(6)
「いつもの調子はどうしたレックス。
助かる手立てがある内はやめろ」
アイザックは言いながら、今でも植物を調べて調合を試していた。
日頃あっさりとした性格のレックスが抱く考えを、理解できない訳ではない。
4人が空島へ消えた間の恐怖が、僅かに過ぎる。
環境が一変し、漁にも出られず作物も嵐で殆どやられた。
今のレックスのように、皆の精神は不安定になった。
それでも火を保ち、餓死するまいとあらゆる手を尽くし、やっと光を見る事ができた。
嘗て以上の死など、あってなるものか。
自分達はここに、この世界に奇跡的に生き残り、良法を日々編み出しながら踏ん張っているのだから。
レックスのパートナーは目を拭い、大きく上下する彼の肩に額を当てる。
彼は閉じていた虚ろな目を開き、じりじりと首を横に向けた。
隣に、想い人がいる。
痛みと疲労の底を這い続け、声になったネガティブな思考。
だが、寄り添い続ける彼女の存在で多少、拭われた。
先程からこれを、どれ程繰り返しているのか。
右脹脛の負傷でありながら、激痛は大腿の付け根から全身にまで巡っている。
速い脈に合わせて伝導するそれに、時折声が漏れた。
傍に腰掛け、心配の目で見守るスタンリー。
漁船では颯爽と、それはそれは潔く動き回っていたレックスが変わり果ててしまった。
どうにか、自分が住む南の島の医療で救えないものかと思い続けている。
「何や悪いもんが入っとるなら、それだけでも吸い取れりゃいいが…」
潮風が建屋を軋ませる中、騒がしい声が聞こえ始める。
子ども達の声だと分かり、皆は扉に目を向けた。
一瞬の間も無く扉が乱暴に弾かれると、8人の子どもが一斉に寝どこまで傾れ込む。
後からグリフィン、少し間を空けて長老達が追いついた。
「レックス!つれてきたよ!
これシャ……シャ…?」
名前は何だったかと、ケビンは言葉を詰まらせる。
「このこ、にんぎょなのよ!」
「たすけられるかも!」
しかしだ
「あ…熱い…熱いっ!」
ビクターの背中に密着している時点で、シャンディアは熱くて悶える。
そこにまた、炎が揺らぐ家屋ときた。
「だろうな…」
思った通りだと、グレンにカイル、アリーやケビンの母、長老までが両手にバケツを持って現れては溜め息を吐く。
激しく押しかけた者達がシャンディアに施す事に、アイザック達は呆気に取られた。
レックスも束の間、痛みを忘れて異質な彼女を穴が開くほど見つめる。
シャンディアは体が潤うと、フラフラと寝床の彼に近付いた。
移動する度、真っ白な素足を伝って床に落ちる海水が、じわじわと水溜りを作り出す。
「見せて…」
レックスは肩を大きく弾ませた。
彼女は、痛々しい彼の右足に湿った冷たい両手を添え、凝視する。
その双眼はみるみる振動を起こし、水鏡のように変化した。
そして、1つの波紋を見せると、彼の身に起きた事態を映し出す。
漁船を大量に襲った人魚の群の中に現る、彼を襲った巨大な体格を持つ人魚。
シャンディアはその画を見るなり絶句し、顔を両手に突っ伏すと泪を流しながら、小さく謝罪を繰り返した。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




