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ソシエゴ獣王国

 さて、この世界には魔法というものが存在しているわけだが、一言に魔法と言っても色々と種類が存在する。

 中でも扱いやすいのは単純な構造……四大属性と呼ばれている火、水、風、土だ。次点で光と闇。雷や氷となってくると複数の適正が必要になるようで難易度が増すらしい。


 俺もなあ、何か一つくらい魔法使ってみたいよな。未だに体の外へ魔力を集める感覚が分からないせいで、そこから先に進めないけど。

 それでも知識だけは入れておくために魔導論学の本を読んでいると、あっという間に夜が明けた。


「おーい、朝だぞー」


 声をかけても返事がない。熟睡してんなあ。


「おーい」


 テントを覗くと、マオがもぞもぞと起きようとしているところだった。くしくしと目元を擦った彼女は、目を閉じたまま寝袋に両手を置いた。ふみふみとゆっくり寝袋を揉んでいる。


「マオ?」

「ん……?」


 目を開けた彼女と視線がかち合う。ぽっと顔を赤らめた彼女は、ふいっと目を逸らした。


「……おはよう」

「うん、おはよう。ほらリーファ、起きろ〜」


 なんか恥ずかしそうにしてるから見なかったことにしよう。

 リーファとマオがのそのそとテントから出てくる。

 三人で干し肉をかじり、その辺に生えてたハーブを煮出したお茶を飲む。ハーブというかほぼ雑草みたいなものだけど、これが意外と侮れない。軽く炙ってから煮ると香ばしくて美味しいんだよな。

 一息ついたら焚き火の始末をした。しっかりしないと、俺達のせいでうっかり火事になんてなったらシャレにならない。

 さて、これで出発する準備は整ったわけだが……。


「マオはどうするんだ? 一度街に戻った方がいいんじゃないか?」

「……でも、オレは」

「もしかしたら探し人も帰ってるかもしれないしさ。それに結構ボロボロだろ?」


 汚れているのは服だけじゃない。よくよく見てみればあちこちに擦り傷ができている。きっと木の枝なんかに引っ掛けたりしたんだろう。


「……そう、だね。この森を一人で探すのは骨が折れる。一度帰るのもアリ、かな?」


 口元に手を当てたマオは、少しばかり目をさまよわせて呟いた。半ば渋々といった具合だけど街に戻ることを受け入れてくれて嬉しいな。

 正直心配だったんだよ。放っておくと見つかるまでずっとこの森にこもってそうで。前に感じた妙な気配のこともあるし、放っておくのはなあ。


「それじゃあ行こう! マオちゃんっ!」

「ああ……っ、ちょっと、引っ張らないで」


 マオの手をとったリーファがそのままぐいぐいと進んでいく。道行く仲間が増えて嬉しいんだろうなあ……微笑ましい光景だけど、マオは少し戸惑っているようだ。


「ほら手を離してやれ。困ってるだろ」

「あっ、ごめんねマオちゃん!」

「……まあ、いいけど」


 パッと離された手を軽く振ったマオは、ふいっと明後日の方向を向いた。あ、ほっぺた少し赤くなってら。

 指摘しようか少し悩んで、やめた。わざと怒らせる趣味はないしな。


「今日で街に着くかなぁ?」

「多分な。昼ぐらいには着くんじゃないかと思うけど……なあ、マオは街の方から来たんだろ? 大体どれくらいかって分かる?」

「ここからなら昼前には着くと思う。何事もなければ、だけど……」


 三人で歩くこと、数時間。やっと森を抜けることができた。

 アマルガ王国の方は背が高い草が多かったけど、ソシエゴ獣王国の方は背が低めの草が多い気がする。それに枯葉のような黄金色だ。

 少し遠くに壁で囲まれた街が見える。


「あれがソシエゴ獣王国か」

「わあ……! 王都より大きいね!」


 アマルガ王国は王都の周りに街が点在していた。でも、地図を見る限りソシエゴ獣王国は巨大な街が一つあるだけだ。もちろん、その中で区画分けされているのだろうけど。


「ふーん……そんなに大きいの?」

「マオは獣王国出身なんだろ? 他の国を見たことってあるのか?」

「いや、ない。森に出たのもこれが初めてだった」


 街まで歩きながら時折雑談する。俺達の故郷だったり、マオのことだったり。ちなみにマオが好きな食べ物は焼き魚だそうだ。ぽいと言えばぽいな。

 街につくとギルド証を提示して中に入った。ぱっと見で王都とは街並みが違うことが分かる。なんというか、こっちは白やオレンジがかった色が多い。

 王都とはなんか……空気が違うな。少し香ばしいような……?

 それに歩いている人々も全く違う。獣王国というだけあって獣人がかなり多いな。アマルガ王国じゃ見かけなかった、顔つきが獣寄りの獣人もかなり見かける。


「街並みが全然違うね! それにもふもふな人がいっぱい!」

「そうだな。違う国に来たんだって実感するよ」

「外国の街並みか……」

「マオちゃん、気になるの?」

「まあ、多少は」


 さて、ここからどうしよう。俺達の目的地、ソシエゴ獣王国にあるダンジョン『灼熱ノ渓谷』はここからずっと東にあるんだ。だからまずはこの獣王国を横断する必要があるんだけど……っていうのを、マオに伝えた。


「そういうわけだから俺達はこのまま東に行こうと思う。マオはどうする?」

「一緒に行く? ダンジョン攻略、楽しいよ!」


 そうか、リーファはマオが人探しをしていることを知らなかったな。マオは緩やかに首を横に振った。まあ、そう返すだろうなとは思ってたよ。


「やめておく。オレにはやらなくちゃいけないことがあるから……ここでお別れ」

「そっかぁ……また会おうね、マオちゃん!」

「……うん。機会があれば」


 マオはこれからも拾ったという獣人の子供を探すのだろう。俺達も気にかけておかないとな。ああ、そうだ。それとあの噂についても言っておくか。


「近頃魔物が活発らしい。気をつけろよ」

「ああ、そっちも気をつけて。それじゃ、また」

「またね〜!!」


 リーファが大きく手を振る。マオは控えめに、小さく手を振り返した。俺も振っておこう。またどこかで会えるといいな。

 マオの姿が人混みに紛れるまで、リーファは手を振り続けていた。さ、俺達も目的を果たしに行こう。

 そうだ、マオの探し人についても共有しておかないとな。あの独特な似顔絵については……言わないでおいてやるか。本人に自覚はないらしいけど、あれは中々に独創的すぎるからなあ。

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