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オリヴィエ・フォリエ

 空腹で倒れていたシスター、オリヴィエ・フォリエがパーティに仮加入した。このダンジョンを攻略し終えたらギルドで正式に加入申請するつもりだ。

 仲間が増えるのは喜ばしい。後方支援できるタイプなのも嬉しいよ。でも、でもさあ。


「こんにちは、魔物さん。ここは過ごしやすいでしょうか? 道を開けてくだされば嬉しいのですが、どうでしょう?」


 俺達の前には溶けかけの蝋燭のような魔物が立っている。メラメラと炎を燃やしながら跳ねてくる魔物を前に、オリヴィエはにこやかな笑みを崩さない。


「道を開けてくださらないのですね。残念です」


 肩をすくめた彼女は大きく杖を振りかぶった。金色の杖が魔物の頭を何度も叩き潰す。ぐちゃぐちゃになるまで、何度も、何度も、何度も。辺りに蝋を飛び散らせた魔物はドロドロと溶けて光の粒子となって消える。それを俺達は後ろで見ていた。

 あんな人畜無害そうなシスターが杖で魔物を撲殺なんて、誰が想像できるんだよ。回復できてバフもかけられるシスターって普通後衛だろ。なんで前衛なんだよ。

 リーファはテンションが上がっているようで、魔物を倒したオリヴィエの隣へ走っていく。


「オリヴィエさん強いね! すごーい!!」

「ふふ、ありがとうございます。リーファさん達が後ろで控えてくれているので安心して倒せました」

「次はオイラもやる!」


 ケイトも乗り気だ。リーファは口元に手を当てて斜め上を見ている。


「多分あのロウソクの魔物にはアタシの魔法効かないよね? 他の魔物出てこないかなあ」


 オリヴィエさんの戦い方に引っかかってるの俺だけ? 俺だけなのか?

 ……ま、まあいいか。気にしてもしょうがないしな。杖持ちは前衛。その前例は既にリーファで経験していることだしツッコミ入れるのも野暮な話だよな、うん。

 俺は気にしないことにした。気にしすぎると頭が痛くなりそうだから。

 幸い、オリヴィエは前衛としても中々に優秀だった。彼女も身体強化を多少扱えるようで、腕に魔力を集めて打撃力を上げてるらしい。そっかあ。

 俺は後ろから弓でパシュパシュ射っているだけだ。蝋燭の魔物はケイトとオリヴィエが、花瓶に手足が生えたような魔物はリーファがといった風に、大概の魔物は三人で片付けてしまう。

 ああ、後衛仲間ほしいなあ……謎の寂しさがあるぞ。


「ねえねえ、オリヴィエさんってどうして魔物に話しかけるの? 敵だよ?」


 通路を進みながらリーファが問いかける。オリヴィエはふふ、と小さく笑って答えた。


「魔物は教義に反する存在ですが、彼らも好きで魔物に生まれたわけではないでしょう? もしも話して分かってくれるのならと思うのですが……今の所、返事といえば唸り声くらいのものです」


 残念ですねと呟いた彼女の顔にはずっと微笑みが浮かんでいて、安心できる笑顔なのにどこか恐ろしく感じた。優しい人……うん、優しい人だな。撲殺して回っているところからは目を背けた。


「お? なんか開けた部屋があるぞ!」


 ケイトの声に改めて先をよく見てみる。たしかに開けた部屋が見えるな。床に赤い光を放つ紋がある。転移ノ紋によく似てるけど……罠か?

 リーファは辺りを見渡し、ケイトは壁を見て回っている。


「他には何もないね?」

「だな。壁も何にもないぞ」

「となると……やはりこの紋に何かあるのでしょうか?」

「罠……にしてはあからさま過ぎるよなあ、これ」


 紋の前にしゃがみ込む。この大きさじゃ一人ずつしか乗れそうにないな。さて、どうしたものか。


「わたくしが乗ってみましょうか?」

「えっ、でももし罠だったら……」


 心配するリーファにオリヴィエは微笑みを向ける。


「心配ありません。きっとこれは次のフロアへの通路なのでしょう。だから大丈夫です」


 オリヴィエは紋の上に立った。赤い光が彼女を包み、次の瞬間には姿が消える。


「……本当に行っちゃった」


 伸ばしかけた手をそのままに、リーファが呟く。

 これは……俺達も行くしかないか。紋の上に乗る。


「エスカくんっ!?」

「二人もすぐに来てくれ。もしこの先にボスがいるとしたらオリヴィエが危ない。だろ?」

「う、うんっ!」


 リーファの返事を聞くと同時に視界が切り替わる。ガラリと変わった世界の中、目の前に自分が立っていた。


「えっ!?」


 思わず後ずさる。すると、目の前にいる自分も同じように後ずさった。あれ、これ。


「な、なんだ。鏡か」


 ホッと安堵の息をつく。手を伸ばせばぺたりと冷たい感覚が伝わった。ツルツルしていて、傷ひとつない綺麗な鏡だ。

 辺りを見渡せばあちこちに鏡が置かれていて、一見どこが通れるのか分からない作りになっている。


「奇妙な場所だな……」


 ぽつりと呟いた俺の前で、鏡に映った姿がぐにゃりと歪む。なんだと身構えた俺を置いて景色が揺らいだ。


「なん、だ? 白い部屋……?」


 鏡に白い部屋が映し出される。窓の外には青々とした森が広がっていて、空は綺麗な夜色だ。部屋の中には白いベッドがポツンと一つ置かれていた。

 どうして急に景色が変わったんだ? この白い部屋は一体何なんだ?

 周りを見渡しても、目の前にあるこの鏡だけおかしな挙動をしているみたいだった。試しに鏡に触れてみたが何も起きない。

 ……なんだかこの景色を見ていると頭が痛くなってくるな。道はあるみたいだから、さっさと進んでしまおう。


 奇妙な鏡から離れて進んでいく。特に分かれ道があるというわけではなく、一本道みたいだ。迷路じゃないのは助かった。それでも鏡まみれのこの場所じゃ道を見つけるのも少し難しい。


 進んでいくにつれ、奇妙な鏡は増えていった。

 今までに踏破したダンジョンの光景を映し出す鏡もあれば、見たことのない景色を映し出す鏡もある。そしてあの白い部屋に似た部屋を映し出す鏡もいくつかあった。どの白い部屋も窓の外は青々とした森が広がっていて、見るたびに頭が痛む。


「なんなんだここは……」


 通路を進んだ先、壁一面が大きな鏡になった部屋があった。

 ここがゴールか? キョロキョロと辺りを見渡しながら進む。罠らしい罠はないけど……そういえばオリヴィエはどこに行ったんだ? もう先に行ってしまったのか?

 それにリーファとケイトもまだ来ていない。こんな静かな空間であの二人の声が聞こえないなんてことはないだろうし。まさか別々の場所に飛ばされてしまったのだろうか?


 壁一面の大鏡を見ながら首を傾げていると、鏡に映る自分がブレて見えた。

 また景色が変わるのか? 今度は何だ。

 じっと鏡を見つめる。


 ぐにゃりと歪んだ景色が整っていく。そこに映し出されていたもの。

 こちらを見つめる黒い長髪の男と、見たことのない荘厳な大広間だった。


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