鼠の料理人
「あー、暑かった!」
「やっぱり街の中は涼しいね〜」
ダンジョンから出た俺達はヘトヘトになっていた。
暑さはそれだけで体力を奪っていく。あまり長時間はいたくないダンジョンだ。
それにしても、あの異様な暑さをどうやって切り抜ければいいんだろう。何か特別な装備でも必要なのか……?
空はすっかり赤く染まっている。思ったより長く中にいたようだ。外に出ていた屋台もちらほらと片付け始めている所がある。
「お腹すいてきたなあ。ね、あの屋台まだあいてるかな?」
「どうだろう……行ってみるか?」
「うんっ!」
夕暮れの下を二人で歩く。たしかこの辺にあったはずだ。辺りを見渡すと、あのネズミの獣人を見つけた。
どうやら片付け始めているようだ。近づくと、俺達に気づいたらしく笑顔を向けてくれる。
「おっ、オマエらか! ダンジョン攻略は終わったのか?」
「それが二階層目がやたら暑くて引き返してきたんだ」
「ああ……そうか、初めて来たんだったな。ここのダンジョンはニ階層以降は備え無しじゃ通れないんだ」
獣人はダンジョンの入り口に近い屋台を指差す。瓶詰めの青い液体が置かれている。
「あそこで耐熱薬を買うんだ。飲めば三十分間は熱に強くなるからな」
「耐熱薬……そんなものがあったのか」
「キレイな色だな〜って思ってた! そんなにすごい薬だったんだね」
「あの屋台は毎日出てるから、明日の朝にでも買ったらどうだ? 必需品だぜ」
気付いておけばよかったなあ。てっきり回復薬か何かの類だと思ってた。そうだ、回復薬も買っておかないとか。そろそろ怪我してもおかしくないしな……。
まあこれも経験の一つということにしておこう。明日は準備万端で挑むんだ。
そう思ったところで、くぅと可愛らしい音が鳴った。リーファがえへへとはにかむ。
「店員さん、料理残ってない? お腹すいちゃったんだ」
「ああ、売れ残ってるのがいくつかあるぞ」
「じゃあこの揚げ物にしようかな」
「アタシは……うん、もう一回オムレツにしようかなぁ。お昼に食べたとき、すっごく美味しかったの!」
「あ、オムレツもいいな。両方で」
輪っか形の揚げ物とオムレツを紙皿に入れてもらう。
冷えたそれは少ししなっとしていたが、それでも美味しかった。これは……なんだろう? 衣は薄く、中身は白くてぷりぷりしてる。
「これって何の揚げ物なんだ?」
「ああ、これはホワイトスクイッドだよ。見たことないのか?」
「本で見たことはあるけど……あれって食えるのか」
スクイッドは村長の家にあった事典で見たことがある。何本も足がある奇妙な生き物だ。少なくともトーガ村では実物を見たことがない。周囲を森に囲まれてるからだろうけど。
「アタシ、海の魚は時々見るけどスクイッド? は見たことないなあ」
オムレツを食べていたリーファがぽつりと呟く。少しテンションが低いように感じるのは気のせいか?
「ここは海からもそこそこ近いからな。魚介類は豊富だし、結構な量が獲れるんだ」
「へぇ」
この食感がクセになりそうだ。今度は揚げたてを食べてみたいな。
俺達が食べている間に片付けを終えた獣人は、ふと思いついたように言葉をこぼす。
「そういえば二人はどうしてこのダンジョンに来たんだ? ソシエゴ獣王国の出身じゃないんだろ?」
「俺達、最終目標が忘却ノ迷宮なんだ。で、そのためにダンジョンを巡ってる途中」
「なるほどなぁ」
屋台に寄りかかった獣人は何かを考え込む。
「……ダンジョン巡りってことはこの大陸を見てまわるんだろ?」
「まあそうなるな」
「オイラさ……行方不明になった姉ちゃんを探してるんだ。だから冒険者になったんだけど、獣王国の冒険者はあまり外国に行かないから仲間が見つからなくて」
行方不明? マオが拾った子供といい、縁があるな。まさかこの国って行方不明者が続出してる……ってこともないだろうし、偶然か。
「だから……オイラのこと、仲間にしてくれないか?」
「え?」
「オイラ、一応戦えるんだ。それに美味い料理だって作れる! なぁ、ダメか?」
まさか仲間になりたいと言い出すなんて。ありがたい話だけど……俺一人で決めるわけにもいかないな。
「リーファ、どうだ?」
「えっ?」
黙々とオムレツを食べていたリーファはぽかんとしている。聞いてなかったな?
「姉を探していて、俺達の仲間になりたいそうだ」
「あっ、うん。いいと思う! アタシは歓迎だよ」
「それじゃあ……!」
獣人はパアッと顔を明るくする。でも、その前に一応確認はとっておかないとな。後からやっぱりやめるってなったら色々と大変だ。
「このパーティは忘却ノ迷宮の攻略がメインだ。だからお前のお姉さんの捜索をメインにすることはできない……それでもいいか?」
「ああ、いいぞ! 外に出れば姉ちゃんの情報も入ってくるかもしれないしな」
「気に留めるようにしておくよ」
「お姉さん見つかるといいね!」
オムレツを食べ終えたリーファがぐっと拳を握る。テンションが戻ってるな。食べるのに集中してただけか?
獣人は大きく頷くと、トンっと胸を叩いた。
「オイラはケイト・ラット。これからよろしくな! えっと……」
「俺はエスカ・トーガだ」
「アタシはリーファ・レヴァ! よろしくねっ! えっと……ケイトちゃん? ケイトくん?」
リーファが首を傾げる。マオの性別をすぐに見抜いた彼女でも迷うのか。改めて見ると……たしかに、性別が分かりにくい。
ケイトはニカっと歯を見せて笑う。
「おー! よろしくな、エスカ! リーファ! オイラのことは好きに呼んでくれ!」
「うーん……じゃあ、ケイトちゃん!」
こうして鼠獣人の料理人、ケイト・ラットが俺達の仲間に加わった。
もっと賑やかになる。よし、明日こそダンジョン攻略するぞ!
「ちなみにケイトってどうやって戦うんだ?」
「戦闘用の包丁があるんだ! それで、ザクっと!」
「ってことは前衛なんだ! アタシと同じだね!」
「えっ」
「……また前衛が増えるのかあ」
いいけどさあ!




