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リベンジ

 そういえば火山のふもとにあるのになんで灼熱ノ渓谷なんだろう。昔はこの辺の地形が違ったとかあるのかな。

 そんなことを考えながら再びやってきました、このダンジョン。入った途端に暑い空気が体を包む。


「罠には気をつけろよ」

「はーい!」

「おー」


 ダンジョンは大まかな形は変わらないが、罠の位置なんかは変わることがある……らしい。同じダンジョンに入ったのはこれが初めてだからな。実際に見ていない以上はなんとも言えない。

 黒い岩壁に触れないように通路の中央を、足元に気をつけて進む。


「ケイトはダンジョンに入ったことあるのか?」

「結構あるぞ。三階層へ行く前に引き返すんだけどな」

「へぇ、じゃあ道案内とかできるのか?」

「おうっ、任せとけ!」


 ケイトはドンッと胸を叩く。小さいけど頼もしいな。

 道を進んでいると、レッドスライムが天井から落ちてきた。もう慣れたものだけど、うっかり直撃なんてしようものなら軽いヤケドじゃ済まなさそうだ。


「オイラがやる!」


 ケイトは巨大な肉切り包丁を構えている。あの体でよく持てるなあ。

 包丁を振り上げて飛び上がったケイトは、跳ねるスライム目掛けて振り下ろした。全体重を乗せた一撃は半透明の体を容易く切り裂き、核を真っ二つにした。途端にスライムの体が崩れ、べちゃりと床に落ちる。


「ふー! どんなもんだいっ」

「やるなあ、ケイト。見事な一撃だったぞ!」

「ケイトちゃんすごーい!!」


 リーファがパチパチと手を叩く。ケイトは満更でもなさそうだ。頭を掻きながら「へへ……」と照れている。

 ケイトも前衛だと聞いた時はどうしようかと思ったが、これなら問題なさそうだな。むしろバランスがいいかもしれない……多分。


「よーしっ、この調子で進んでいくぞ!」

「おー! スライムはオイラに任せろー!」

「こ、コウモリならアタシだってやれるもん……! コウモリこーい!!」


 賑やかなまま、それでも罠には気をつけながら通路を進む。

 何度も魔物に遭遇しながら辿り着いた分かれ道で一度立ち止まった。


「前は右に行くと宝箱があったんだよな」

「うんっ! そこで凍氷石を見つけたんだよ〜」

「おー、右の宝箱は結構な確率で凍氷石が出るらしいぞ。罠になってることもあるけどなー」


 罠か。今回はダンジョン踏破が目標だし、真っ直ぐ階段がある左へ行ってもいいかもな。

 ……ということを二人に言うと頷いてくれた。

 そんなわけで左の通路をまっすぐ進んだ俺達は、階段の前に立っている。耐熱薬の出番である。


「うわ、スーッとする匂いだ」


 ミントを凝縮したような匂いがする。嫌な匂いってわけではないけど……いや、ずっと嗅いでると鼻がおかしくなりそうだな。

 味もミントみたいな感じなんだろうか。意を決して、一気にごくり。

 ……。


「まっっっっず……」


 思わず口を押さえた。なんとか飲み込めたけど、これヤバいわ。

 なんだろう。これ……何だ? どう形容すればいいのか分からない味だ。苦いような酸っぱいような、それに金属臭さと不自然な甘さ。

 ドロっとしていて、舌にまとわりついてくるのが嫌だ。


「うええ〜、変な味〜!」

「これでも改良されてきた方らしいぞ? 昔なんて耐熱薬を飲みたくないからって理由でダンジョン攻略諦めるヤツもいたらしい」

「これよりもっとまずかったのか? そりゃやめたくもなるだろうな」


 決めた。さっさと踏破しよう、そうしよう。あと二本あるけど何度も飲みたくはない。

 でも効果は確かなようで、スウッと熱が引いていくのを感じる。涼しいくらいだ。

 試しに階段を降りてみる。


「おお……暑くない」


 あんなに暑かった二階層も平気だ。少し暖かくなったと感じるくらいで、むしろ心地良い。


「わ〜! ホントに暑くない!」

「相変わらずすごい効果だな、耐熱薬。オイラとしちゃもっと良い味にしてほしいところだけど」

「同感……」


 さて、耐熱薬の効果は三十分だ。できればこの三十分で次の階層に行きたい。

 所々ヒビ割れた岩壁から滲む赤い光のせいか、上の階層より少し明るく見える。それでも道の奥は何も見えないんだけどな。


「あ、足元。そこ少し色が変わってるだろ? 罠だ」

「えっ、これも罠なの!? わかりにくいよ〜!!」


 ケイトが指差した先、黒い岩の床の中に灰色のボコっとした箇所がある。

 こういうタイプもあるのか。


「ありがとう、ケイト。うっかり踏まないようにな」

「はーいっ」

「ちなみにあれ、どういう罠なんだ?」

「一度発動したのを見たことあるけど、天井からレッドスライムの群れが降ってくるぜ」

「うわ……」


 いくら耐熱薬を飲んでるからって、レッドスライムがまとう炎に触れても大丈夫とはならないだろうな。うっかり罠を踏んだ冒険者は大丈夫だったんだろうか。


「全身ヤケドしてたけどポーションがあったから大丈夫だったぞ」

「……あっ!」

「どうしたの?」


 俺は大事なことを思い出した。あれだけ準備万端で挑もうって思ってたのに!


「ポーション、買うの忘れてた」

「そういえば買ってないね、ポーション」

「おいおい冒険者の必需品だぞ……」


 ケイトがじとりと俺を見てくる。うっ、視線が痛い。


「うっかりしてたよ」

「しょうがないなー。オイラが持ってきた分があるから、万が一の時は使っていいぞ。低級ポーションだけどな」

「ありがとう、ケイトちゃん!」

「悪いな、助かるよ……っと、敵だ」


 カサカサと嫌な音がして弓を構える。

 現れたのは赤い体の巨大カマキリ、レッドマンティスだ。こちらを警戒しているのか、鎌を広げて威嚇している。


「おりゃあああ!」


 ケイトがレッドマンティスの鎌を切り落とす。あの体のどこにそんな力があるんだ?

 リーファも杖をぶん回してポコポコと殴っている。いや、ポコポコなんて可愛らしい表現じゃ合わないな。ありゃボコボコだ。


「わわっ」


 もう片方の鎌がリーファ目掛け振り下ろされる。杖で防がれたところを、ケイトの肉切り包丁が切り落とした。

 両腕を失ったレッドマンティスは耳障りな金切り声をあげて後退し始める。そこにリーファの杖が襲いかかった。

 うわあ……レッドマンティスの体ってそれなりに硬いはずなんだけど、メキョメキョだ。こわ。

 頭を潰されたレッドマンティスは断末魔をあげる間もなく地面に倒れ伏す。

 念の為に弓を構えていたけど、二人だけで倒してしまった。俺のパーティ、物理メインになってないか?


「ふー! さっきはありがとう、ケイトちゃん!」

「なんてことないって! リーファ強いなー!」

「えへへ」


 リーファの細い手がケイトの柔らかな髪を撫でる。

 ……まあ、微笑ましいからいいか。可愛いは正義ってことだな、うん。

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