」

「やったー! これでいつでも作ってやれるぞ、オリヴィエ!」

「ありがとうござます、ケイトさん」


 そうやって雑談を交えながら食事を進める俺達を、タンドレーは静かに見ていた。




 夜。用意された部屋でベッドに腰掛け、魔導論学・中級の続きを読んでいた。

 でも、そろそろ文字が踊って見え始めたぞ。もう寝るか。パタンと本を閉じたところで、コンコンと控えめにドアがノックされた。


「誰だ?」

「僕ですよ、エスカさん」


 タンドレーの声だ。扉を開けると、やはりにこりと微笑んだ彼がいた。

 一体何の用だろう。不思議に思っていると、彼は困ったように眉を下げて口を開く。


「中に入ってもよろしいでしょうか? お話ししたいことがあるのです」

「あ、ああ。どうぞ」

「どうもありがとうございます」


 部屋に入ると、タンドレーは備え付けの椅子に座った。俺もベッドに座って話を聞く体勢に入る。にしても、話したいことってなんだ?


「僕が話したいのは……オリヴィエのことです」

「オリヴィエの?」


 彼はゆっくりと頷いた。神妙な面持ちだ。月明かりが彼の顔を青白く照らす。


「彼女が記憶を失っていることはご存知でしょうか」

「あ、うん。階段から落ちて記憶が飛んだって聞いたけど……」


 それが何だっていうんだ? また落ちないように気をつけてくれ、とか?

 それにしては彼の顔はあまりにも真剣だ。


「階段から落ちて記憶が飛んだ……それは偽りの理由なのです」

「偽り? それってどういうことだ?」


 本当は階段から落ちたことが原因じゃない? じゃあ、どうして彼女は記憶を失ったんだ?

 月が雲に隠れ、部屋は一層暗くなる。


「あれは彼女がこの孤児院に来る前のこと……彼女がまだ、村で暮らしていた頃の話です」


 タンドレーは少しずつ、噛み締めるように、過去を話し始めた。

 かいつまんで話されたそれは、俺にとってとても衝撃的で……凄惨な、過去の記録だった。

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