デフィール
朝早くに皇都フォワクールを出た俺達は、平原で昼食をとっていた。昨晩部屋でレシピ本を読み込んでいたらしいケイトは、皇都で買ってきたスパイスなんかを使って挑戦することにしたらしい。
ケイト作の皇国料理……たしか名前はガランティーヌだったか。あくまで『風』らしいけど、鳥肉で刻みボア肉とキノコやハーブ、チーズのフィリングを巻いて蒸し焼きにしたそれはとても美味しかった。ちょっと酸っぱいソースがまた食欲を誘うんだ。
「初めてでこれかあ、さすがケイトだな」
「ね! すっごく美味しかった!」
「へへっ、成功してよかった。獣王国に帰ったら母ちゃんにも教えてあげなきゃな」
嬉しそうに笑ったケイトは、オリヴィエに声をかけた。
「手持ちの材料の都合で本にあったレシピからは少し変えてあるんだ。やっぱり本場の味と比べると違うと思うんだけど、オリヴィエはどう思う?」
「えっ? そうですね……とても柔らかくて、いいと思いますよ」
「へへ……ピュルテ皇国の人にそう言ってもらえると嬉しいな」
ほっぺたを赤くして笑うケイトは足取り軽く皿を片付けにいった。こうなったら各国のレシピ本を集めたくなってきた……懐が寒くなりそうだけど。そろそろ稼いだ方がいいかもしれないな。次のダンジョンで複数回潜るか……?
「デフィールまであとどれくらいかな?」
「うーん、地図上だと夕方くらいには着くか? 大体フレイユールから皇都までと同じくらいの距離みたいだ」
今は半分くらいまで歩いたと思う。多分。多分な。
食後のお茶を飲みながら魔導論学・中級の続きを読む。食後なのと相まって眠たくなってくるんだよなあ……イマイチ分からない部分も多いし。中級でこれって、上級はどうなるんだよ。
「エスカくん、それってダンジョンで拾った本? 続きかもって言ってたやつだよね?」
「ああ。この前の本は初級だっただろ? これは中級だって」
「ひゃ〜、それじゃあもっと難しい本だ!」
「そうだ、難しい本だ。正直俺もよく分かってない」
なんか、こう……魔術の専門家とかいればいいんだけどな。分かりやすく教えてくれる人。できればリーファにもケイトにも……あと俺にも優しい人。もちろんオリヴィエにもだ。
なんて、そう上手く見つかるわけもないか。自力でどうにか理解しないとなあ。
数ページだけ読み進めて、出発することにした。ちなみに隣で覗き込んできたリーファは一ページめくる前に撤退していった。文字が踊ってるように見えるらしい。
「ここがデフィールか」
そして半日歩いた俺達はデフィールに辿り着いた。門番にギルド証を見せると怪訝そうな顔をされた。ランクか? ランクが足りないからか?
「先に言っておく。条件を満たさない場合、忘却ノ迷宮には入れないぞ」
「分かってるよ。いつか挑戦する所を一目見ておきたいだけなんだ」
「ああ、なるほどな。それなら行ってこい。その未来が来るかどうかは分からんがな」
ハハっと笑った門番は「さっさと行ってきな」と言ってしっしっと手で払った。あの門番、明らかに俺達をバカにしてるな。くそう。
でもしょうがない。こういうのは実力をつけて見返すもんだ。
少し物言いたげなオリヴィエの手を引いて中へ入る。最難関のダンジョンがある街というだけあって、なんだか厳かな感じだ。建物も他の街ほどカラフルじゃないな。屋根や壁も青か白で統一されている。
「ええと、ダンジョンはあっちだって」
「どんな見た目なんだろうね? 楽しみだなあ」
「心境ノ鏡館みたいな建物タイプか? それとも初心ノ洞窟みたいな洞窟タイプ?」
ダンジョンへ向かいながら予想を立てていく。皆楽しそうだな。
にっこりと笑って二人の話を聞いていたオリヴィエにも話を振ってみる。
「オリヴィエは来たことあるのか?」
「いえ。資格を有してから来ようと思っていましたから」
「おっと、それじゃその時の楽しみを先取りしちゃうな」
「お気になさらず」
オリヴィエはにこっと微笑んだ。なんとも思ってないならいいけど……いつも綺麗な笑顔を浮かべてるから、なんか感情が掴みにくいんだよな。
「おっ、皆〜! あれがそうじゃないか?」
ぴょんっと跳ねたケイトが先を指差す。そこには城がたっていた。
……そう、城だ。心境ノ鏡館なんて比じゃない、城。皇都で見た大聖堂でさえ霞むほどの迫力。
「あれが忘却ノ迷宮……?」
「す、すっごく大きいね……!?」
リーファも目を丸くして見つめている。まだかなり距離があるはずなのに、圧倒される感覚。いつか俺達はあの門をくぐるのだろう。
本当に? 本当に、あの場所に辿り着けるのか? そんな疑問が湧くほど、その城は俺達を威圧していた。
ズキ、と頭が痛む。
「……くん、エスカくん!」
「あ……なんだ、リーファ」
「なんだじゃないよ、急に立ち止まってどうしたの?」
目の前に立って顔を覗き込んできたリーファは心配そうに眉をさげている。
「不調ですか? 回復魔法をかけましょうか」
「いや、大丈夫だ。ただすごいなって見てただけ」
あの城には、なんだか近づきたくない。でも近づきたいと思う心もあって、複雑な気分だ。少し気分が悪い。
「……宿、探そうか。明日また出発しよう」
「近くで見なくていいの?」
「ああ。なんというか……近くで見るのは、資格を得た後のお楽しみにしないか?」
我ながら少し無理のある言い訳な気がする。俺のわがままでここまで来たのに、皆には悪いことをしたな。
「そうだね、それもいいかも! それじゃあ宿にレッツゴー!」
でもリーファはあっさりと受け入れてくれた。ケイトとオリヴィエも納得してくれたようで、特に何の文句も言わず宿探しへと移った。
みんな、優しいなあ。
どうやら俺はとても仲間に恵まれたみたいだ。




