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プリューム

「あそこに見える町がプリュームです」

「へえ、あれかあ」


 一晩を野宿で過ごし、しばらく歩いた先で小さな町を見つけた。あそこがオリヴィエの故郷か。

 門番は一人だ。他の街は二人だったことを考えると、やっぱり規模が違うんだなあ。

 ぼんやりと立っていた門番はオリヴィエを見ると目を丸くした。


「お? オリヴィエじゃないか。戻ってきたんだな」

「近くを通ることになったので寄ってみました。お勤めお疲れ様です」

「そっちの三人は知り合いか?」


 門番の問いかけにオリヴィエはふわりと笑って頷く。


「彼らは私の仲間です。彼らのパーティに入れていただいたんですよ」

「へえ……まあ、俺はオリヴィエさえいいならそれでいいと思うぜ」

「ありがとうございます。では、わたくし達はこれで失礼しますね」

「おう。せっかく帰ってきたんだ、ゆっくりしていきな」


 すっとギルド証を出し、門をくぐる。白やオレンジの建物が立ち並んでいる。所々に植物が飾られていて目に優しい町だ。


「わたくしが暮らしていた孤児院に案内します。きっと歓迎してくれるはずですよ」

「ああ。オリヴィエが育ったところかあ、楽しみだな」


 そういえばオリヴィエは孤児院育ちか。何かあったんだろうけど……俺が聞くことじゃないよな。

 彼女の案内で町を歩く。何人かの子供が追いかけっこをして遊んでいるのが見える。穏やかでいい町って言っていたのがなんだか分かる気がするな。


「着きました。ここが孤児院、オリーブの枝です」


 オレンジの屋根の広い建物だ。白い壁に飾られた花がよく似合う。

 近づくと、周りで遊んでいた子供の一人がこっちを見た。


「オリヴィエ姉ちゃんだ!」


 その声を皮切りに子供達が駆け寄ってくる。あっという間にオリヴィエの周りに集まり、手を握って揺らしている。


「オリヴィエ姉ちゃん! おかえりー!!」

「きゅーさいの旅は終わったの?」

「いいえ、まだ終わっていませんよ。近くを通ったので立ち寄っただけですから、またすぐに旅立ちます」


 子供達は「えーっ」と不満の声をあげる。相当好かれてるんだなあ。ふとトーガ村の子供達を思い出した。次のダンジョンをクリアしてもランク上げないと忘却ノ迷宮には挑戦できないし、一度村に戻るのも悪くないかもな。それに皆を紹介したい。


「わーっ、ネズミさんだ!」

「うわわっ、尻尾を触るんじゃない! オイラの尻尾はおもちゃじゃないぞ!」

「こら、勝手に触っちゃいけませんよ。申し訳ありません、ケイトさん。皆やんちゃ盛りでして」


 触りたくなるのは正直分かるけど、勝手に触るのはダメだな。

 両手で尻尾を守ったケイトは、ふうとため息をつく。


「次から気をつけてくれるならいいぜ」

「ほら、ケイトさんにごめんなさいは?」

「ごめんなさい……」

「ん。許す」


 しゅんとした子供の頭を小さな手が撫でる。小さいもの同士のやり取りって、なんでこんなにほっこりするんだろうなあ。思わず頬が緩む。


「それではわたくし達は中に戻ります。皆さんも遅くならない内に帰ってくるのですよ」

「はーい!」


 元気に返事をした子供達は大きく手を振る。それに小さく手を振り返して、孤児院の入り口へ向かった。


「大人気だな、オリヴィエ」

「ふふ、わたくしは皆さんのお姉ちゃんなので。こうして、しっかり面倒を見てあげないといけないんです」


 オリヴィエがドアのチャイムを鳴らすと、少ししてぽっちゃりとした茶髪の優しそうな男性が扉を開けた。


「はい、どちら様で……おや、オリヴィエじゃありませんか。もしかして旅を終えたとか?」

「お久しぶりです、タンドレー。まだ旅は終えていません。近くに来たので寄ってみました」


 メガネの奥で青い瞳が細められる。慈愛に満ちた目だ。


「そうでしたか、元気そうでなによりです。さあ、立ち話も疲れるでしょう。中へどうぞ」


 扉を開いたタンドレーに中へと案内される。落ち着いた内装の廊下を通れば、広いリビングに出た。大きな机といくつもの椅子が並んでいる。きっとここで皆で食事をとっているんだろうなと、日常の光景が脳裏に浮かんだ。


「座っていてください。カフェオレをお出ししますから」

「わたくしも手伝います」

「遠くから来たのでしょう? 休んでいなさい。久々に娘が帰ってきたのですから、もてなしたいのです」


 オリヴィエは素直に椅子に座った。オリヴィエが娘? ケイトも気になったみたいで、身を乗り出して尋ねていた。


「なあオリヴィエ、あの人ってオマエの父親なのか?」

「ええ、そうですよ。彼はここの施設長です。わたくしも、そして外で遊んでいた子供達も皆、彼の娘であり息子なんです」

「へえ、そういうことか」


 あの人が施設長ね。見た目に違わず優しい人ってことだ。

 タンドレーがカフェオレとやらを入れている間、オリヴィエはぽつりぽつりとこの孤児院について教えてくれた。


「この孤児院は前施設長が立ち上げたんですよ。それを、ここで育った彼が引き継いで今に至ります」

「結構続いてるんだな」

「はい。これまでに多くの子供達がここで育ち、旅立っていったと聞きます。わたくしや彼、外の子供達の姓……フォリエは、この孤児院という枝に寄り添って茂る葉という意味を持っているんです」


 彼女の姓にそういう意味があったのか。いい由来だな。

 そう告げると、彼女は薄く微笑んだ。どうやら彼女もその名前を気に入っているようだ。

 話が一区切りしたところでタンドレーがやってくる。


「どうぞ、カフェオレです」


 目の前に置かれた口の広い器には薄茶色の液体が注がれている。っていうか器、結構大きいな。

 オリヴィエをちらりと見る。彼女は器を両手で持って飲んでいた。なるほど。

 彼女にならって両手で器を包む。じんわりと熱が伝わる。そっと口をつけると、ほろ苦さとミルクの甘みが口の中に広がっていく。

 飲んだことない味だ。でも美味いな。


「ほわあ……初めて飲んだよ〜。これ、コーヒーにミルクを入れたの? おいしいねえ」

「……これ、カフェコンレチェか? ピュルテ皇国にも同じ飲み方があるんだな」

「え、なんか二人とも知った風だな? 何も知らないの俺だけ?」


 リーファは元になった飲み物を知っているみたいだし、ケイトに至ってはよく似た飲み物を飲んだことがあるらしい。まあ……うん、ずっと村から出てなかったしな。仕方ないか。

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