(2)
ジェドは横の網を掴み、僅かに身を乗り出して進行方向を凝視する。
体は熱く、胸騒ぎが続く状態に少々苛立っていた。
今朝、人魚の襲撃が治まった後、フィオに無理矢理目を覗き込まれた事を思い出している。
当時は彼女を押し退けたが、本当はそうされる事に心当たりがあった。
空島から戻ってから独り、以前よりも考えに耽っている事がある。
何の気配もない今は、ただ長閑に揺れる海に包まれていた。
潮風が時に、しぶきと共に鼻の奥を擽る。
ビクターは鼻をすすりながら、舳先から海を見下ろした。
あの蠢く人魚を思い出すと、体が勝手に漁船内に向いてしまう。
そこへグレンが、無灯のランタンを配っていた。
彼が1つに灯すと、その火を順に回すよう指示する。
ビクターは、手渡されたそれをを眺めた。
複数の穴が開いた薄い金属でできた容器は、アルミやスチールと呼ばれる素材らしい。
だが自分達にとっては、それがランタン以外にどのように使われていたのか、大人達の話を聞いても想像に留まる。
ビクターは腰に備えていた槍を抜くと、あまり光が漏れないように見えたそれに、穴を増やした。
通気性が良過ぎても消えてしまう。
それを考慮しながら、貫通作業を数回繰り返した。
フィオが灯すと、傍のシェナに火を移す。
食材から集めた油分はここでも貴重な燃料だ。
布から取った数本の繊維を束ね、油分をよく浸透させた芯を量産するのも、島で留守番する者達の仕事だ。
シェナが持つ容器は大きく、火が煌々と程良い隙間風を受けて揺れている。
それを見ていたシャンディアはつい、身を引いた。
「そんなに熱いの?」
彼女は小さく頷くも、シェナは肩を竦めて船縁に向かう。
フィオがジェドの元へ向かおうとするところ、マージェスが火を取りにやって来た。
その間、フィオは彼の顔をそっと覗く。
普段通りの表情をしているが、海を見ている間はどうなのだろうか。
気にかけている内に彼が立ち去ると、入れ替わるようにジェドが飛び込んで来る。
しかし彼のランタンの芯は着火が悪く、2人を包む静寂が暫く続いた。
風のせいかと、ジェドが体の位置を変えながら集中するところ、フィオはそっと訊ねる。
「……目、平気?」
ジェドはフィオに一瞬視線を向けるが、再びランタンに目を逸らした。
「何が」
無愛想な様子は、特に珍しい事ではない。
「スタンが言ってたの、思い出した。
目が違って見えたって」
「……いつ」
「人魚と戦った時」
「……さぁ」
フィオは、生じる間に違和感を覚えるだけでなく、彼との間に妙な距離を感じ、焦った。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




