次の行き先
翌朝。俺達はデフィールを出た。
門番はニヤケ顔で「どうだ? 行けると思うか?」なんて聞いてきた。俺達は「当然」とだけ返してさっさと離れた。
うん、ただの強がりだ。すんなり辿り着けるかと言われると……正直、少し自信がない。でも、ここでそれを認めたら叶うものも叶わなくなりそうで、せめて言葉でくらいしっかりと表明しておきたかったんだ。
「次はどこだっけ?」
「ここから北にあるノーデン大森林を抜けて、ヴァルテン帝国に行く。そこにある氷山のふもとにダンジョン街のヴァイスがあるそうだ」
「へえ、遠いのか?」
「かなりありそうだな。今までとは比べものにならないと思う。それでも手前にはルルパスって町があるし、ノーデン大森林を抜けて少しのところにシュテルンって街があるから、そこで一休みできそうだぞ」
地図を広げて確認する。うん、森を抜けるのは少し大変そうだけど、そこさえどうにかすれば大丈夫だと思う。
「皆さん、北に向かうのであればプリュームという町に寄ってもらっていいですか?」
「プリューム?」
オリヴィエの言葉で地図を確認する。ああ、ここならノーデン大森林に向かう途中で近くを通るな。休むにも丁度いいだろう。
「分かった、寄ろうか。にしても、どうしてこの町に?」
「わたくしが暮らしていた町なんです」
「へえ、そうなのか」
故郷か……ふとトーガ村を思い出した。みんな元気にしてるかなあ。帰ってやらないと子供達は寂しがってるかもしれないな。あいつは弓が扱えるようになったけど、正直もっと教えてやるべきことは多いし、食べられる植物だってまだ教えきれてないし。
それになにより……俺の居場所はあの村だから。
「オリヴィエさんがいた町、どんなところなんだろう」
「少し小さいですが、穏やかでいい町ですよ。皆さん優しくて、助けあって暮らしています」
「へえ〜、いい町なんだな」
「ええ、とても」
故郷のことを語るオリヴィエはいつにも増して穏やかな顔をしている。よっぽど好きなんだろうな、その町のこと。
「よし、行くか」
「今日中には着くかな?」
「あ〜、それは……どうだろう。着く頃には夜中になってるかもな」
地図上だと遠いとまではいかずとも近いとも言えない距離だ。これだと一晩途中で野宿することになるかもしれない。
「ま、のんびり行こうぜ」
「そうだな〜」
のんびりと言っても魔物はやってくるんだけどな。少しくらい空気を読んでくれてもいいんじゃないか? そんな思いを込め、空を旋回する魔物をじとりと睨んだ。
前に獣人達の馬車を襲っていたバードゥンだ。こりゃまた数を揃えてきたものだな。
「魔物さん、お腹がすいてるのでしょうか? お肉をあげれば退いてもらえたりは……」
「いやあ、話通じないんじゃないかなあ。俺達が食われて終わりだと思うぞ……仕方ない、また全部射ち落とすか」
「アタシも! アタシもやる!」
俺がパッパッと蝙蝠のような翼を撃ち抜く横で、リーファが杖を構える。
「ファイアボール!」
伸びた炎はリーファめがけ急降下していた個体を巻き込んだ。断末魔をあげて地面に落ちていくバードゥンは、元々黒い体を更に焦がしていた。うわあ、こんがり焼き上がってら。
「やったあ! 当たったよ〜!!」
「いい感じだ、リーファ。その調子で頼むぞ!」
「うんっ!」
二人がかりで空を飛ぶ個体を落とし、急降下してくる個体は各々で対処していく。ケイトは巨大な肉切り包丁で硬い外骨格ごとぶった斬り、オリヴィエは何度も叩くことで外骨格をかち割っていた。こわ……。
「よし、片付いたな」
最後の一体を射ち落とし、一息つく。この四人での戦いも中々慣れてきたんじゃないか? リーファはあのファイアボールもどきのおかげで中距離もできるようになったし、バランスがよくなった。
それでも地面にいる敵相手だと大概殴りに行くんだけどさ。ま、それもリーファらしいと言えばらしいよな。
「死体は燃やすから集めてくれ」
みんなで散らばった死体を集める。一箇所にまとめたらリーファがゴウッと燃やしてくれた。これで死体の処理は終わりだ。いやー、リーファがいると楽でいいな。もし俺だけだったらと考えたら……穴を掘って埋めてたのかな? 気が遠くなりそうだ。
オリヴィエは静かに祈りを捧げていた。魔物相手にも優しいなあ、彼女は。
「それじゃ気を取り直して進むか」
「うんっ、プリュームに向かってしゅっぱーつ!」
「出発〜!」
先に進むリーファとケイトを、オリヴィエと一緒についていく。
歩くだけの旅もみんなと一緒なら楽しめる。それがとても嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
「楽しそうですね、エスカさん」
「ああ、とっても楽しいよ。こうして四人で歩くだけでなんだか楽しいんだ」
二人で笑いあって、随分と先に行っている二人を呼び止める。
「おーい、あんまり先行くんじゃないぞー」
「は〜い!」
手を振る二人を見て、小さくため息をつく。分かってるのかなあ、あいつら。
「私も……なんだか楽しい気がします」
ぽつりと呟いたオリヴィエはいつもより自然な笑顔で、俺ももっと笑みを深めた。
「さ、急ごう。置いていかれちゃうぞ」
「ええ、そうしましょう。お二人とも、待ってくださいな」
小走りで二人を追いかける。町はもうしばらく先だ。
暖かな日差しが俺達を包んでいた。




