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魔力と馬車

 ダンジョン街ビギンズへ続く道を歩きながら、昨日のことを思い出す。

 オーガと戦っていた時。それまでは分厚い皮膚を貫けなかった矢が、最後の一発だけは貫いていた。あれは一体どういうことなのだろうか?

 このままじゃ死ぬ。オーガの金棒を前にそう思った瞬間、体が熱くなったのを覚えている。そしてその熱が腕を伝っていったことも。


「……試してみるべきか?」


 視界の端に大きめの岩を見つけ、近づく。普通の矢なら弾かれて終わりだろうけど……あの時の矢なら、あるいは。

 息を大きく吸いこみ、吐き出す。ゆっくりと弓を引き、体の中の何かへ意識を向ける。

 ある。確かに、あの熱が……体の中心から全身へと巡っている。それらを指先に集め、矢へと流し込む。

 ……うん、いい感じだ。


「これで再現できるはず……!」


 弦を離す。空気を切り裂いて真っ直ぐに飛んだ矢は、岩に突き刺さった。刺さった矢を少し引っ張っても抜けない。


「うわ、がっつり食い込んでる。すごい威力だな」


 この技を咄嗟に習得したのか。これが火事場の馬鹿力ってやつ?

 問題は少し時間がかかることだ。これを普通に射るのと同じ速度で……それこそオーガを倒した時と同じ速度でできるようになれば、相当な武器になる。


「練習あるのみ、だな」


 そういえば、村にいた元冒険者が言っていたことを思い出した。曰く、世界には魔力というものが存在していて、それを体に取り込み循環させることで魔法を使えるようになる。その中には身体能力を強化するものや、武器を強化するものもあるって。

 この熱が魔力なのか。初めて意識した気がする。

 よし、道中で魔物に遭遇したら使うようにしてみよう。

 そんなことを考えたからだろうか?


「だ、誰か助けてくれ!」


 ……狼のような魔物、コボルトに襲われている馬車を見つけてしまった。冒険者らしき人影も見えるが、コボルトの数が多く苦戦しているようだ。

 仕方ない、助けに入ろう。

 狙うは冒険者から程遠い場所にいる奴ら。身体中の熱を指先へ集める。うん、さっきよりはスムーズになったな。

 冒険者達はこちらを気にする余裕もないらしい。次々とコボルトを射っていく。数を重ねるごとに魔力をまとわせるスピードが上がっていく。

 不利を察したコボルト達が逃げていく頃には、かかる時間が二分の一にまで短縮されていた。我ながらかなりの成長速度じゃないか?

 三人いる冒険者の内、一人は怪我を負ってしまったらしい。もう一人が手当にあたっている。

 馬車に近づくと、リーダーらしき男がこちらを向いた。


「すまない、助かったよ」

「礼はいいさ。それより……彼の怪我は大丈夫そうか?」

「ああ、少し斬られてしまって。ポーションもないし、暫くは安静だな……」

「そうか」


 そこまで重傷ではないらしい。良かったと言えば良かったけど、冒険者は体が資本である以上、暫く安静にしなければならないのは痛いだろうな。

 女冒険者はチィーユ草を刻んでいる。怪我をした男冒険者の傷口に当てるつもりなのだろう。チィーユ草はポーションにしてこそ真価が発揮されるが、それ単体でもそれなりの効果はあるからな。無いよりは遥かに治りが早くなる。


「お、終わったのかね? ワシの荷物は無事か?」


 馬車の中からでっぷりと肥えた男が顔を出した。明らかに冒険者ではない風貌……この馬車の持ち主だろう。この冒険者達は護衛といったところか。


「ええ、彼のおかげで片付きました」

「彼ェ……?」


 男は俺を見るなり顔を歪ませた。おいおい、こっちは一応恩人だぞ。なんだその顔は。


「耳長か。見目はいいが性根が腐りきっておるという……穢らわしい、穢らわしいなァ?」

「旦那、彼は恩人です。彼がいなければ俺達は押されていたでしょう」


 なんだよ、俺以外のエルフってそんなに言われるような性格なのか? 俺はこれでも……そうだな、どっちかと言えば善良と言えるくらいには気をつけてるつもりなんだけど。

 リーダーが間に入ってくれるが、男はますます顔を歪ませるばかりだ。


「耳長の力を借りただとォ? 貴様ら、冒険者の端くれにも置けんなァ!? それだけでなく雇い主に口利きするとは、どうやら立場というものが分かっておらんと見える!!」

「あー……すみませんでした。ただ、安全を考えるなら彼にも同行してもらうべきかと……」

「ならんならん!! 貴様らだけで何とかせい!!」


 冒険者達は眉をひそめている。ありゃイラついてるな。随分とハズレの依頼を引いたみたいだ。

 この道を通ってるってことはビギンズに向かってるんだろうけど……でもなあ、ここまで言われて手伝うってのもなあ。雇い主も嫌がってるし? とはいえ放っておいてこの冒険者達に死なれでもしたら寝覚めが悪い。

 どうしようかな、これ。

 手当を終えた女冒険者が顔を上げる。


「ですが見ての通り彼が怪我を負っていて、もし同じように襲われた場合、とても二人では対処できないかと……」

「軟弱者め、雇う相手を間違えたわい! もし馬車に傷がつきでもしたら賠償してもらうからなァ!!」

「そんな……」


 うーん……うーん。なんとも不憫だ。仕方ない、こっそり後を追って、もし何かあれば手助けしてやるか。

 こんな依頼主に当たっても、受けた時点で自己責任だっていうんだから世知辛いよなぁ。かわいそうに。


「それじゃ俺はこれで……」

「すまない、手を貸してくれたこと感謝する」

「おい何をしておる! 出発じゃ出発!」

「あの、怪我をした彼だけでも馬車に乗せてもらうことは……」

「ならん! 血で汚れるだろうがァ!!」


 ……もう止血は済んでるっぽいし乗せてやれよ。脚ケガしてんだぞ。

 少し離れて様子を見てみる。


「マジで酷いな、ありゃあ」


 馬車が動き始める。見ている感じ、少し早めに走ってるな。冒険者達は早足でついて行ってる。

 あのケガしてる冒険者なんて、脚を引きずってる。

 ……うん、やっぱりこっそり手助けしてやろう。余計なお世話かもしれないけど、あまりにも見ていられない。一応あの馬車もビギンズ行きだろうし、どの道向かう方角は一緒だ。

 ビギンズまで後どれくらいかな。このまま何もなければいいんだけど。

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