休むことも大切だ
ズキンズキンと痛む腹を見れば、ダラダラと血液が溢れ出していた。やべえ、これ思ったより深いぞ。
少し頭がくらっとして、たたらを踏む。
「エスカくんっ!」
「おい、エスカッ!」
慌てた様子で駆け寄ってきた二人は、俺の腹を見て顔を歪めた。
「ま、待ってろ。すぐにポーションを……!」
ケイトは背負っていたリュックを下ろすと、中から淡い緑色の液体が入った瓶を取り出した。
キュポンと音を立てて蓋をあけ、傷口にふりかける。少し痛みが引いた気がした。
「これでよくなるはずだ……低級だから、どれくらい効くか分からないけど……」
「ありがとう、ケイト」
「ほら、半分は飲め」
差し出された瓶を受け取り、ぐいっと呷る。強い苦味が口の中に広がった。どうしてこう、薬ってものは飲みづらいんだ?
「帰ったらちゃんと手当するぞ」
「ああ」
ケイトがリュックから包帯を取り出して、ぐるぐると巻いていく。手慣れてるな……よくダンジョンに潜ってるらしいから、その中で培ったんだろう。
地面に伏していた怪蟲が光の粒子となって消えていく。怪蟲がいた場所には、一つのリュックが落ちていた。
「……リュック?」
大きくも小さくもない、普通のリュックだ。これが報酬……? なんだかしょっぱい結果だ。
リュックを見たケイトは軽く眉を上げる。
「それ、収納鞄じゃないか?」
「収納鞄?」
「見た目よりずっと多くのものを入れられるんだ。重さも見た目通りだし、中々いいドロップ品じゃないか?」
へえ、そんなに便利なものがあるのか。不思議そうにリュックを見ていると、ケイトは自分のリュックを差して「実はこれも収納鞄なんだぜー」と得意気に笑った。
「どれくらいの量入るかはランクによるけど……あれ、鑑定のスクロールあっただろ? 使ってみたらどうだー?」
もし本当に収納鞄なら相当便利だ。これから先、荷物が多くなってもこれ一つ持っていれば大丈夫になるってことだからな。
スクロールを取り出し、リュックにかざしてみる。
収納鞄……ランクは上級。生物は入れられないらしいが、収容量は相当多いみたいだ。これから先、旅の途中でいろんなものを入れていっても困ることはないだろうってくらいには。
「へえ、上級か。いいなー、オイラのは低級なんだ。それでも三倍くらいの量は入るんだけどな」
「これがあれば旅も楽になるな」
「エスカくん、収納鞄のことはいいから早く帰って休もうよー! ヒドい怪我してるんだよ!?」
心配顔のリーファに腕を引かれる。そういうお前も擦り傷だらけで痛そうだけどな。
でも彼女の言う通り、暫く休んでおくべきだな。耐熱薬が切れても困るし、とっとと帰るか。
ボスを倒したことで現れた転移ノ紋に乗る。
皆には悪いけど、三日くらいは休ませてもらおう。
「いやー、まいったね」
ダンジョンから帰った後、宿のベッドに腰かけて頭を掻いた。たははと笑う俺を見てリーファが眉を下げる。
「まいったね、じゃないよー。すっごく心配したんだから!」
「ごめんごめん。ケイトもありがとう、貴重なポーション二つも使ってもらっちゃって」
「いいよ、オイラがそうしたいと思ったからあげたんだ」
ポーション一つじゃ治りが遅いと判断したケイトがもう一つポーションを飲ませてくれたんだけど、おかげで痕が少し残るくらいまで回復した。その内この痕も消えるだろう、きっと。
「二人は大丈夫か?」
「うん、アタシは擦り傷だけだから」
「オイラは打撲痕が残ったくらいだな。ちょっと痛いけどポーション使うほどじゃないから大丈夫だ」
仮にもリーダーなのに一番重い怪我を負ってしまった。もっと精進しないとなあ。
ポーションも買っておかないとな。じゃないともしもの時に困るっていうのは今回のことでよく学んだつもりだ。
「食事ができたら持ってくるから、それまでゆっくり休むこと!」
「ああ、分かったよ」
ぽすんと枕に頭を預けて、手を振る。リーファとケイトは部屋を出ていった。
ここはネグロにある一般的な宿屋だ。安いわりにベッドがしっかりしている。
宿が出す料理は別料金になるけど、素材を持ち込めばキッチンを無料で貸し出してくれるらしい。きっとケイトが美味い料理を作ってくれることだろう。
休んでいる間暇だから魔導論学の本でも読むか。
あーあ、属性のことを掴めれば矢に魔法を付与するみたいなことも出来そうなんだけどな。リーファは随分と感覚的だし、ケイトは多分俺と同じで身体強化できるくらいだろうから、お手本にはできないだろう。
パラパラとページをめくる。
あれだよな、炎の矢とか水の矢とか氷の矢とか使ってみたいよな。かっこいいし、多分強い。今回のダンジョンだって水魔法を使えればもっと楽に戦えていた可能性だってある。
とにかく、今は基礎知識をつけることに重点をおこう。
……。
…………。
……、…………。
……。
どれくらい読んでいただろう。コンコンと扉をノックされる音で随分と集中していたことに気づいた。
扉を開けたのはリーファで、その後ろに皿を持ったケイトが立っている。
「夜ご飯できたよー!」
テーブルにホカホカの平べったいオムレツと薄い赤色のスープが置かれる。スープは一つだけ湯気が立っていた。
「トマトとたくさんの野菜、パンを使った冷製スープだ。少し酸っぱめの味付けにしてある」
「へえ、いい匂いだな」
「だろー?」
ふふんと得意気に笑ったケイトがオムレツを取り分ける。相変わらず美味しそうだ。
スープを一口飲んでみる。野菜の甘みと酸っぱさが調和して、飲みやすい味わいだ。飲みごたえがあるように感じるのはパンが入っているからだろうか?
ふと、リーファが持つスープに目を向ける。ケイトは冷製スープだって言ってたけど……リーファのカップからは湯気が上っている。
「リーファって温かいのが好きなのか?」
「うんっ、温かい方が好きだよ。冷たい料理はニガテなんだ」
「客の要望に応えるのも料理人の務めだからな。まあ、リーファは客じゃなくて仲間だけどさ」
「へえ……さすがだな」
ああ、そういえば……この前冷えたオムレツを食べてた時にテンションが下がってたな。それでか。
リーファはふーふーとスープに息を吹きかけ、一口飲んだ。ほわぁと顔が緩んでいる。
「やっぱりケイトちゃんの料理はおいしいねぇ」
「へへっ、そうだろー? どんどん食べてくれよーっ」
本当にケイトの料理は美味い。戦闘力もそうだけど、この料理の腕だけでも十二分って感じだ。これからの旅が楽しみになってくるなあ。
「ケイトは他の国の料理って作れるのか?」
「ああ、レシピを知ってるものなら作れるぞ。そんなに種類はないけどな」
「それじゃあさ、旅の途中で新しい料理を覚えていくっていうのも良さそうだよな」
「新しいレシピか……いいな、それ!」
にぱっと笑ったケイトが親指を立てる。なんだか頭をわしゃわしゃしてやりたくなるなあ。かわいい。
食べ終わったらリーファとケイトが皿を片付けてくれた。ゆっくり休んでいるように言って部屋を出ていく。
……よし、魔導論学の続きだ。これを機に全部読もう。
これでリーファに何か教えてやれたらいいんだけどなあ。うーん。




